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「わしが思うにジョセフ・ハーランはたぶん、ミネアポリスからこっちで一番いい町長だっただろうなぁ。理由は決まっとる、何にもせんからだが」
ロン・シェービー元サウスダコタ州知事
スウィング・シティには二本の
その二本の通りに生活に必要な全ての店が揃っている。
日用品をすべて扱うグーローセリー。飯屋。理髪店。ホテル。小間物屋。銀行。そして少し以前に
逆にそれ以外なんにもないと言っても良い。
その二本の目抜き通りが交差するところに大きな邸宅風の館が立っているのだが、それがスウィング・シティ町庁舎である。
庁舎の二階では町にとって重要な会議がたった三人の老人よって行われていた。
その三人とは。
街の治安を担当するジョン・スミス保安官にスウィング・シティの住民の全財産を預かる銀行頭取りのディック・デュボア。
そして町長のジョセフ・ハーランとなる。
日差しはその町庁舎のてっぺんに突き刺さらんばかりの位置から町を
もうお昼である。
現代風パワー・ランチを食べながら会議をしていた。
三人が囲む机の真ん中には今朝到着した至急電が一枚載っていた。
三人の誰もがもう二度とその紙を見たくないといった
町長のジョセフ・ハーランに至っては、ここだけの話しまだ電報のシステムどうして文字が電線を通して伝わるのか一切理解していなかった。また知る必要がないとさえ本人自身も思っていた。
至急電は一枚の紙で全て大文字で打たれていた。しかも相当急いで打ったらしく単語間のスペースがすべて省かれている。
『至急電、、、、、、
ヒューロン カラ スウィング シティヘ。
コチラハ レンポウソウサカン ダレン グスタフスン。
ソーントンゴウトウダン サクヤ ヒューロンギンコウ ヲ シュウゲキス。
ソーントンゴウトウダン ヨフケ カラ アケガタニカケ ロクメイデ
ニシヘムカフ。
ワレハ モッカ ズイジ エイイ ツイソウチュウ。
スウィング シティ チアントウキョクハ ユクテ ヲ ハバマレタシ。
以上』
「で、ジョン? このダルトン・グスタフソンという連邦保安官を知っておるのかね? 」
ジョセフ・ハーランが安物のステーキをギリギリナイフで切り取りむしゃむしゃ食べながら尋ねた。
「ダルトンではありません。ダレンですダレン・グスタフスンです町長」
「どっちでも良いではないですか」
と頭取のディック・デュボア。
ジョン・スミス保安官は、豆料理の方に移りつつあった。
「以前、ミネアポリスでの治安関係の会議で数度見かけたことがあります」
この二流の街で都会というと大概ミネアポリスということになる。シカゴやセントルイスなど地の果てである。
「どういった男ですか? 」
ジョン・スミス保安官は尋ねた頭取に対し向き直った。
ジョン・スミス保安官は大分言葉を選んでいるというより探しているという様子だった。
「知らんのかね? 」
「知っています」
保安官のこの返事は早かった。
「あまり悪い噂は聞きませんが、何事もきちっとやる男です、しかし
<
食事時ながら大きなため息が保安官以外の両名から漏れる。
「しかし、このステーキは牛革より硬いですな。町長もこんな肉を食っとるとは思いもしませんでした」
とディック・デュボア
「歯が鍛えられますぞ、ミスター・デュボア。ぐわはははははは。話はどこまで進んどりましたっけ保安官? 」
「グスタフスン連邦保安官の人となりがどうのこうのと、、いうあたりかと」
「あぁ、そうだった。で、実際のところどうなんじゃ? うん? 」
えらく色んな意味で<
ジョン・スミスはナイフとフォークをゆっくりと置き、コップの水を一杯飲むと町長、頭取の二人を順に見てから言った。
「正直申し上げて打つ手なしですな」
重く長い沈黙が執務室の真ん中に具えられた見かけだけ高価なテーブルを包んだ。
ナイフとフォークが皿に当たるカチャカチャキーキーなる音すらしなかった。
「スウィング・シティ治安当局と呼ばれても、この老人のわたしとパートタイムでやっておる
更に深い沈黙。
頭取が生唾を飲んだのがわかった。ここで、一番怯えているのはこの頭取のディック・デュボアのはずである。
強盗団が狙うのはおそらくこの街の銀行だろう。
ディック・デュボアが小さい声で言った。
「
「ボランティアで、それとも強制的にですか? 」
保安官が尋ねた。
「私はリベラルな方なのでボランティアをのぞみますが、、、、」
「ソーントン強盗団の連中は相当な
と町長。口と立派な髭をナプキンで拭きながら尋ねた。
「相当というより今現在セントルイスより西ではソーントン兄弟のロブとジェイムは使い手の中の五指には入るでしょう」
とジョン・スミス保安官、そして続けた。
「銃に関しては兄のロブより弟のジェイムズの方が厄介ですな。ブロンドで痩せており女のような美男子ですが恐ろしい早撃ちです。噂ではロブより早いという事になっております」
「グスタフスン連邦保安官よりこの強盗団についてお詳しいのですか? 」
「まぁ一応手配書で治安当局として見知ってはおりますが、、、、ソーントーン強盗団について語るのは食事時には不適切かと思いますが、、、、」
保安官はナイフとフォークをきちっと置くと語りだした。
「強盗団の中核は長兄のロブとジェイムのソーントン兄弟です。やっていることは、
保安官は無表情に言葉を続ける。
「紳士の皆さんの食事時なので、なるだけ修飾語句を廃して表現すれば、欲しいものは、奪う、犯す、痛めつける、殺す。その過程で何が起こったかお知りになれば、逃げ出すのが賢明だと思われるでしょう。連中は南北戦争時代は南軍のゲリラだっただけに爽快な冒険譚にして英雄視する南部人もいくらかは居ると思いますが、しかしどうですかね。奪う、犯す、痛めつける、殺す。の相手が戦争中は敵国の
「もはやクリスチャンではありませんな」
と更に小さい声で頭取のディック・デュボア。
食用の豚なみに丸々と太った給仕がコーヒーを運んできた。
昼食にデザートは無し。パワーランチにデザートは無し。
その時、ドアの小さな窓の影になにかが見えたような気がしたが保安官は続けた。
「スウィング・シティ小さいという理由だけに今まで大きな数ある強盗団に狙われなかったのです。それでこの私も選挙で選ばれて以来、タダメシを食わしてもらってきたようなものです。クリスチャンという言葉が出たついでに言わせてもらえば、私も保安官としてバッジをもらい聖書の上に手をおいて職務と義務と果たすことを宣誓をしている身です。逃げることだけは絶対にいたしません」
町長は給仕に向かい言った。
「わしのウィスキーの場所を知っとるか? 」
「はい、お
「迷うとる」
「あと、もう一点だけ、ソーントン強盗団ですが、おそらくですがこのスウィング・シティには襲撃目的でやってくるのではないでしょう」
「えっ」
町長、頭取の二人の表情が変わった。
「ヒューロンはここより三倍は大きな街ですからね。連中は相当稼いだでしょうこの街で得られないくらいの額を。またヒューロンこそ元
「おおっ」
保安官以外の二人の顔に生気が戻る。
ジョン・スミス保安官は続ける。
「ただ、行き掛けの駄賃ぐらいになにかは奪って行くと思いますがね。どんな子供でも一度は荒くれ者、カウボーイに憧れるものです。しかし
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