第1話 何かが変わる気がした、何も変わらない朝に
放射状に連なって、重なって、混ざり合って、弾けて、幾重にも混ざり合う出涸らしの養分と不廃物がぶつかり合って加速する。
ほんの少しのすれ違いで、それは破錠し、意思などあるわけもなく、かつて己の一部だったことを否定するかのように散った。
その退廃の中に残る快感に身を震わせ、意識を覚醒させていく……
「お兄ちゃんー! トイレまだー?」
妹がトイレをご所望のようなので、朝から元気よく飛び散ったものを素早く拭き取る。
ジャーーーー
「悪い、ちょっと今日は暴れ模様で……」
ドアを開けると二歳年下の妹が足踏みしながら待っており、僕の言葉の意味を理解したところで蔑むように吐き捨てた。
「え、汚っ」
それでも我慢の限界だったようで、トイレに駆け込んでいく妹の姿を見ながら、いつもと変わらない一日の始まりを俺は感じるのだった。
「
トイレの前で佇む俺を訝しげた表情で朝食に誘導する母もいつも通りだ。 パンの香ばしさがないため、米と納豆に目玉焼きとウインナー、そして味噌汁に違いない。
食卓には予想通りの朝食と共に、父がスマホを弄りながら 座っている。
「おはよう、父さん」
「ん、おはよう」
そっけない返事なのは経済ニュースを読むことに集中しているのだろう。商社勤めの中間管理職の40代、子供が生まれたのを機に購入した戸建ての楽園は、あと20年分の貸金が残っている。未成年の子供二人を抱え、まだまだ稼がざるを得ない。
自分であれば家族をもつのだろうか…そんなことを考えながら納豆にタレとカラシを入れて混ぜ合わせ、ホカホカの米の上にかけていると、父は仕事に行くために家を出ていく。 そして半熟に焼かれている目玉焼きの黄身を箸で崩し醤油を注していき、ウインナーでグリグリとかき回し、トロトロの黄身がついたそれを一度米にバウンドさせてから口の中へ放り込んだところで、妹が学校へ行くために家を出ていく。 僕は二人が家を出るのを見送りながら、優雅に味噌汁を啜る。 今日は大根と油揚げだ。 油揚げの程よい塩味が大根の甘さを引き立てている。
「尊もそろそろ行きなさいよー!」
母がトイレ掃除をしながら叫んでいるので、そろそろ行くとしよう。
「へーい」
さて、今年から晴れて大学生となった身、将来困らない程度には勉強してくるとしますか。
ご飯をかきこみ覇気のない返事をして家を出た──
はずだったんだが…これは──
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