第3話


「かんなの様子はどうだ?」

「いつもと特にかわりないよ」

「そうか。なら今日は一日観察だな」

「そうだね? 分からなかったら観察あるのみ」


 土曜の朝九時過ぎ英と桜ちゃんはやって来て、ハイテンションで盛り上がる。


 すみません。ここは私んちなので、勝手に予定を決めないで欲しいんですが。

 ……予定は特にないけれど……。



「英くん、桜ちゃん。おはよう。何をそんなに盛り上がってるんだ?」

「おはようございます。かんなちゃんの検証です」

「あ、自我についてな。探求心があることはとてもいいことだが、あんまり危ないことはするんじゃないぞ」

「はーい。分かってます」

「俺がいるので大丈夫です」


 そこにパパがやって来て、笑顔で英と桜ちゃんの会話に入ってくる。

 内容があれなだけに苦笑し軽く釘をさす。

 笑顔で聞き分けよく頷き英らしくない台詞を言うもんだからも、パパは余計不安を感じたのか笑顔を引き攣らせた。。

 それ以上の不安を感じる私は、もはや胃が痛い。

 英の大丈夫は嫌な予感しかしない。


 ピンポンピンポンピンポン


 いきなりチャイムの連打が鳴り響く。


「え、譲くん? 今開けるから待ってて」


 警戒したのは一瞬だけで、インターフォンの画面には真っ青なゆず兄がいた。


 ………………。

 英は一体なんて言ったんだ?


「さすが譲。桔梗のことになれば、どこにいても最短でやってくるな。これで大人は確保」

「英でもそれは考えたんだ」

「当たり前だ。もしもの時の備えだ。お袋でもよかったんだが、一応親だから危なくなったら止められるだろう?」

「まぁ確かに」


 英にも少しは常識があって、ゆず兄を大人だと認めているのには初耳だった。

 英達の母親である椿さんは、子供心が分かるお姉さん的存在だ。でも親の手前どうしてもブレーキはかけられる。そして必然的に私の両親にもろばれで、お説教されるのがオチ。


「今回ひょっとしたらかなり危険な橋を渡るかも知れないからね」

「え、そうなの?」

「うん。お姉ちゃんが憑依していても、かんなに自我が芽生えたとしても、あたし達は狙われると思う。昨日AIの自我について詳しく調べたら、危険因子だと見なされて破棄されてるみたい。AIが人間に宣誓布告したら、太刀打ちできないからね」


 完全にSFの話で現実味がないけれど、二次元ではあるあるネタだから納得する。

 ロボットは人間の友達。

 は人間の都合の良い解釈なんだろうね。

 人間とロボットの戦争を考えただけでも怖い。


「じゃぁかんなは絶対に護らないとね。パパにも口止めしとこう」

「その辺は肝が座ってるんだな?」

「そりゃぁ怖いけれど、かんなは自我が芽生えたとしても、私の傍にいてくれる」


 意外そうな顔をする英に、私は決意を言葉にする。

 それも私のエゴかもしれないけれど、それでもかんなは家族だから。


「うん、そうだね。かんなちゃんは大切な家族で、可愛い末っ子だもんね」

「チョメチョメ」


 桜ちゃんが微笑み同意すると、いつの間にかかんなは私達の傍に来て様子を伺っている。




「桔梗、本当に桔梗なのか?」

「バカ。大声を出すな。おっさんに聞こえたらどうすんだ?」


 かんなに突っ込む勢いでゆず兄がやってくるもんだから、かんなはびっくりして硬直。ゆず兄になすがなされるまま。


「そこは大丈夫だ。伊織さんなら俺達の両親と買い物に出掛けた」


 そんなゆず兄に英は激怒するも、その辺は分かっているのか意味もなく胸を張る。

 そこは都合がよかった。

 親達が一緒に買い物と言うからには、昼ぐらいまで帰ってこない。その間に形をつければいい。


「鈴姉、これラボットの設計図とプログラム」

「ありがとう。でも危険な行為はほどほどにね」

「このぐらいお茶の子さいさいだから、大丈夫だって」


 早速本題に入り桜ちゃんはそう言いながら、ノートパソコンの画面に図形と英語と文字が並ぶ写し出される。

 私にはちんぷんかんぷんででも、道徳を心配しても届かず。笑顔で死語で流された。


「今回は設計図よりプログラムが重要だな。さぁてかんな、楽しい楽しい改造タイムだ」

「プイプイビー」

「かんな?」


 英の不気味でしかない笑顔に、怒ったかんなは怪訝敷く睨み付ける。こんなかんな見たことなく、唖然となった。

 確かに英の態度は威圧的で怖い。


「これって調べる前に、自我を持ってる確定だよね? ラボットに負の感情なんてプログラムされてないはずだし。後はお姉ちゃんが憑依しているのかを確かめるだけ」

「だったら催眠が通用するな。かんな」

「プイプイ」


 ゆず兄に対しても素っ気なく、そっぽに向いて私の元にやってくる。

 さっきのことを根に持っているんだろう。そう言うところもプログラムにはない行動。


「かんな。お願い。お姉ちゃんを見つけるため、協力してくれる?」

「インカ」


 自我があるならお願いをすれば聞いてくれると信じて、かんなを抱き上げ聞いてみる。 そしたら確かに私の名前を言って、抱きつき歌い始める。


「かんなが私の名前を言った」

「は、そのぐらいで泣くか?」

「泣くでしょ? かんなちゃん、あたしの名前は?」


 あまりのことに嬉しさのあまり号泣する私に、英は飽きれ桜ちゃんはわたしの味方をしてくれる。

 感情が欠けている英だから仕方がないとは言え、それでも言い方と態度がムカつく。


「チャクア」

「あたり。かんなちゃんは頭いいね」

「アイ」


 桜ちゃんには和気藹々としていて、誉められると嬉しそうに両手をあげる。

 意思大爆発って感じだ。


「かんな、悪かった。お前だって早く桔梗に戻ってきて欲しいだろう?」

「キュ?」


 まったく分かってないのか首をかしげた。いくら意思が芽生えたからと言え、難しいことは分からないみたい。


「お姉ちゃんに会いたくないの?」

「キュ?」


 言い方を変えても答えは同じ。


「ひょっとしてかんなちゃんは、お姉ちゃんに会ってるの?」

「アイ」


 桜ちゃんの自信なさげな問いに、かんなは頷く。

 これは間違えなくお姉ちゃんが憑依しているってこと。

 信じたくなかったのに、信じなくてはいけない現実。


「俺達にも会わせてくれるか?」

「ナイナイ」

「は? 会ってるのに、ない? なら桔梗はどこにいる?」 

「ネンネンコロリヨ。ネンコロリ」


 かんななりに懸命に答えてくれるんだけれど、片言だからイマイチ理解が出来ず。

 なぜか子守唄を歌い出す。

 お姉ちゃんが良く夜かんなを抱いて、歌っていた歌だった。お姉ちゃんは少し音痴な私と違って美声で上手。


 と言うことは?


「ひょっとしてお姉ちゃんは今寝てるの?」

「アイ」

「起こせないのか?」

「アイ」


 謎が解けても更なる謎が生まれるだけで、何も進展してない気がする。


 かんなの中にお姉ちゃんがいる。でも今は寝ている。

 昨日はあの瞬間起きていた。時間にして三十分ぐらいだったかな?


「だとすると夕方の四時ぐらいに桔梗が起きる可能性が高いな。その時に調べるしかないか」

「うん。本当はかんなちゃんをいろいろ調べたいとこだけど、鈴姉が許してくれなさそうだし」

「当たり前じゃない。……でもかんなに自我が芽生えたんだから、ロボットペットドックには出せないか」


 自我があるAIを破棄するのが本当ならば、公には出せなくなる。そうなると不本意で不安いっぱいだけど、英と桜ちゃんにメンテナスを任せるしかない。


「……変な改造は絶対にしないでよ」

「するわけないだろう? 普通に語原発言機能と動力発電を付ける。ついで手を自由に使える機能。段差も克服させねぇとな」


 これからのためにも意を決してお願いすると、英にしては控えめな改造だった。

 その程度なら問題ないどころか、今のかんなにはもってこい。

 変な思い込みしなければよかった。


「それなら大歓迎。疑ってごめん」

「気にすんな。早速作ってくる。桜は語原発言プログラムを頼む」 

「OK!! もうプロトタイプは出来てるから、後はかんなちゃんと接続して調節するだけ」


 英の頬が微かに赤く染まり桜ちゃんに指示すれば、余裕とばかりにそう言いバッチグーする。英はさっさと出ていく。

 英でも照れるのか。斬新で可愛い。


「どうやら俺の出番はなさそうだな。かんな本当にさっきはごめんな」

「ナイ?」

「ああ。もうイヤなことはしないから」

「イイヨ」

「ありがとうかんな」


 どこか寂しそうなゆず兄は、かんなの目を見て優しく話しかけ和解する。


 さっきはお姉ちゃんが絡んでいたからポンコツだっただけで、本来は有能で誰とでもすぐ仲良くなれる人なんだよね? 優しくて優秀。

 私の初恋の人だと言うことは、ここだけの秘密。


「ねぇ鈴姉は英兄のことどう思ってるの?」

「良い意味での腐れ縁で、隣にいるのが当たり前の存在かな?」


 いきなり何と思いながらも、それしかない答えを答える。


 英だってそう思っていると……厄介者だと思われてるかも? もしそうだったらショック。


「へぇ~。かんなちゃんネストに戻ってくれる?」

「アイ」


 満足そうな笑みを浮かべかんなに頼み、かんなは言われた通りネストに戻る。

 これはプログラムされた行動。


「桜ちゃん、どうせなら少し舌足らずな喋り方が良いな」

「それはかんなちゃん次第だよ。私はただ発音しやすくするだけだよ」

「そうだよね?」


 私の浅はかな考えはバッサリ切り捨てられ、当然の答えに恥を知る。


 かんなは考えてしゃべるんだから、注文なんてしたら失礼だ。かんながしゃべりたいように話せば良い。


「でも今確認されているのは幼稚レベルみたいよ。まぁ確認された時点で消去しているから、当たり前と言えば当たり前か。公式にはバレないよう偽情報が行くよう設定しておくからね」

「何から何までありがとう」

 

 いつもながら桜ちゃんの先見の目には感心してしまう。

 私だったらそこまで頭は回らず、公にバレたら速攻ジーエンド。

 そんなことにならなくってよかった。




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