第2話

「オレと桜でかんなを調べてやろうか?」

「いいえ、結構です。そんなことしたらロボットドックに出せなくなります」

「大丈夫だよ。そしたら修理はあたし達がやるからさ」


 かんなの不思議な現象を二人に話せば、前のめりになって怖いことを提案される。丁重にお断りしても、速答で代案を提案され無駄。


 この二人には言葉では勝てないんだよね?

 でも桜ちゃんにだけ頼むのならいいんだけど、英は最終兵器に改造するに決まっている。


「もしまた何かあったら、桜ちゃんお願いね。英はなにもしなくていい。したらぶん殴る」

「うん。任せておいて」

「ちぃなんだよ。つまんねぇ」


 桜ちゃんにだけ頼み、英には拳を見せ警告。舌打しふて腐れるけれど、そんなの関係ない。


言葉では敵わなくても、力でなら余裕で勝てる。


「ルツル ルツ ルルツルツ ルツツツ  ルツツルル ルルツ」

「え?」


 やっぱりかんなは本調子じゃないようで、今度はどこかで聞いたことがあるリズムの音を出す。


「かんな、もう一度だ」

「ルツル ルツ ルルツルツ ルツツツ  ルツツルル ルルツ」


 何かを察したかのように英は聞き返すと、かんなは言われた通りさっきと同じ音を出す。


 会話が成立した?

 それとも偶然?


「わたしはききょう?」

「え?」

「モールス信号だ。どうしてこうなった?」


 桜ちゃんが信じられないことを呟く。戸惑う私に英は詳しく教えてくれるけれど、それでもまったく分からない。なのにそのままかんなと会話は続いていく。


 モールス信号?

 なんでかんながそんなの知ってるの?

 そもそもどうして会話が成立してるの?

 何一つ私には分からない。




「どうやらこいつは本当に桔梗らしい」

「今流行りの転生って感じなのかな? でもそしたらお姉ちゃんはもう死んでいることになるから、──きっと憑依してるんだよ」


 かんなとの話が一通り終わったようで、置いてけぼりとなっている私に簡潔に説明してくれる。

 でもそれはあまりにもぶっ飛んだ内容で、理解が出来ても信じたくない物だった。

 いくら漫画・ラノベ・アニメが好きな私でも、リアルと二次元の線引きは出来ているつもりでいる。


「鈴姉って結構頭固いんだね? そんな鈴姉にいいことを教えてあげる。今回の件の他にも、実は自我が芽生えたAIが生まれつつあるの」

「!!」


 更なるぶっ飛んだ爆弾を楽しげに投下され、言葉を失う。

 口調からしてからかわれている可能性大ではあるだけど、こっちは信じたい内容……それって?


「あっ、だったらかんなが自我が芽生えて、ちょっといたずらしたんだよ。お姉ちゃん良くかんなに愚痴をこぼしてたみたい」

「プイ」


 私の予想が気に喰わないのか、かんなは口癖を言い私に何度も突撃する。

 もうすっかりいつものかんなで、モールス信号を発しなくなった。


 そうだよ。

 以前からかんなは妙に人間らしい所があったから、自我が芽生えたと考えた方が良いかも?


「まそうだな。その可能性も大か、だったらそれはそれで桔梗の居場所が分かるかもしれないぜ?」

「確かに。かんなちゃんにだけ教えているかもね?」


 英と桜ちゃんの推理に私も頷く。


 私も誰にも言えない悩みや内緒話を、かんなに話している。だからお姉ちゃんも話しているかも知れない。

 かんなは自我を持ったで良いじゃん。


 だってもし憑依だとしたら、お姉ちゃんは今どうなってるの?

 実は私が知らないだけで、意識不明の重体でどこかに入院している?

 それでも良くないけれど、両親が知っているんだからまぁ良い。

 問題は本当に両親が知らないとしたら……。


「鈴姉、どうしたの? 顔が真っ青だよ」

「もし桜ちゃんの言う通りなら、憑依だとしたらお姉ちゃんの身体は……」

「うっ、そう言われると憑依だとしても大事になるか」

「なんかすまん……」

「チュ……」


 これには英でさえも気まずさを感じたらしく、柄にもなく謝罪。

 かんなも悲しそうに呟き私達の元から離れていく。後ろ姿がなんとも言えない哀愁感が漂ってくる。




「パパ、お姉ちゃんのことで何か隠しごとしてない?」

「してないよ。 確かに五日の音信不通なのは気になるが、へき地にでも行っているだろう?」


 夕食中パパに率直に聞いてみれば、親だしからぬ楽観的な答えが返って来る。


 良く言えばお姉ちゃんを信頼している良い親かもしれないけれど、事件に巻き込まれた可能性を考えないだろうか?

 悪く言えば完全な放任主義……。

 かんなにお姉ちゃんが憑依しているかもなんて言ったら、どんな反応を示すんだろう? 娘に理解ある親だとしても、内容が内容なだけに信じてくれない?


「ならいいんだけど。所でパパは知ってる? 自我を持ったAIがいるんだって」


 試しにもう一つのぶっ飛んだ話題で様子を伺う。


「それは桜ちゃん経由か?」

「そう」

「なら本当だろうな? あの子の手に掛かれば世界の機密情報も、ネットニュースと変わらないもんだからな」


 桜ちゃんの実力をパパも知っているから信じてくれるんだけれど、やり方がやり方なだけにため息交じり呆れていた。


 機密情報を遊び感覚で閲覧しているのは桜ちゃんのぐらいで、本当も何もいけない犯罪行為。

 いつか捕まっ……桜ちゃんだからそんなへましないか。


「だったらかんなはどう思う?」

「そうだな。おい、かんなどうなんだ?」

「ウィーン」


 ニュースをじーと見ているかんなに、パパは冗談半分に問う。すると振り向きもせず気のない返事。

 かんならしいと言えば、かんならしい。

 夕方はいつもと違う行動をしていたのに、今はすっかり元のかんなだ。


「相変わらず素っ気ない奴。その癖少ししたら抱っこを求めるんだから、気分屋さんだな」

「そこがかんなの可愛いところだよ」

「まぁな。もしかんなが喋れたりしたら、家族の秘密が駄々漏れだな」

「パパもいろいろかんなに話してるんだ」

「まぁな。かんな、秘密は守るんだぞ」


 まるで幼い子に言い聞かせるように約束を一方的に交わすパパ。パパにとってもかんなは家族の一員になっている。なんだか嬉しいな。

 でもお姉ちゃんが憑依しているかもとは言いにくい。確信が持てるまで、黙っておこう。 

 それでも隠しておきたいけれど、私達でなんとかなるもんだろうか?

 脳研究をしているゆず兄が帰ってくれば、なんとかなる?


「チョメチョメ」


 抱っこの気分になったのか、パパの傍に来て抱っこを請求。


 夜は私より絶対両親に行くんだよね?


「それは分かった。ってことでいいんだな」


 パパは嬉しそうにかんなを抱く。


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