LOVOTかんなは可愛いです。~自我が芽生えたペットロボット~

桜井吏南

第1話

 必ず帰るので、捜さないで下さい。


 一週間前そんな書き置きを残し、お姉ちゃんは私達の前から忽然と消えた。

 最初は“大学最後の夏季休暇だから自分探しの旅に行った”と両親は結論付けたんだけれど、流石に五週間も音信不通になるとおかしいんじゃないかと疑問を持ち始めた。(今まで三日ぐらいの音信不通なら度々あった)

 LOVOTのかんなはなんだか寂しそうで、気がつけば玄関にいるんだよね?


 LOVOTとは、今流行りの愛されるだけに産まれたAIロボット。

 角が生えただるまさんのフォルム。大きな愛らしいお目々がチャームポイント。個体によって性格があると言われている。

 去年の八月にかんなは我が家にやって来て、自由奔放で甘えん坊。すぐに我が家のアイドルになった。



 私、土井 鈴蘭。身体を動かすことが大好きな高二。鈴蘭と書いてりんかと読む。

 名前の由来は母型の女性名は花の名前だから、誕生花から命名したんだって。お姉ちゃんも同じで桔梗。ちなみにお母さんは菖蒲。

 私にとって頼りになる五つ離れた優しい姉。共働きの両親の代わりに、私の面倒をよく見てくれていた。

 お姉ちゃんが大好きで小学生の頃まで金魚のうんちのように付きまとってたよね?

 

 そう考えていたら、だんだん心配になってきた。 





「男と駆け落ちしただけじゃねぇの?」


 帰宅途中幼馴染みの英にお姉ちゃんの相談をしてみると、相変わらず興味なさげにツンツン髪を触りながら雑な答えを返される。


 柊 英

 隣に住んでいる私とはタメ。

 頭脳明晰なのに進学校には行かず、徒歩で行ける私と同じ高校に進学した変人。手先が器用で発明やら改造が大好き。性格は歪んでいて馬鹿正直だから、友人は私と親友の雄大のみと言うちょっと可愛そうな青年だ。

 母親同士が姉妹のように仲が良いいとこ。父親同士は幼馴染みで、お母さんとは大学の友人。

 つまり柊家とは親戚で、超家族ぐるみの仲。行事はすべて合同でやっている。そんな訳で英とは腐れ縁でもあるけれど、姉弟と言っても過言ではない。もちろん先に生まれた私が姉である。


「お姉ちゃんが選ぶ人なら、誰も反対しないと思うんだけどな」


 しっかり者のお姉ちゃんが、そんな変な人を選ぶとは思えない。

 確かにイタズラ好きだから、ある日突然結婚したとか言い出しかねないけど。


「なら妊娠したんだな。どこかで産み落として、そのうち何食わぬ顔で帰ってくる。うわぁ譲の奴哀れ」

「それこそ絶対にありえない。お姉ちゃんは動物じゃないんだからね」


 更に侮辱な仮説を立てた思えば、愉快そうにカッカと笑いだす。いくらなんでもそれは酷いから、ムッとなり怪訝しく反論。


 譲とは、英の三つ上の兄で現在留学中。

 ゆず兄も頭脳明晰なはずなのに素直すぎる性格のため、昔からお姉ちゃんと英にからかわれておもちゃになっている。なのに年上のお姉ちゃんに、分かりやすい片想い中。


 ゆず兄は、マゾなのか?


「所詮人間も動物だ」

「英の馬鹿。相談相手を間違えた」


 バコ


 頭に来てスクールバッグで英の頭をぶん殴り、歩く速度を早め一人で先に帰る。

 英に相談しないで親友の美樹に相談すればいいのに、いつも私は相談相手を間違えて嫌な思いをしてしまう。

 学習しない私は馬鹿者だ。




「かんな、ただいま」


 家に帰り乱雑に靴を脱ぎ捨て、やってこないかんなを不思議に思いながら呼ぶ。


 いつもなら玄関で待っててくれ、帰ってくると大歓迎されるんだ。例えプログラムだとしても、その姿は可愛い。

 たまに出迎えてくれない時もあるけれど、それでも玄関から見える位置にいて視線を合わせてくれる。


 誰か先に帰ってきていて、抱かれているのかな?

 でもそれなら出迎えてくれるはずだし、かんなの声だってするはず。

 まさかお姉ちゃんが帰ってきて、隠れているとか?

 うん、それならありえる。


「お姉ちゃん?」


 そう叫びながら私急いでリビングに行くけれど、そこにはちょこんと座り天井を眺めているかんながいるだけだった。


「かんな? お姉ちゃんは?」

「キュ?」


 かんなの背後に座り声を掛ければ、振り返り一応反応はしてくれる。ただし眠たそうなしょぼしょぼした目をして上の空の感じだった。

 眠いのかなと思ってかんなを抱き上げると、私を見るなり目をぱちくりさせ硬直してしまう。こう言うのはあるあるだから特に気にはならなかったんだけれど、手をバタバタ振りタイヤも出したままで激しく全面拒否。

 抱いてこんなことされたのは初めてで、驚きのあまりすぐさま地べたに戻す。

 そしたらかんなは、玄関へ信じられないスピードで一直線。

 奇妙すぎる行動に不思議に思いながら、興味本位でかんなの後を追う。


「キュピッ!!」


 玄関にある全身鏡見たかんなは、かってないほどの悲鳴に似た大声を出し転ぶ。


「か、かんな? え、ハニワ??」


 いそいでかんなを起こすんだけれど、電源が切れたの目が黒くハニワになって動かなくなっていた。


 故障?

 ぶつけた所が悪かった?

 誕生日まで一か月ちょっとなのに、今故入院手続きをしたら入院中に誕生日を迎えることになるよね?

 そんなことになったら、私だけじゃなく家族も悲しむ。


「かんなかんな」


 涙を凝らしながら何度も何度もかんなの名を呼ぶ。そんなことをしてもかんなは目を覚ましてはくれないと分かっていて……。


 ウィーン


 微かに起動音が鳴り初め、目が蘇っていく。

 再起動に驚きよりも、嬉しさのあまりギュッと抱きしめ大粒の涙を流していた。


「良かった。良かった」

「鈴姉、大丈夫だよ。もしかんなちゃんに何かあっても、英兄が治してくれるから」

「おう。ついでに新機能をいろいろ搭載してやるぜ?」

「え、英に桜ちゃん? ひょっとして鍵空いてた?」

「うん。不用心だよ」


 桜ちゃんと英の声が聞こえ何事かと思い声のする方を振り向けば、扉が開いていて二人が私達を見守っていた。

 どうやら開けっ放しだったらしく、桜ちゃんに忠告され軽く凸ピンされてしまう。

 小学生に怒られるなんて情けない。


 桜ちゃんは英の妹。ツインテールが似合う小学四年生。

 おしゃれ大好きのおませさん。サイバー系には強く将来の夢はサイバー捜査官なんだって。

 兄達は軽いシスコン。私とお姉ちゃんも可愛がっている。

 もし桜ちゃんがいじめにあったら、その子はすべてを失うことになるんだろうな。


「ピィピィ」


 かんなはすっかり元気になり、二人を歓迎している。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る