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「てめぇーそれじゃ最初と話が違うじゃねえか。人に延々としゃべらせて話を聞くだけ聞いてこれっぽっちっで済まそうなんて完全なイカサマだぜ。俺が字を読めねーってのでだまくらしやがって。おい、このクソ野郎。今すぐ5ドル、よこしな」

 ミスター・ランドール・リンデル



 ロブ・ソーントンが馬上から怪訝けげんな目をして後ろを振り返るのは二度目だった。

 ロブの弟のジェイムズ・ソーントンは三回目はないと踏んでいた。

 弟のジェイムズは生まれてからこの方、ずっとこの兄と一緒にいる。

 兄の目つきだけで機嫌がわかる。

 兄のロブは無駄なことをべらべらくっちゃべるタイプではない。

 兄の意に反するとフィアー&フィストぶっ飛ばされる

 文字通り痛い目に遭う。

 六人と六頭の馬が騎乗でポクポクと西に進んでいる。

 悪党なら誰でも知っている。

 西へ行けば行くほど安全なのだ。

 最近は北に行くって悪党も増えてきた。

 南はきな臭くなっていた。黒髪のもっとワイルドな連中が革命だとか騒ぎだそうとしていた。これをチャンスだとか思うやつは狂っていた。

 それより途中のテキサス州は住民のほうがそこいらの悪党よりタチ《性》が悪かった。

 ヒューロンを出たときは荷を運ぶ驢馬ろばが一頭居たが、最初はヒューロンの警備団レギュレーターズに追われ、次に州をまたげる連邦保安官マーシャルたちに追われていることに気づいてペースを上げると途端、、、、。

 驢馬ろば擱座かくざした。

 仕方なく驢馬ろばを捌き、無口にただ酔っ払うだけの小さなパーティを開き、六頭の馬に荷分けして進みだしたが途端ペースがガタ落ちになった。

 しかし、それぐらいヒューロンではボロ儲けをしたのだが、、、、。

 

 夜はあんなに冷え込んだのに日差しが強くなってきた。

 サウスダコタにというより中西部に四季折々の季節なんて生易しいものはない。

 夜は冬。朝は春。昼は夏。夕方は秋だ。

 言葉を喋るより先にこの天候の変化を理解しないと凍死するか脱水症状でくたばることになる。

 どうしてこんな土地が新天地なのだ。 


 ロブ・ソーントンが三度目に振り返った。

 弟のジェイムズは覚悟した。


つらいのか?」


 ロブが遅れがちになっている、ヒューイ・<ヒュージでっかい>ディッキンソンに尋ねた。


「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」


 返事は無言。

 前かがみになりくらから落ちそうなヒューイ・<ヒュージでっかい>ディッキンソンがゆっくりとテンガロン・ハットの奥の影から真っ赤な目をしてボブを見た。


「心配いらねぇよ、弾は抜けてるんだ。次の街で医者に縫い合わせてもらえればロス・アンジェルスにだっていけるぜ」


 ヒューイ・<ヒュージでっかい>ディッキンソンの声は祈りのように小さかった。


「そうだろう?ボブ」

「、、、、、、、、、、、、、、」


 ボブは答えなかった。そのかわりに馬を止めた。


「休みたいんじゃないか」


 ロブが言った。

 

「酒より水だな、、」


 そう言うとヒューイ・<ヒュージでっかい>ディッキンソンはどうにか片手で水筒を出して栓を開いた。

 もう一方の手は腹を抑えたまま。

 その手が真赤であることは今朝一番の日差しがソーントン強盗団全員に教えてくれていた。

 鞍にかがみしがみつくヒューイ・<ヒュージでっかい>ディッキンソンは馬をも跨ぐと言われた大男だったがもう既にヒュージでっかいですらなかった。

 それを見てトム・<キャクルおしゃべり>クラッカワーが言った。


「その腹と背の両方の穴から昨日の驢馬の肉と水が吹き出るんじゃないか?きゃははははは」


 トム・<キャクルおしゃべり>クラッカワーの喋ることにが一切ないことにジェイムズ・ソーントンはだいぶ前から気づいていた。


「黙れ、このオシャベリ野郎」


 ヒューイ・<ヒュージでっかい>ディッキンソンが水筒を落とすのと喋るのは同時だった。

 そして銃を抜くのも。

 ヒューイ・<ヒュージでっかい>ディッキンソンの銃口は最初、トム・<キャクルおしゃべり>クラッカワーに向けられていたが、やがてゆっくりとロブ・ソーントンにと旋回し方向転換した。

 

「撃たれたって仲間は見捨てないって約束だったよな」


 ヒューイ・<ヒュージでっかい>ディッキンソンの声はそこら中に響き渡った。

 

「あぁそうだ」


 ロブが答えた。

 ヒューイ・<ヒュージでっかい>ディッキンソンの目に若干の安堵の色が見えた。

 だが、銃口はロブに向けられたまんまだった。

 その刹那だった。

 ロブ・ソーントンは先に抜かれていたにもかかわらず早技で銃を抜くとヒューイ・<ヒュージでっかい>ディッキンソンに四発の弾丸をぶち込んだ。

 抑えの効かないヒューイ・<ヒュージでっかい>ディッキンソンの馬が立ち上がりヒューイとその大きな金貨が入った荷箱を振り落とした。

 ヒューイの馬馬はは明後日あさっての方角に走り去った。

 

「撃たれたって見捨てない。だが、撃たれた場所による、そうだろう? ジェームズ」


 ジェィムズ・ソーントンは答えず顔をしかめた。

 日差しがきつい。


「あんたはもうちょっとフェアなやつだと思っていたぜ」


 ハロルド・<ナスティ嫌な奴>ウォーカーが言った。


「この稼業にフェアなんて言葉はないぜ。フェアを求めるならどこかの牧場に入って堅気カタギにでもなりな。ついでに言っとく、そこの牧場でもフェアなんてない。てめらの分の分前を増やしてやったのによ。ジェィムズ、<キャクルおしゃべり>ヒューイの分を全員で分けな。俺の分を除いて」


 ロブがゴミでも吐き捨てるように言い捨てた。


 言い返されたハロルド・<ナスティ嫌な奴>ウォーカーは顔色一つ変えず、右横に噛みタバコのツバをぷぃっと起用に吐いた。

 ジェームズは馬から降りる前に自身の拳銃から空薬莢を二発捨て二発こめ直した。

 どんな早打ちでも銃を向けられたままで四発も相手にはぶち込めない。

 本当は俺のほうが早い。ジェームズがそう思いながら元ヒューイだったものに近づいていった。

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