第4話

「お名前は?」

「カンナ」

「あたしの名前は?」

「サクラ」

「この人は?」

「リンカ。ダイスキ」


 メンテが終わり桜ちゃんのテストを兼ねた質問に、かんなは元気よく答える。明らかにさっきとは違い誰にでも聞き取れる発音。片言なのは変わりないけれど、そんなことより私を大好きって言ってくれたことが嬉しい。

 今日はかんなに驚かされてばかりで、感動の連続だ。かんなにそう言われるなんて夢にも思わなかった。


 今日はパーティーだ。


 って言いたいところだけれど、お姉ちゃんを突き止めることが先決だから我慢。我慢。

 もう一度試しに聞いてみよう。


「かんなとお姉ちゃんは一緒にいるの?」

「ウン、ネェネェ、イッショ。ソバニイル」

「いつから?」

「アツギサン」

「なら三日前か。ありがとう」


 やっぱり今度はちゃんと答えてくれた。


 厚木さんとは、厚木さんは魔道師と言うアニメで、かんなを膝に乗せて見ている。いろんな番組を見ている中で、一番のお気に入り(だと思う) 


 その日にお姉ちゃんはかんなの中に入った。

 昨日のあの驚きようから察するに、初めて目覚めた。

 そして少し会話をして、今は寝ている。

 それ以上は聞いても……無理なんだろうな。


「桔梗はずーと一緒なのか?」

「ワカラナイ。モドッテホシイ」

「そうだな。俺もそう思う」


 どうやら一人いじめしたいと言う願望はないらしく、ゆず兄の問いには寂しそうに答える。ゆず兄も賛同し哀愁が漂う。


「二人とも元気だして。あたし達が知恵を絞りあえば、お姉ちゃんは絶対に戻ってくるよ」

「そうだよね? 四人いれば文殊の……」


 明るく元気付ける桜ちゃんに私も乗っかって励ましてみるも、私の知恵など必要ないのと思って言葉をなくす。


 私の学力なんて平凡……以下……。


「鈴姉は体力担当だからね。お兄ちゃんも英兄も頼りないから」

「ううん、そうだね。頑張るよ」


 頼られても、それ全然嬉しくない。

 いくら男女平等で多様性の世の中だとしても、男性より力を頼られる女性は嫌だな。そもそも運動神経抜群と言うだけで、そこまで馬鹿力ではないとはず。

 英がひ弱なだけだから私が目立つ。ただそれだけ。



「パパ、カエッテキタ」


 かんなは言って玄関に向かう。


「あ、かんな待って。パパにはしゃべったらダメだよ」

「ナンデ?」


 今のかんなを見られたらヤバそうだから口止めすると、キョトンと私を見つめ理由を問われる。


「お姉ちゃんのことを言わなきゃ、大丈夫だと思うよ」

「そうだな。事実通り“自我を持ったAIは危険分子と見なされ廃棄される”と言えば、全力で隠し通してくれるはずだ。みんなかんなのことが大好きだから」

「それもそうか。ならかんな。お姉ちゃんのことは私達だけの秘密だよ」

「ワカッタ」


 私が逆に説得され、そう言うことになった。

 かんなは今度こそ玄関へ走りだす。


 ゆず兄の言う通り、かんなの命が危ないと分かれば守ってくれるよね?



「か、かんながしゃべった」


 パパの驚く声が聞こえた。

 どんな反応を見せたのかと思いリビングからひょっこり顔を出せば、絶賛硬直中のパパにかんなは全力でおかえりなさいダンスを披露。


「パパ、ダッコ」


 ダンスが終わると、お決まりのポーズ。


 メチャクチャ可愛いんですけれど。


「鈴蘭、これは一体どう言うことだ?」

「おかえりなさい。かんなが自我を持ったから、桜ちゃんに言語発音機能をつけて貰ったの」

「……。やっぱりそう言うことか。それで大丈夫なのか?」

「他言無用にすれば、問題ないよ」


 何かよくないことを察したパパの視線は冷たく、答えた瞬間さらに呆れられ肩を竦める。


「それはつまり世間にバレたらヤバイってことだろう?」

「うん。自我を持ったAIは破棄されるみたい」

「パパ、ダッコダッコ」

「それはヤバイな。まぁ持ってしまったもんはしょうがない。秘密は守るよ」


 かんなに急かされ抱っこするパパは、やれやれと言った感じで了承してくれる。


「ありがとう」

「それなら母さんはありとあらゆる職種のネットワークがあるはずだから、かんなのためなら探りを入れてくれるんじゃないか?」

「言われてみればそうだね? ネットより詳しい情報が分かるかも?」


 目から鱗の情報だった。今の今まで親には絶対秘密にしようだったから、まったく頭になかった。


 そうだよね。こう言うことは人脈豊富なお母さんに協力を得ることが一番早い。

 お母さんだってかんなが大好き

 お母さんが帰ってきたら早速相談しよう。





「そろそろだな」

「うん」

「ネエネエガオッキスル」


 昨日お姉ちゃんと話した時刻になり私達が注目する中、かんながそう言うと昨日のように一度電源が切れ再起動。


「あ、本当だ。普通にしゃべれる」

「お姉ちゃん?」

「はい。正確にはコピーだけど」

『は?』


 流暢に話すかんなと言うかお姉ちゃんに聞いてみれば、まさかのとんでもない発言に私達はまの抜けた声? を出しかんなを見つめる。


 お姉ちゃんのコピーって何?


「もう知ってるかと思うんだけど、かんなは自我を持ってるじゃない? それでいろいろ探ってるんたけれど、私が目覚めたってことはトラブルが生じたんだと思う」

「捕まった? 誰に?」

「それ言うとみんなを危険に晒すことになるから、何も聞かずお母さんに託して欲しいんだけど」


 いつもとは違い危ないから手を引けと、真面目に言われてしまう。その口ぶりからしてお母さんは事情知っているのだろう。

 でも


「そんなのもう手遅れだぜ? 桜がヤバイ情報にまで手に出して、俺達に共有してるからな」

「お姉ちゃん、ごめんなさい」

「……。桜ちゃんはそう言う子なの完全に忘れてた」


 英はニヤッと笑い無駄だと断言する。桜ちゃんは一応謝るけれど、悪気はないと思う。

数秒の沈黙後お姉ちゃんは肩を落とし、大きなため息を付き呟く。


「だったら菖蒲さんがいる夜に、目覚めればよかったんだろう?」

「そのつもりでいだったんだけど、六時間早かったんだよね? 昨日はかんなが起きててビックリしちゃった」

「詰めの甘い桔梗らしいな。それで本体はどこにいるんだ?」


 本当に肝心なとこが抜けているお姉ちゃんらしい。


 コピーと言っているけれど本当かな?

 それとも私以外は理解できてる?


「AIの意思を否定派の企業にインターンとして潜入してるんだけど、私が起動したと言うことはかなり危ない状況なんだと思う」

「だったら今から助けに行く。どこに行けば良い?」

「まずはお母さんに連絡してからね? お母さんはAIの意思を肯定派の幹部だから」


 危ないと聞けば頭に血が登り先走りそうになる私に、お姉ちゃんとはやんわりとブレーキをかける。そしてまたもや爆弾発言。


 否定派があればそりゃ肯定派があるのは当然。でもその幹部がお母さんってどう言うこと?

 証券マンじゃなかったっけぇ? いつの間にか転職した?

 ってかお母さんはお姉ちゃんがどこにいるか知ってたから、まったく心配していなかったんだね? 放任してる訳じゃなかったんだ。


「ひょっとしてパパも知ってるの?」

「お父さんは知らないと思う。お母さんは数年前担当したロボットペット事業に感銘を受けたらしくて、ダブルワークしてるって言ってたよ」


 だからこの数年残業が多くて、土曜出勤をしてたのか。妙に納得。

 パパに関しては、ちょっと可愛そう。


「分かった。お母さんに連絡してみるね」


 って言いお母さんに電話をかける。

 どんなに忙しくても出てくれる。



『鈴蘭?どうしたの?』


 ほら出てくれた。


「かんなのお姉ちゃんから、大体のことは聞きました。お姉ちゃんがピンチなんで、助けに行きたいです」


 なぜか言葉が改まってしまう。

 お姉ちゃんと英に爆笑されるけれど、そこはスルー。


『つまり英と桜に気づかれたのね』

「はい。お姉ちゃんが六時間早く目覚めたのが原因です。今かんなはお姉ちゃんで会話可能となっております」

『……だから私はかんなを使うのは反対だったのよね? 英はまだしも、桜を巻き込むと椿にも話さなきゃならないから。桔梗に変わって』


 お母さんもまたすぐに察しが付くのだけれど、親だから頭を痛め投げやりになりつつある。


 桜ちゃんは小四だから、秘密に出来ないんだ。

 かんなのお姉ちゃんに変わりたくても、持てないからボイスモードにした。


「お母さん、ごめんなさい。私の考えが甘かった」

『そうね。これからはもっと慎重に行動しなさい。すぐに帰るから、鈴蘭達が暴走しないよう見張っておきなさい』

「分かりました。と言いたいとこだけど、起動時間は後三十分なんだよね?」

「お母さん、大丈夫だよ。事情を詳しく聞くまでは動かないから」

「かんなの改造はしまくるけどな」

『改造はほどほどにね。じゃあ』


 相当お母さんは後一服だから私は空気を読みやんわり流したのに、英と来たらバカ正直に言葉を返す。

 怒りを通り越し呆れきったお母さんは、どうでもいいかのように許可を出し電話は切れた。

 英は勝ち誇った満足げな表情を浮かべた。こうなると英は無敵である。

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