第5話 勇者の俺、仲間たちを説得しました①

魔王様との婚約に成功したあと、心の中で歓喜の舞を踊っていると...


「あの、ところで、貴方の仲間は大丈夫なの?」


魔王様が俺の袖を引っ張りながら、

おずおずと問いかけてきた。


「へ?」


仲間?

...あっ、仲間かぁ

...なーんか忘れてんなーと思ってたら、そういえば俺の仲間放置したまんまだったわ...


俺が恐る恐る仲間たちを見渡すと、

おのおの強烈な目力めぢからで見返してきた。

...怖っ。


「ゆ、勇者様ともあろう方が、魔王とお近づきになるなんて...!」


「そうだぜエイト!

バトルがなきゃ、俺達の熱い想いはどこへ行く!?」


「勇者様!私との未来はどうなるの!?」


やべ、みんな怒ってるわ...

ど、どうしよう...

と、とりあえず誤魔化さなきゃ。


「お、おう。分かった分かった。

stay stayまあ落ち着け。順番に行こうじゃあないか」


俺はおもむろに白魔道士サリアを見据えた。

キリリとした顔で言う。


「...サリア。思えば、お前との仲は、俺が勇者になって初めて村を救ったときだったよな」


「...そうですね」


サリアはゆっくりと頷いた。

目元は前髪に隠れて見えない。


...行けるか?


「いろんな町や村に行って、魔物に畑を荒らされて困っている人を助けたり、魔王軍から人質を助けたりとか色々あったよな」



「...はい」

サリアの、何か、含みの有りそうな声。


「その度にお前はこう言ってた。『魔王なんて居なければ良かったのに』」


「...ええ」


今まで聞いたこともないほどの暗い声。

前髪から覗く黒瞳こくとうが妖しく光る


...いや~、無理そー

まあ、ギリギリまで粘ってみるか。


「でも、こうは思わないか?

戦争ってのは、お互い言い分があって始まるもんだ。理由なくやる奴なんて居ないさ。

現に魔王領だって飢餓で苦しんでる。

やむにやまれぬ事情ってやつがあったんだ。

幸い俺達の王国は豊かな大地と恵まれた気候がある。

お互い手を取り合うことも可能じゃないか?」


俺の議会演説ばりの熱弁。

...フッ、これは行けるかもしれんな。

俺がやり切った感を出していると...


「...でも」

サリアは聞き取れないほどの小さな声でつぶやく。


「ん?」


「でも!」

一転、せきを切ったような大きな声。


「...魔物に殺された方はどうなるんですか!?

親を亡くした子供たちだっているんですよ!?

住む場所を追われた、そんな方たちだって...!」


サリアの感情が奔流する。


「そ、それは...」


「なのに!

...なのに、魔王と協力するなんて、手を取り合うなんて、私には出来ません!!」


俺を睨みつつも、涙を流しながら...


「あまつさえ、勇者様ともあろう方が!

やれ結婚だ、婚約だなんて!

私達のことバカにしてるんですか!?

信じられません、こんなの!

魔王を止められるのは!

女神の加護を受けた貴方しかいないんですよ!?」


赤くなった目で俺を見据える。

赤子のように泣きじゃくって。


「サリア...」


「でも」

しかし、急に彼女は静かになった。

涙を、その細い手で拭って、重々しく言う。


「...でも、いいでしょう。

勇者様が本気だというのなら。

私は生涯をかけて貴方達を監視します。

...少しでも!

ほんの少しでも、無垢な民草に仇をなすというのなら。

私は貴方を刺し違えてでも止めます...」


サリアの一本気の視線。

この凄み、サリアの覚悟が伝わる。

小さな身体で強大な殺気オーラ


...ふぇぇ、こわいよぅ


「...分かった。王国民の安寧も約束しよう」


「王国民が魔王軍の罪咎つみとがを許すかは別の話ですが...

まあ、いいでしょう。」


俺はサリアのプレッシャーに冷や汗が頬を伝う。

サリアを見つめ、決して目を逸らさず真剣な顔をして、誠意を見せるようにゆっくりと頷いた。


サリアは俺の覚悟を受け取ったかのように、その凛とした目を伏せた。


...ふぅ、なんとかなったぜ!!

キラッ☆


...いや、待て。

なんとかなったと言えるのか?


一歩間違えたら俺、死んじゃうんですけど...









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