愉快な存在証明

古川

 神様は愉快なことが好きだ。だから俺たちは愉快なことをして存在を証明する。そうしないと魂ごと消されてしまう。


 同じクラスの村田は無口なつまらない奴で、そろそろ消滅してもおかしくなかった。一発逆転を狙って月曜全校朝礼で校長をギターに見立てて掻き鳴らしたが、神様のツボじゃなかったようで校長もろとも消滅した。

 向かいのおじさんは堅実な会社員だったが没個性気味で、消滅対策として鬼瓦ヘアーにしたが神さまにウケなかったため消滅。行きつけのコンビニ店員はいらっしゃいませを「いらっちゃいまちぇ」に変えて愉快さをアピールしていたが神様の琴線に触れることができず消滅。


 そんな中でも、俺は生存を続けている。あえて愉快さを主張しにいかない、という姿勢を貫くことによって逆に愉快な個体として存在をアピールしている。三日に一回、「存在証明? そんなもん鼻くそに丸めて飲み込んだわ!」みたいな独り言を呟いておけばいい。


 そもそも存在とは単に結果であり、決して目的ではない。存在するために生きるのではなく、生きてきた結果自体が、俺の存在を証明する。

 俺が俺であるために、ただ鼻くそを丸めるのだ。

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愉快な存在証明 古川 @Mckinney

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