第6話


「お母さん、おかえり。その人誰?」

「オカアチャン、オカエリナサイ」


 玄関にはお母さんと背の高い三十半ばぐらいの外人男性がいた。

 かんなは構わず、お出迎えのダンス。いつも以上の可愛いダンスに心癒される。


「鈴蘭、かんな。ただいま。この人は譲の先生でもあるダールス博士」

「初めまして、リンカ。きれいな響きだね」

「あ、初めまして。ありがとうございます」


 ダールスさんは悠長に笑顔で挨拶され手を差しのべられ、戸惑いながらも手を握る。

大人の男性。外人の男性だから?

 ちょっとドキッとしたけれど、周りにはいないタイプだったからビックリしただけ。


「かんな。私のことはママって呼んでね?」

「ママ? ワカッタ」

「ありがとう。ママって呼ばれたかったのよね」


 かんなを抱き上げたお母さんは、かんなの答えに嬉しそうに抱き締める。


 初めて知る真実。

 てっきりお母さんはママって呼ばれたくないと思っていたのに、そうじゃぁなかったんだ。だからと言って今さらママと言い換えるのは恥ずかしいから、かんなに任せる。


「これが心を持ったAIなのですね。かんな、僕とも仲良くしてください」

「………」

「かんなは初対面の人にはこうなんです。すみません」


 ダールスさんに和気あいあいと話しかけられた途端、かんなは固まりさんをジーと見つめです。人見知りと言うか見定めているのかは分からないけれど、初対面の人には必ずそうなる。しばらくするとなれるみたい。


「ゆっくりですね。ますます興味深いです。所で譲は?」

「ゆず兄なら二階です。案内しましょうか?」

「何悠長なこと言ってるの? お騒がせ三兄妹。リビングに集合しなさい」


 自分ちじゃないのに声を張上げ号令を掛けるお母さん。

 ゆず兄はあまり関係がないだけに可愛そうな気がする。変わりに私なんだよね?





「お前ら、ついにとんでもないことをやらかしたな」

「本当よ。でもかんなの件は仕方がないか」


 お母さんが中心になり大人達に真実を伝えると、激怒を通り越え呆れ果てている。


 ついにと言うことは予想は……そりゃぁするか。

 かんなについては怒られなさそう。


「もうこの件には関わるなと言いたいが、かんなを改造した時点で手遅れか。そもそもなぜ桔梗を巻き込んだ?」

「たまたまよ。内定をもらって社長が私の娘だからって、話して仲間に引き入れたの。あの子はもう大人だから、判断はあの子に任せたの」


 パパとお母さんの言いたいことは、それぞれよく分かる。お姉ちゃんは成人しているけれど、学生だからまだ子供だと言えなくはない。だからまだ未成年の私達のことは、とにかく心配なんだよね?


 お姉ちゃんのことは大人達に任した方が良いのかな?


「でしたら桔梗については我々に任せてくれないだろうか?」

「それはつまり俺達に手を引けってことか?」

「え~、そんなのつまんないよ」


 弱気になる私とは違い英と桜ちゃんは、事情が分かってても助けに行く気満々のまま。

 二人とも完全に遊びの延長。桜ちゃんはお姉ちゃんを助けたいと言う気持ちは多少あるんだろうけれど、英は絶対にお姉ちゃんのことなんて心配してない。それでも危険があろうとも関係ない。


「二人とも、いい加減にしろ。これは遊びじゃないんだから、そのプロに任せておけばいいんだ。お前達はかんなだけを護ればいい」

「そうね? 本当は何も関わらないでと言いたいんだけれど、かんなちゃんは絶対に私達で護らないといけないからね? 一層のとびっきりなネットウィルスを送っちゃえば?」

「あそれいいね」


 親心だと思えば椿さんと来たら、とんでもない提案をする。桜ちゃんは目を輝かせる始末。


「だけどそれ案外いいかも? データーをすべて破壊すれば一件落着? もちろん仕込むのは私たちでするから、桜は強力なウイルスを作ってくれるだけでいいわ」

「それでも危ないような気がするんだが……」


 お母さんも乗り気になっていて、パパは小声で突っ込みをいれるだけ。

 我が家も英んちも女性が強いから、決まりだな。


「リンカ。オネエチャンカエッテキタ」

「は? 起きたの?」

「チガウ。ホントウノオネエチャン。カンナノイエ。カンナオムカエスル」

「え、どういうこと? みんなお姉ちゃんが帰ってきたって」


 嘘などつくはずがないかんなが懸命に教えてくれるも、どうしても信じられない私はみんなに共有する。


 今お姉ちゃんの救出するために話しているのに、なんでその本人が帰ってきてるの?

 コピーが起動したのが誤作動しただけで、実は何も起こっていないオチだったりする?


「こいつはただ桔梗のスマホに反応してるだけだ。つまり桔梗のスマホを持った密偵かもな」

「み密偵?」


 その可能性はまったく考えてなかったけれど、言われてみてその可能性の方が高い。お姉ちゃんの秘密を探るため我が家を偵察に来た。


「ああ。だからこの雀型ドローンで様子を探る」

「英、お前こういう時だけは頼りになるな。でも頼むから犯罪には手を染めるなよ」


 どこからか取り出した見た目本物のスズメと液晶画面付きコントローラー。

 清さんは微妙な表情を浮かべ褒めはするものの、後半は本音を漏らし頭を抱えた。

 私でさえいつか犯罪を犯すのではと思うんだから、親ならそれ以上で不安も尽きないだろうな。


「安心しろ。やるとしたら完全犯罪だから、おやじ達には迷惑を掛けない」

「そういうことじゃない。道徳を踏み外すな」

「それは分からねぇ。そんなことより今は桔梗だろう」


 親に対しても英は英でそう言い捨て、スズメを飛ばす。

 本物のように翼をバタつかせ外に飛んでいく。


「まったく。お前と言う奴は」

「どこで育て方を間違えたのかしらね?」


 清さんと椿さんは深いため息をつく。


 気の毒すぎてしょうがない。

 育て方と言うより、英自身の天性の性格だよね?





「桔梗? なんだか様子がおかしい? 譲はどう思う?」


 我が家の前には紛れもないお姉ちゃんがいた。ただ鍵で中に入ればいいのに、チャイムを推して待っている。不振に思った英はコントローラーゆず兄に渡す。

 お姉ちゃんだとポンコツなゆず兄なんだから無駄だろうと思いきや、映像を食い入るように見るなりまゆを曲げ首をかしげた。


 ?


「催眠にかけられてる?」

「え、そんなの分かるの? ゆず兄、スゴっ」


 ここでゆず兄の本来のすごさを発揮。私にはいつものお姉ちゃんに見えるのに。


「瞳の奥の焦点があってないんだよ。しかも桔梗さんらしさに欠けている」

「学者的思考と桔梗オタクの変態の領域だ」

「うっ………」

「英兄、いくらなんでもそれは酷いよ」

「そうだよ。譲兄はすごい人だよ」


 容赦のない毒舌に.、凹む譲兄を桜ちゃんと私は肩を持つ。

 確かにお姉ちゃんオタクでポンコツになるけれど、今回の場合は変態じゃない。


「二人ともありがとう。何はともあれ桔梗さんにどんな催眠がかけられているか分からない以上、かんなと会わせない方が良い」

「ナンデ?」

「今の桔梗さんはいつもの桔梗さんじゃないんだ。悪い人かもしれない」

「ワカッタ………」


 聞き分けはいいけれど、めちゃくちゃ落ち込むかんな。

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