4 優しいお前は泣かないから

これはそろそろ起こりそうだな。あれが。


あれって何かって?


まあ見ていればわかるさ。一言でいえば、僕の感情が壊れ始めたきっかけかな。


舞台は放課された後の園庭。


そこでみんな大抵、親が迎えに来るまで、時間を潰しているんだ。


遊具を使って体を動かしたり、そこら辺を走り回ったり。


あ、居た居た。


当然、僕はそういう性分ではないから、倉庫の傍で砂に絵をかいていたんだ。


いったい何の絵だ?


でも、自分ではすごくうまく描けたと喜んでるな。


職員室にむかったぞ。


傑作を先生に見せようと思ったんだよ。褒めてほしかったんだな。そういうもんだ、子供ってのは。


しかし


あぁ


これ以上見たくもないが……


消されてる、な。


この時、こんな顔してたんだな。


まあ無理もないか。渾身の作品が跡形もなく消されてるんだから。


泣けよ。


なんで泣かない?


泣いていいだろ。


お前みたいな餓鬼にとって、これは感情をむき出しにしてもいい事案だぜ?


ほら、先生も首を捻ってるじゃあないか。


そしてこう言うぜ。


「忙しいから、戻るね」


ほら、引き止めろよ。


誰かに消されたんだ、って言えよ。


悪戯されましたって報告すれば


お前のことを助けてくれるはずだ。


先生はそういう存在だ。


放ってはおけないだろう。


でも、お前は言わないんだよな。


分かってたさ。


言わないんだ。『言えない』んじゃなくて。『言わない』んだよ。お前は。


あ、先生戻っちまったぜ。


まったく。







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