第9話『狩人』(3/3)

「変身? 零士、どういうこと?」リーナは眉をひそめて訝しげに問いかけた。


 零士は一瞥すると、ニヤリと微笑んだ。「ああ、まあ見てな。頼むナル姉」と彼は言った。


「任せて」とナルは返事をしたが、何を任せられたのかは明らかではなかった。一瞬の沈黙が流れた後、ナルの全裸の白い肌が黄金の粒子で覆われ始めると、眩い光の粒子に変わっていった。猫の形をしたナルはやがて、リーナのよく知る愛らしい猫の姿に戻っていた。


 リーナは目を瞬きながら、じっとナルを見つめた。目を疑うほどの不思議な光景だった。「猫? 本当だったのね……」彼女の声には驚きとともに、少しの感動が混じっていた。


「嘘なんてつかないさ」と零士は言いながら、彼女の目をじっと見つめた。彼の表情は複雑で、言葉とは裏腹に、不可抗力の事情をほのめかしているようだった。


 リーナは、ナルが無理やり変身させられたわけではないことに気づき、安堵の表情を浮かべた。ナルは、人間に変身することができる時間はわずか五分程度だと零士に心の声で伝えた。

 

 エネルギーを大量に消費するためだ。ナル自身も、猫の姿が慣れ親しんだものであるにせよ、時折人間に戻ることの喜びを感じているようだった。「いつかは本当に人間に戻れるようになりたい」と彼女はぽつりと言った。


 猫に戻ると、ナルは再び狩りを始め、リーナもそれに付き合う。この繰り返しはもはや日常の一部となっていた。リーナは、ダンジョンでの鉢合わせが恒常的になってから、常に零士とナルと共に戦闘に臨んでいた。リーナは魔法で後方から支援し、零士とナルは前線で戦うという形だった。


 狩りが終わると、彼らは魔獣の一部を換金するためにギルドへ戻る。ギルドでは、群馬を倒してからというもの、他のハンターたちに絡まれることもなく、安定した日々を送っていた。ナルも零士と共にギルドの中を歩いていたが、リーナが現れると、彼女と一緒に行動することになるのはもはや避けられない事実だった。


 ナルが猫から人に変われることが分かってから、彼女との会話も増え、零士とナルの間のAIと非AIの区別はより明確になっていた。AIリンクにより、どこでも会話が成り立ち、非常に連携が取りやすいのが強みだった。特に戦闘時の意思疎通は、瞬時の判断が可能で、相手の位置や状態が即座にわかるため、行動が格段にやりやすくなっていた。


 零士はこの変わりゆく環境の中で、しばしば一つの疑問を抱いていた。なぜ自分がこの世界に選ばれたのか。彼は文明の差を越えて元の世界に戻れるなら戻りたいと思うこともあったが、同時に反対の感情も抱いていた。


 元いた世界には家族も友人も恋人もおらず、ペットすらいなかったため、その世界への未練はほとんどなかった。しかし、今の世界では、かつて不可能だったことが可能になり、それが零士にとってはより充実した生活をもたらしていた。食事の味の違いや些細な不便さはあるものの、お金を払えば元の世界と同じような食事にありつけるのも、この世界の魅力の一つだった。


 可能性の塊でもあるこの世界は、零士をさらに活かし続け当人にとっても自分自身の裁量で生き抜くことに充足感があった。





 

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