第14話『東京マザー』(2/4)

 埼玉が追い詰められる戦死する中、水属性の神奈川・ジョバンニが奮闘し、敵の迎撃にあたっていた。地上に上がれば非戦闘員たちも甚大な被害を被る。既にスラムは壊滅し、第3城壁内は彼らの侵入を許さないようにと、孤独な戦いが続けられていた。


 そして、群馬・ライジェルが傷を抱えながらも立ち上がり、敵に立ち向かう。彼の声が力強く戦場に響いた。「見せてやろう! この力が群馬だ!」と言いながら、一気に戦況を逆転させようと光の速度で敵を瞬く間に切り裂く。


 その勢いは圧倒的で、烈火の如く敵をなぎ倒す。しかし、敵シャチたちの様子に異変が生じ、一列に整列し、見えない敵を待ち構える。


 「なんだと! 減速だと!」群馬が驚愕する声が響く。シャチの特殊能力により、魔法が解除され、群馬の速度は制限されてしまう。


 群馬は元々、単騎での戦いは少なく、主に伝令としての役割を担っていた。結社側は彼に指示を出さず、放置された結果、自ら敵を討伐に向かう。


 彼の剣技では、多勢に無勢で完全に包囲され、食われる寸前まできた。しかし、彼は覚悟を決める。「クッ、これまでか。だが! ただでは死なん!」と叫ぶ。


 「絶ゆることのなき命の光は、いずれかならず万象を照らす」という言葉と共に、「我が光! 群馬の光の民よ! 栄光あれええええ!」と叫びながら、自身の光の民としての力を暴発させ、周囲のシャチ魔獣を道連れにする。


 結果、群馬・ライジェルは壮絶な戦死を遂げる。

 ――群馬・ライジェル。戦死。光の民よ永遠に……。


 

 ダンジョンを出た零士とナルはその後、リーナの全方位魔法とナルのキャットバレットでシャチを撃退し続ける。零士は肉弾戦を挑み、超筋とウルの身体制御を駆使して戦う。


 零士の突きは近づく敵を粉微塵にし、数は増えるばかりだった。しかし、神奈川の力も加わり、人間側の勢いが増していく。零士は引き続き、前進しながら敵を討つ道を切り開いていく。


 侵食率20%、超人化。

 深く夜の闇が落ちた中、零士はやむを得ず、超人化し数をとにかく減らす方向で動いた。彼の目標は、いかに早く30%に達するかだった。


 超脳と超筋を駆使し、シャチたちを素手で豆腐のように貫いていく。この異常な力は、ウルによってもたらされたもので、彼自身が元々持っていたわけではない。その力を使いこなすことは、技術的に未熟な彼にとって、ウルが補助する重要な役割であった。


 一方で、零士たちが奮闘する前にトップハンターとして名を馳せたハイランカー、埼玉ノットデスや群馬ライジェルは散ってしまう。群馬は自爆で爆散し、埼玉はシャチたちに無惨にも食い散らかされた。その様子を見て、他の魔法使いや異能者たちは恐怖に震え、四方八方からの攻撃に晒される。


 しかし、異能者集団「黒蝶」の登場は、事態に一石を投じる。彼らは黒装束に身を包み、圧倒的なチームワークと個々の能力で次々と敵を殲滅していった。その捌きっぷりは、まるで芸術のようだった。


 零士とウルも、シャチを捕食しながら逆のダンジョンへと進む。彼らの真の目的は、『東京マザー』を倒すこと、そしてウルは『東京マザー』の生体情報を探るために脳を捕食しようと考えていた。


 この時、零士に向かって一人の黒装束の美少女が声をかけた。「いくの?」小柄な彼女は黒髪のポニーテールで、戦いの中でも一際目立っていた。


 何を言いたいか察した零士は「ああ、もちろんだ。もう少しだ」と答え、彼女は満面の笑みを浮かべながら、別のシャチへと駆け出した。


 膨大なシャチを捕食し、ようやく侵食率は28%まで届くがまだ足りない。侵食率を後2%上げる必要があった。強くならなければ、この過酷な世界で生き延びることはできない。だから零士は捕食を続けるが、超人化の使用によって力が消費され、燃費の悪さを実感していた。


 その時、彼を襲ったのはとてつもない頭痛だった。「ウッッウウウウ……」零士は頭を抱えた。


「零士さま!」ウルはすぐに反応するも、零士はよろめく。「ςερε φα」未知な言葉を彼は発していた。


「零士さま!」ウルが再び叫ぶ。零士は視点が定まらず、足元はしっかりしているが、何かを成そうとしている様子だった。体には稲妻のような線がくっきりと現れ、黒色で赤黒い縁取りで描かれたそれは鈍く光る。この瞬間、体にまとわりつく何かがすべて変わった。

 

 まるで古のサムライが鞘から刀を抜くように、零士は居合いの構えを取った。その動作は流れるようで、彼の手元にはいつの間にか鞘が現れ、刀の柄を握っていた。腕に浮かぶ赤黒い稲妻状の紋様が、短い間隔で一層激しく明滅する。


 十メートル先から迫るシャチたちに対し、目にも留まらぬ速さで刀を抜き、紅い斬撃がシャチを一瞬にしてクズ肉へと変えた。


「久しぶりか……」と刀を鞘に戻しながら零士はつぶやく。その様子は普段の彼と遜色ないが、ただし、その雰囲気は全く異なっていた。彼は、零士としての存在について考えても答えは見つからず、別の自己のように振る舞っている。


「そこのお前……」と、普段とは異なる零士の声がウルに向けられた。


「零士さま?」ウルはその変わりように戸惑いを隠せない。


「俺ではあるが、少し違う。修羅と呼ばれる者だ」と零士は静かに説明する。


「それは、どういうことですか? 零士さまはどこにいるのですか?」ウルは混乱しながらも情報を求める。


「この身は、俺でもある」と零士は哲学的に答えるが、その言葉はウルには理解しがたい。


「まさか……並行世界の融合ですか? 零士さまは直接この世界に来てはいないのですか?」ウルはさらに深く問う。


「どう覚えているか、それはわからない。しかし、確かに俺たちは一度は別々の存在だった」と零士は自らの存在を掘り下げる。


「どうして融合したのですか?」ウルの問いに、零士は淡々と答える。


「互いに遭遇し、意思に関係なく融合した。それが全てだ」と彼は言い、その表情には何ら感情が読み取れない。


「なぜ、今まで現れなかったのですか?」ウルはさらに詰め寄る。


「寝ていたんだ。それだけのこと」と零士はあっさりと述べる。


「融合した存在が眠るなどあり得るのですか?」ウルは疑問を投げかける。


「理由はわからない。ただ、もう一人の俺が何を考え、どう動いていたかは見ていたし、理解もしていた」と零士は認める。


「もしかして夢の中での出来事だったのでは?」ウルは推測する。


「理解が早いな」と零士は少しの驚きを隠せずに答える。


「元の零士さまはどうされていますか?」とウルは彼の安否を確認する。


「正直、よくわからない。多分、寝ているんだろう。俺と同じようにな」と零士は説明し、その言葉にはある種の空虚感が漂う。


「もう少し詳しく知りたいのですが、そうもいかなそうですね」とウルは再び迫るシャチたちに視線を向ける。


「そうだな。やるか……」と零士は再び刀に手をかける。彼は深く深呼吸をして、まるで久しぶりに外へ出た人が外界の空気を大きく吸い込むように、その空気を全身で感じ取る。


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