第114話 警戒しすぎ? しなさすぎ?

 超特大スライムを倒した後も一息つく暇もなく戦い続けた。スライムの発生源は全て浄化し、超特大スライムも倒したが、それでもかなりの数のスライムが街中に残っていたのだ。


 ただ、エドワードや騎士団長らは魔力切れを起こしていた。俺とジェラルド、キースの三人で倒すハメに。


 領地中のスライムを一掃していたら案の定負傷者も数十名残っていた。


『あ、ここにもいた』


『お前がいなかったら、みんな死んでんだろうな』


 幸いな事に、致命傷になり得る傷も息さえあれば治癒できる。


 ちなみに、この負傷者達は冒険者だ。どこから来る自信か分からないが、自分ならこの騒動を鎮めることが出来ると思ったようだ。


 ——そんなこんなで、ローレンス伯爵領を守り抜いた俺達は、その後も二つの領地を守り抜いた。


 その二つは、先日と同様に騎士の育成が盛んな地域と魔術師が沢山いる地域だった。戦力になるかと思いきや、魔王はこれまた痛い所を突いてくる。


 騎士の育成が盛んな地域は、やはり魔法に疎い。次は飛行タイプ一色で攻めて来た。剣が届かないので何の戦力にもならない。


 そして、魔術師が多くいる地域は巨人族が送られてきた。敵は十体だったので、皆が余裕で倒せると勝った気でいると、上空から花粉のような物が降ってきた。と、思ったら声が出せなくなったのだ。


 声くらい、と思うかもしれないが、人間界で無詠唱で魔法が発動出来るのは俺とジェラルドだけだ。声が出せなくなった魔術師はただの人。しかも、魔術に特化していた為、剣どころか鍛えてすらいない。邪魔でしかなくなった。


「そういや、スライムのとこの団長、かなり広範囲に俺達の噂広めてるらしいぞ」


「そうなの?」


「最後の必殺技は、自分も力を貸したって自慢してるんだと。あいつ魔力込めただけなのに図々しいよな」


「はは……まぁ、認められたってことかな?」


 ヒューゴの弟子で、しかも子供だからと、俺達は騎士団長に邪険に扱われていた。しかし、今回の事で手の平を返すように態度も変わった。更には領地の弱点を克服すべく日々奮闘していくと意気込んでいた。


 それもこれもリアムの思惑通りになった。


 ——予告しての襲撃だったにも関わらず、全く機能しなかった騎士団。いかなる敵にも対処出来るように自分達の弱さを認める必要がある。


 馬鹿にしていた相手の力を目の当たりにすれば、悔しさ、嫉妬、憧れ、様々な感情が渦巻き今後の糧となる。そしてそれは国民を守る力となる。つまりは、国も強くなり安定した国家が築けるというわけだ。


 途中、俺とエドワードに騎士団長の元で団員の救助を命じてきたのは今後を見据えてのことだったらしい。


「単純に腹が立ってたってのもあるけどね。僕の親友……お嫁さんを泣かせるなんて許せないよね」


「リアム、俺、別に泣いてないよ。それに、わざわざ親友をお嫁さんに言い換えなくて良いから。親友にしといてよ」


「それより、オリヴァーは早く寝なよ。オリヴァーの光魔法がないと負傷者は助からないんだから」


「そうだぞ。襲撃は明後日だからな。早く魔力回復させろよ」


「分かってるけど、二人ともそんなに見ないでよ。眠れないじゃん」


 そう、今はベッドの中。リアムとジェラルドに挟まれて横になっている。


 次の襲撃は隣国のブライアーズ王国。よりにもよってアーサーの元主人であるアーネット公爵の領地。


 今回は大々的に名を残しながら戦わなければならない為、しっかりと手順を踏んで入国した。ただ、自国の王にリアムの情報はガセだと訂正されている俺達は、きっと歓迎されていない。しかし、王子の入国ともなると一応もてなす必要がある。


「一人一室用意されたんだから、わざわざ相部屋にしなくても良かったじゃん」


「お前、あいつの顔見ただろ? お前を見るなり鼻息荒くしてたぞ」


「でも今は普通に男だし、バレてはなさそうだったよ」


 アーネットに挨拶する際、俺は普段通りに。そして、ジェラルドは紺色の髪を隠し、金髪の長髪のカツラを付けて変装した。


 長髪を付けたらジェラルドも女の子になるのかと思いきや、魅力が増しただけだった。


 ちなみに、ノエルはアーサーらと共に村の小さな宿に泊まっている。変態アーネットに可愛い妹は見せたくない。俺もノエルのそばにいたかったが、ノエルに断られた。


『リアム殿下に何かあったらどうなさいますの? お兄様はリアム殿下をその命に代えても守ってみせるのでしょう?』


 結局、エドワードとキース、そしてショーンがノエルのそばにつくことに——。


「とにかく、一人部屋になんてなったらあいつに襲われるぞ」


「それに、アーサーも言ってたでしょ? 息子のチェスターまで君を狙ってるって」


「でも、あんな紳士的な人が本当に俺を狙ってんのかな?」


 アーネットの息子チェスターは、父とは反対に誠実そうな青年だった。


 この親子の会話をアーサーがスキルで聞いたところによると——。


『あの少年を利用すれば父上が国王になることも夢ではなくなりますよ』


『謀反を起こせと言うのか!?』


『父上も、ずっと現国王に不満を抱いていたではありませんか。噂程の少年でなくとも光魔法は役に立ちますし、今回がチャンスかと』


 チェスターはどうやら俺の光魔法を利用したいらしい。


 故に俺を性奴隷にしたいアーネットと光魔法を悪用したいチェスター。二人から俺は狙われているんだとか。


「だけど、警戒しすぎじゃない? 簡易だけどベッドも一人一つ用意してくれてるのに……」


「お前が警戒しなさすぎなんだよ」


「あ、そうか。俺があっち行けば良いのか……わッ」


 起き上がってベッドを移動しようとすれば、両脇からジェラルドとリアムに捕まり、再びベッドに戻された。


「お前二回も連れ去られてんだぞ。危機感ねーな。ほら、腕枕してやるから」


「そうだよ。ただでさえオリヴァーは隙だらけなのに、奴隷の首輪付けられて僕達でも見つけられない所に監禁されたらどうすんの?」


「そんなことしたら国際問題に発展して……」


「普通はね。だけど、襲撃に乗じてオリヴァーは死んだか失踪したと言い張るよ」


「確かに……」


「だから、僕らから絶対離れちゃダメだよ」


 それ以上は言い返す言葉もなく、俺はジェラルドに腕枕をされ、リアムに布団の上からトントンされながら眠りについた。

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