第5話『日本人』(2/3)
戸惑いを隠せない零士が、「なんだよ……。このでかいやつは……」と呟く。その声には明らかな不安と驚きが交錯している。
一方、ナルは状況を軽く捉え、「見かけと違って打たれ弱いやつだから、攻めるといいよ」と気軽にアドバイスする。彼女の声には慣れた冷静さが滲み出ており、その瞳は挑戦を楽しむかのように輝いていた。
零士は自身の未熟さを痛感しながらも、目の前の筋骨隆々の二メートル超の敵に圧倒されそうになる。その敵の顔は人間とは異なり、魚のような目と馬のような顔つきが融合した奇怪な形状をしており、その皮膚は焦茶色で、馬の毛並みのような質感を帯びていた。手には棍棒を握り、人間の知能を持つかのような恐ろしさがあった。
「ウル、いくぞ!」零士は覚悟を決め、彼の声には決意が宿る。ウルはその決意に応え、「はい!」と明るく返事を返す。ウルの声は零士の脳内に響き、その支援が零士に勇気を与える。
零士が勇敢に踏み込んだ瞬間、ウルは超筋を発動し、瞬く間に敵に近づく。その速度は景色が後ろに流れるような錯覚を零士に与える。その勢いのまま、零士は敵の腹部に向かって上段から拳を振り下ろす。拳が触れた感触は、まるでゼリーに拳を打ち込むような奇妙なものだった。
衝撃と共に、敵の背中から血や臓物が噴出する。その光景は零士に新たな恐怖と興奮を同時に呼び覚ます。「グボガアァァア」という怪物の断末魔が響く。
敵が前のめりに倒れ込む間に、零士の左腕が突然変形し、銀色の狼のような顔が現れて襲い掛かる。一飲みで飲み込むと何事もなかったかのように腕は元の形に戻る。
この新しい体験に零士は混乱しつつも、砂漠での渇望を満たす水を飲むような解放感を感じていた。「う……うまい……」と彼は思わず呟く。この呟きには、初めての体験に対する驚きと満足感が混在している。
ナルは零士の反応を楽しげに見守りながら、「あら? あらあらあら? 零士初めて?」と尋ねる。彼女の声には好奇心と愛情が溢れており、零士の新たな一歩を祝福するかのようだ。
零士はまだその全体を把握しきれずにいるが、自身の心臓の高鳴りを感じながら、「お、ぉぅ……」と力なく返答する。その返答は疲労と興奮の混じったものだった。
ナルは零士の脛に肉球を押し付けながら、「おめでとう。これで零士も立派な捕食者ね。同志よ?」と言って、親近感を込めて彼を励ます。彼女の態度は楽しげで、零士を新たな世界へと招くものだ。
その後、ナルは何度か楽しそうに零士の脛を肉球で軽く叩きながら、彼が先ほどの体験を思い返すように導く。「ナル姉はいつもこんなうまい物を飲んでいるのか?」と零士が尋ねると、ナルはいたずらっぽく微笑みながら頷く。
「あら? すっかり虜ね? でも気をつけて、捕食する姿を他に見られたら討伐対象よ、多分」とナルからの恐ろしい忠告が続く。彼女の言葉には慈愛と警告が含まれており、零士に現実の危険性を思い起こさせる。
「あ、ぁぁ気をつける……」と零士は額の汗を拭うことなく返事を返した。その声はまだ震えており、彼の内面に残る不安を示していた。
ウルからの励ましの言葉が零士の脳内で響く。「零士さま。ここの獲物は効率が良いです。どんどん行きましょう」と彼女は提案する。ウルの声は常に冷静で、計算高いものだが、零士にとっては信頼の源となっている。
零士はその言葉をナルに伝えると、ナルも同意する。「ええそうよ。どういうわけかここの獲物は、私たちには良食よ?」と彼女は言い、それが良い情報であることを示す。
やる気に満ちた零士は、活力が湧いてくることを感じながら、両方の拳を握りしめる。「心なしか、活力が湧いてくるような……」と彼はつぶやく。その表情には、新たな自信と戦いへの意欲が見て取れる。
捕食の作業は意外と難しくなく、ウルの超筋を用いた打撃で敵を弱らせた後、ウルが迅速に捕食を行う。この繰り返しはほとんど機械的な作業のようで、零士とウルの連携は初めてとは思えないほど上手くいった。捕食だけでは生活が成り立たないため、零士は捕獲した獲物も換金用に持ち帰りたいと考えていた。
この戦闘リズムに少しずつ慣れてきた零士は、ふと疑問を抱く。「捕食しない場合は、このようなデカブツどうするんだ?」とウルに尋ねる。彼の疑問は実用的であり、未来への備えを考えるものだった。
ウルはその質問に対して、「はい、まだ小規模ではありますが、亜空間収納が可能です。端的にいうと、特定の空間にアクセスし、個体情報と紐付けて物置場にする方法があります。ただ、その中に生物を入れることはお勧めできません。真空なので窒息死します」と便利だけど恐ろしいことを言った。
ウルが静かに告げる。侵食率によって恒常的に使える能力が異なり、高い侵食率の能力は捕食したエネルギーを用いて一時的にのみ利用可能だという。「零士さま、侵食率を上げるために、もっと捕食を続けるのが良いでしょう」
「さあ、どんどん行きましょ?」とナルが前へと誘う。彼女の歩く姿は、灯りの中で影が軽やかに舞うようだった。
次々と馬面の魔獣を倒し続ける中、ようやく侵食率が上昇できるようになった。緊迫した空気の中、ウルが淡々と提案する。「零士さま。侵食率が5%に到達しました。この状態では身体制御、捕食したエネルギーを用いて10%になれば超筋化が可能です。どうされますか?」
「もちろん10%まで頼む。その身体制御って具体的に何だ?」零士の声には好奇心が滲み出ていた。
「それは、バランスを保つ制御機能です。どんな状況でも安定した行動が可能になります」とウルの声はまるでそこに人がいるかのように、どこか温かみを帯びていた。
「それがあれば、ロープ一本で綱渡りとか余裕でできるとか?」零士の問いにウルは「はい、驚異的なバランス感覚を実現できます」と答える。
「第1世代って驚異的なんだな……」零士が感嘆の声を漏らすと、ウルは「第5世代のナルもおそらく同じ能力を持っています」と付け加えた。
「へえ。やるなナル姉も。この世代の違いって何かあるのか?」零士の好奇心は尽きない。
「第1世代は適合率が50%以上の個体でないと融合できません。零士さまは60%超で、非常に優れています」ウルの声には誇りがこもる。
「そうなんか。第5世代だとどのぐらい?」零士がさらに探る。
「30%から始まります。使用する武装により異なりますが、グランドクロスという強力なエネルギー兵器も利用が可能でしょう」ウルの言葉は未来への可能性を示唆していた。
「へえ、それはすごいな。俺たちはどうなんだ?」零士の声に期待が満ち溢れている。
「零士さま次第です。100%に達した場合、銀色の彗星・スターバーストが使えますが、その力は星をも破壊するかもしれません」ウルの答えは重々しい。
驚きに言葉を失った零士。「マジか……」とだけ返す。
「はい、マジですので、なられた暁にはご留意ください」ウルの口調は慎重で、零士を引き締める。
「さっきの件だけど、10%まで頼む」と零士が再確認すると、「はい、それでは直ちに開始します」とウルの言葉とともに、零士の体は銀色の粒子に包まれ、数秒で霧散した。たったのこれだけである。
その変化を見守るナルが、軽く言葉を投げかける。「おめでとう。侵食も初めてみたいね」彼女の肉球が零士の脛に何度も触れる。零士は手のひらを見つめながら、新たに得た力の感触を確かめるのだった。
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