草木萠動〈そうもくめばえいずる〉

じーく

序章

例えば、人間そこそこ長く生きてたら、誰にだってやり直したい人生の分岐点があったりするだろ?

オレの場合、それは間違いなく、高二の春。

何度も思い出して、悔やんでも悔やみ切れなくて。もしあの時、別の道を選んでたら、今の自分はどうだったろう。そう考える。


がむしゃらだった若い頃は、振り返ることすら出来なかったけど、三十になって、最近特に強く思う。

何故かって?


年下の上司たちに怒鳴られ、グダグダと愚痴をこぼしながら帰宅し、カップラーメンを啜る深夜。

ふとつけたテレビで流れるのは、イケメン同士の綺麗なキスシーン。

最近やたらとBLドラマが増えた。

キラキラした恋愛が繰り広げられる画面の中に、あの日の自分たちを重ねてみる。

「そうはうまくはいかないんだよ。」

BLはファンタジーなんだって?

ファンタジーって何だよ。


もし、もしもだよ。

あの頃、今みたいにBLドラマが溢れてたとしたら。

多様性を認めよう!みたいな時代がもっと早く訪れていたなら。

俺はこの主人公たちみたいに、勇気を振り絞って、ヤツに気持ちを伝えられたのだろうか? 


いいや。

ないな。


オレは、割り箸をへし折って、テーブルの向こうのゴミ箱に投げ捨てた。


友よ。

その答えは風に吹かれるまでもなく、ゴミ箱の中で塵になっている。


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