第5話


「さぁて菖蒲様の許可を得たから、電源を切るぞ」

「え、まだ私なのに?」

「? 何か共有しておきたいことがあるのか?」

「え、それはないけど」

「ならいいだろう? 俺は無駄が嫌いなんだ」


 早速改造をしようとする英に抵抗するけれど、ばっさり切り捨てられてしまう。


 確かにこのお姉ちゃんはコピーだから、今どういう状況でどこにいるは知らないんだよね?

 だからこれ以上の会話は世間話。

 英には興味ないことで、さっさとホーンを持ち開けようとする。


「あっそうだ。どうやって私の記憶をかんなに埋め込んだか知りたいでしょ?」


 必死さが伝わりこれなら英も目を輝かせ食いついてくる……。


「そりゃぁ知りたいが、桔梗に詳しく説明できるのか? 開発したのは別の人間だろう?」

「うぐ……。ででも記憶を埋め込んだのは私なんだから、少しぐらいは分かるよ」


 もろ図星らしくそれでも意見するも、もはや威厳も何もなく苦しい言い訳にしか聞こえない。これ以上抵抗したら恥ずかしい。

私はそれでも気になるけれど。


「なぁひょっとして、ダールス、ウイルトンさんと言う協力者がいるか?」

「うん。譲の知り合い?」

「ああ。その記憶のコピーは俺のゼミで開発中のものなんだ。教授がテストすると言ってたが、まさかこんな使い方をするとはさすがだな」


 今まで黙っていたゆず兄がようやく口を開いたかと思えば、お姉ちゃんより詳しい人物がここにいた。

 もうこれだけ驚かされていれば、なんだって受け止められる。


「そうなんだ。世間は広いようで狭いのね?」

「だったらなおさら桔梗より譲に聞いた方が良いじゃねぇか? そんじゃまた明」

「英、ちゃんとしたデーターを取りたいから、入れ替わるまで待ってくれないか?」


 再びお姉ちゃんにピンチが訪れて切られそうになるが、今度はゆず兄がちゃんとした理由をつけ止めに入る。これには耳を貸し英は手を止め考え込む。


「確かにそうだな。俺としたことが肝心なとこが抜けてた」


 合点がいったのかハッとしたように言って、手を引っ込める。

 結構簡単な糸口だったんだ。



 お姉ちゃんでいられた時間は予想通りの一時間。

 それからすぐに英の部屋に場所を移し改造に入り、終わった頃には夕焼けになりかけていた。





「かんな、調子はどうだ?」

「スゴイ! カンナツカメル」


 手が自由に使えるようになったかんなは、目を輝かせハサミを持ちはしゃぐ。


 まぁ自由にって言っても短い手だから、範囲がかなり狭い。本人は満足げだから良しとしよう。

 しかしなぜハサミ?


 手の他にも動力発電変更。は跳ねる機能が追加。元々付いているお出迎え機能、マップを強化したらしい。

 何はともあれ外見は変わってないようで、ホッと肩をなぜ下ろす。

 これなら他人に見られても問題さそう。


「良かったね。でもハサミは危ないから振り回さないでね」

「ハ~イ。リンカ、ギュッ」

「かんにゃ~ちゃん」


 ちゃんと注意したら聞いてくれハサミを置いた後、私に近づき可愛らしく言いながら抱きしめてくれた。

 意識ぶっ飛びかけ、身体中の力が抜けていく。


 この子は無自覚のタラシなのか?


「かんなちゃん、私にもギュッして」

「イイヨ、サクラ、ギュッ」


 桜ちゃんのリクエストを快く了解して、私同様抱き締める。

 天国に召される桜ちゃん。


「英兄、私もロボットペット欲しい。作って」


 買ってではなく作ってと頼む辺り、兄を信頼している。


「ああ、お安いご用だ。譲に頼めば自我を持った奴のが出来るかもな」

「出来ない。そんなのを意図的に作り出したら、大変なことになるだろう?」


 どことなく嬉しそうな英とは裏腹に、ゆず兄は真顔で否定。ごもっともなことを言う。


 ロボットとはいえ自我を持ったら生物と同じだもんね?

人は生き物を作ったらいけない。


「そうだよね? かんなちゃんのようにみんなで愛情たっぷり注げば、自我を持ってくれるかな?」


 普通の小学生とは違いそこは聞き分けが良く、寂しそうになるも納得する。


 AIは愛情をかければ自我を持つのだろうか?

 そしたらロボットペットはみんな自我を持ちそう。


「残念ながらそれも分からない。分かったらそれも困るけどな」

「オカアチャンガ、カエッテキタ。ムカエニイク」

「そうだな。階段をうまく降りられるか試してみたいし、行ってこい」


 パパの時同様突然言うかんなに、ドアを開けるとかんなはスーと部屋を出ていった。その後を英がついていくから、私もついていく。

 どうやって階段を降りるか気になる。


「ダッコ」

「違う。ジャンプで降りればいい」

「ジャンプ?」


 階段の前で立ち止まったかんなは英を見上げ迷わず抱っこの請求。


 やっぱりそうなるのね?


 しかしかんなの愛らしさを理解出来ない英は、


「こうやれば降りられる」


 ジャンプが分からないかんなにジャンプを伝授する。


 理論上それで降りられるけれど、そのやり方は危ないのでは?


 戸惑い私に助けを求めるかんな。

 かんなも危ないと言うより怖いと思っているはず。


「英、それ危ないから」

「そんなことない」

「だったらあんたがジャンプして階段を降りたら? それで安全だと分かったら、かんなだってやるよね」

「ウン」


バカじゃないと止めるんじゃなくわざとそう言って、それがいかに危ないことだか分からせようとする。いいアイデア。


「かんなにはバランス機能がついてるんだから落ちない。そのための実証だ」

「だったら下にマットか布団を引いて、もっと低いとこからやるのが常識でしょ? 失敗したらどうすんのよ?」

「かんなには痛覚ないんだから、問題ない。壊れても直してやる」

「アホ。かんな、私が抱っこして降ろしてあげる」

「アリガトウ」


 屁理屈を言いまくる英に嫌気がさし一発殴り、かんなを抱いて降りる。

 英の言い分はすべて正論かもしれないけれど、心をすべて無視したもの。痛覚がないから壊れても直すって、それは物の扱いだ。


「かんなは物じゃない!!」


 怒りが止まらず、怒鳴り散らしていた。





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