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「何だ?そのガゼットなんとかって? それよりよ、当時のスウィング・シティに字の読めるやつが街の人口の半分も居たと思うのかあんた? 」

 ミスター・コリン・クィンテッド


 

「少し失礼」


 ジョン・スミス保安官は勢いよく席を立つと入口のドアを少し早めに開けた。

 すると、インクのシミだらけのサンバイザーに超大型の片眼鏡をかけた白髪の小さな老人がドアの開閉に合わせたように二三転し転がり来んできた。

 スウィング・シティ・ガゼットの主筆にしてCEOでもあるハップ・スペングラーその人である。

 これで老人が四人である。


「スパイがここに、、、、」


 と保安官が言うのハップ・スペングラーはさえぎるとものすごい勢いで喋りだした。

そしてひったくるように、机真ん中に置かれた緊急電の電信を手に取った。

 が、いっしょにコーヒーポッドをこぼしてしまった。


「聞きましたぞ、聴きましたぞ。我がスウィング・シティ・ガゼットの取材力をご覧うじまわせ。これぞ、このスウィング・シティ始まって以来の街存亡の危機。見過ごす、いや聞き逃すわけには行きませんな。ここに物証もきっちりと」


 コーヒーのシミだらけの電信を三人に突きつけるとハップ・スペングラーはけ反って高らかに笑い出した。


「勝利宣言とはこういうことを言うのですな」

「町長、街の行政執行における重大な機密漏洩違反でこのブンヤさんを逮捕することもできますが」

「いやいい、それより、ハップ、ビラで構わんので大至急活字を組んでこのことを町民全てに知らせてくれんか? そして<パンピング・キャッツ>に集まるように」

「支払いは、街債ですかな? 」


 町長は無言だった。

 やおらして町長のジョセフ・ハーランは視線をあげると言った。


「この件に関して、わしは正直関わりたくない。取り柄がないのだけが取り柄のような平々凡々たる男の元にもう嫁に出して子もなしとるが一人娘のケリーのやつと嫁さえ無事なら今ここで町長の職を辞しても良いとさえ思っとる」

「それは敗北宣言ですな。責任ある町長の言葉と思えません」


 とサンバイザーを直しながらハップ・スペングラー。


「ジョン、あんた自身の銃の腕前はどうなんだね? 」


 低俗新聞記者に揶揄されジョセフ・ハーランは怒りさえこもった声で強く尋ねた。


「正直、ホルスターを見ずに右手で銃のグリップを掴むこともできません」


 重い沈黙が再び部屋を包む。


「ワンペアーもないかもしれませんな、、、、」


 保安官ジョン・スミスに聞こえるか聞こえないかギリギリの小さな声でディック・デュボアが言った。


「ジョン、出来れば君にこの件に関する全てを任せたい。そんなものがあったかどうかさえ知らんが、特別全権特任町長に任命しても良い。どんな被害が出るか知らんがいや知りたくもないが、多少のことならこんな小さな町など、どうなっても構わん。少なくともわしの手にはおえん。人的、物的、金銭的被害もできるだけ小さくしたと努力した形跡さえあればわしが全てを合法的な行政措置として許そう。但し、荷の少ないあんたがこの街から逃げるのだけは許さん」


 町長ジョセフ・ハーランの一言一言は内容に反比例して強くしっかりしていた。


「町長に対し個人的な悪意はありませんが、そうなると最初から思っておりました。これも、軽い<イカサマ>ですな、町長。ハップ、悪いが再度頼む。ビラを作りスウィング・シティ住民全てを<パンピング・キャッツ>に集めてくれ。わしがみんなに説明する」

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