第6話 勇者の俺、仲間たちを説得しました②
「........」
無言。
言いたいことは言ったとばかりな表情。
サリアはそれっきり、腕を組んだまま目を瞑ってしまった。
...さて。
サリアは一旦いいとして。
戦士ライルと黒魔道士セシル。
残るはその二人なんだけど...
バカで単純だから、先にライルからいくか。
今もなんか屈伸しながら
...まじで何してんだろう。
まあ、いいや。
「ライル。もしかしなくてもお前、戦い足りねえんだろ?」
「!」
ライルの驚いた顔。
「さすがにエイトにゃ分かっちまうか!」
ヘヘっと、照れくさそうに鼻をこすりながら言ってくる。
この能天気でなんも考えてなさそうな顔。
...まったく、憎めないやつだ。
「当然、お前のことだからな。分かってるさ」
俺は今までの旅のことを思い出すようにして続けた。
「ライルって、いつも先陣を切って戦ってたよな。
お前は傷だらけになっても笑ってた。
どんなに敵が強くて負けそうなときでも、だ。
俺はそんなお前の笑顔にいつも救われていたよ」
俺はかつて戦った魔王軍の六将軍や封印されし古代の
「パーティのみんなが挫けそうでも、お前だけは必ず前をむいていたんだ...」
「へっ、照れるじゃねえか。まさかお前がそんな事言うとはな。らしくねえぜ、まったくよ」
ライルはこそばゆそうに伸びをした。
俺は続ける。
「『闘争だけが自分を裏切らない』。
...確かにこれは真理だ。
なるほど、そのとおりだと思う。
俺達はいつも争って勝つことで物事を成し遂げてきた。そこに綺麗事はなく、事実しかなかった」
ライルと視線が交差する。
「どこまでいっても己は己だし、他人は他人。
相容れないときはシンプルな解決法がふさわしい」
ライルはゆっくりと深く頷いた。
「だけど、ふたを開けてみたらどうだ。勇者は魔王と協力しちまった。そこに闘争はなく、魔物と人間の共生という理想論しかない。
ライル、お前はそれが心底気に食わねえ。
そうだろ?」
「...よく、分かってるじゃねえか」
斧を一振りぶん回す。目つきが変わった。
「だが、もうこれは決まってしまったことだ。
今更変えられない」
「なら、押し通るまでだ」
ライルは魔王様に敵意を向けた。
その紅い
この地上で最も強い生物と戦えるとあり、
闘志が
「...エイト。まさかとは思うが、止めてくれるなよ?」
ライルは睨むようにして俺を見た。
「ふっ、まさか。お前の信念に水は差さないさ」
俺は振り返り、魔王様を見る。
「魔王様。申し訳ないですが、アイツの望みを叶えてやってくれませんか」
「えっ?だけど...。ほんとに良いの?」
魔王様は不安そうに俺を見る。
それがライルに伝わったのか、ライルは左胸を親指でトントンしながら、
「心配しねえでくれや。
アンタはエイトの婚約者様だ、
と、爽やかに笑った。
「えっと、そういうことじゃ、
ないんだけどなぁ...」
魔王様は苦笑しつつ、呟いた。
それから。
ライルは
さてと。
「このコインが床に落ちたら開始とします。
両者、準備は宜しいですね?」
「あぁ。いつでもいいぜ」
「わたしも、大丈夫ではあるけど...」
準備はできているとの返答。
俺は頷き、コインに力を込め、素早く弾いた。
ピンッ。
宙に上がるコイン。
キラキラと輝くそれは、辺りに漂う緊張感からスローモーションのように感じられた。
ゆっくりと、床に着いた、...そのとき!
「でぇいやあぁぁぁぁ!」
ライルは、ぶんぶん雑に振ん回していた
これは、会心の一撃だ!
魔王六将軍が一人、『不死身のペスタ』を一振りで消し去ったときと変わらぬ威力!
伊達に勇者パーティの一員ではない。
俺も思わず舌を巻いた。
しかし。
...ガンっ。
少し、鈍い音だけが響く。
「.......」
見ると、魔王様の変質化した腕によって、難なく受け止められていた。
そしてーーー。
「えいっ」
ドッッッッガアアアァァァァン!!!!!!!
魔王様が緩く適当に腕を振っただけで、ライルは魔王城の壁を突き抜けて星になった。
キラン☆
うわぁ、まじか...(ドン引き)
「えっと...。魔王様。
これは、少し、やりすぎなのではないでしょうか...」
魔王様は心外とばかりに可愛らしく頬を膨らませて、ぷんぷんした。
「だ、だって!
さっき、いいの?って聞いたじゃん!
わたし少し不器用だから手加減できないよ!」
...少し?
少しどころか、思いっきりじゃない?
「いや、でも...」
多少予想はしていたとはいえ、これほどの圧倒的な戦闘力。
壁が人型の穴空いちゃってるよ...
俺は、星になって消えたライルの命が心配になった。
...まあ、あいつバカだし大丈夫か!
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