第113話 必殺技は叫ばないと発動しない

 超特大スライムは避難者が一番多い教会へと進んでいた。


「ジェラルド、あれ凍らないの?」


「やってみたけど、全然ダメだ」


「ジェラルドでもダメか……みーちゃん、あれ食べられる?」


 みーちゃんが巨大スライムを食べたのを思い出して聞いてみると、そっぽを向かれた。


「デカすぎるのはダメなんだ。贅沢だな」


「キィ!」


「ごめんごめん、さっきはありがとう」


 みーちゃんは食べる代わりに黒い球をスライムに向かって放出した。


 ポヨンッ。


「え……」


 シュッ、ドカーン!


 超特大スライムに跳ね返されて、みーちゃんの攻撃は俺とジェラルドの間をすり抜けた。そして、後ろにあった建物が直線上に全壊し、一本の道が出来上た。


「見晴らしが良くなったな」


「ジェラルド、そういう問題じゃないよ」


 俺は闇魔法で超特大スライムを雁字搦めにしてみた。


「お、動きが止まった」


「これなら暫くは大丈夫かな」


 皆が喜びの声をあげた。しかし、それもすぐに落胆の声に変わった。雁字搦めにした闇魔法の隙間からツルンと抜け出したのだ。


 次は光魔法を放ってみた。


 ジュッ。


 光魔法が当たった箇所が抉れた。


「やっぱ光魔法は万能だな」


「見てよ、あっという間に修復されちゃった」


 近くにいたスライムが抉れた部分に飛びつくと、吸収されて元に戻るのだ。


「うわ、怒ってるよ。こっち来た」


「デカい分ノロマだから大丈夫だっ……わッ」


 超特大スライムはジェラルドの声に怒りを覚えたかのように、素早く体当たりしてきた。咄嗟に闇のシールドを張ったので、それにぶち当たってポヨンとその場に落ちた。


「ふー、危なかったぜ」


「全然ノロマじゃないじゃん!」


 苦戦を強いられていると、団長が呟いていた。


「もうダメだ。あんなの倒せる訳がない。応援も来ないのに私達だけでは……そうだ! 応援を呼ぼう。王宮魔導士ならスライム如き。陛下に頼んで応援を」


 騎士団長が顔を上げた瞬間、リアムがそこに立っていた。


「応援は来ないよ」


「なッ、あなたは……」


「父上はアレを大したことないと思っているから、自分の領地くらい自分で守れと言うだけだろうね」


「では、どうすれば……まだまだ大きくなって」


 リアムが俺の隣に立ったので、小声で言った。


「ちょっとリアム、どうして出てきたの? 危ないじゃん」


「大丈夫だよ。オリヴァーがいるから。ね、ノエル?」


「え、ノエルまで? もう、二人とも結界の中にいてよ」


 危機感のない二人を注意していると、超特大スライムは教会に張った結界にぶち当たって吹き飛ばされた。吹き飛ばされたのは良いが、街は滅茶苦茶だ。しかも、最悪な事に教会から続々と民が出てきた。


「おい、お前ら出るんじゃねーよ!」


「こんな所にいたらあの化け物に殺される」


「早くこんな所から逃げましょう!」


 辺境伯領の民とは違って、ここの民は転んだ人を踏みつけながら我先にと逃げ出した。


 それを見たリアムが指示を出した。


「オリヴァー、ジェラルド、結界の条件を変更して。人が出られないように」


「お、おう」


「分かった」


 出来たか不安に思って結界を見ていると、人が光のベールに阻まれ、それ以上進めなくなっていた。


「何だよ、コレ」


「ここに見えない壁があるみたい」


 結界に阻まれて更に大混乱だが、中の方が安全な為我慢してもらうしかない。


「お兄様。やはり、ここは合体必殺技しかありませんわね」


「でも、アレみーちゃんの攻撃すら跳ね返すんだよ。普通に跳ね返されて街中滅茶苦茶に……」


「もう滅茶苦茶だろ」


「そうだけど……」


 リアムが聖剣を眺めながら言った。


「いつもみたいに振るんじゃなくて、刺してみたら?」


「巨大スライムは刃すら入らなかったよ」


 試しに超特大スライムにも剣を一振りしてみるが、ポヨンと跳ね返された。


「そっかぁ」


 リアムが顎に手を当てて考え始めた。そんなリアムに小さなスライムがピョコンピョコンと飛んできた。しかし、それを避けもせずに立っている。


「リアム、少しは逃げたら?」


「だって、オリヴァーが守ってくれるから」


「いや、守るけどさ……」


 釈然としないが、俺はリアムを守ってしまう。それがいけないのだろうか。


「光魔法なら効果あるんでしょ?」


「まぁ、すぐに修復されるけどね」


「じゃあ、試してみよう」

 




 聖剣に三人の魔力を込めた。


「じゃあ、騎士団長と副団長の魔力も込めてくれる?」


「リアム殿下。何をなさろうと?」


 騎士団長がリアムに聞き返せば、副団長が驚いたように跪いた。


「で、殿下!?」


「そういうことしなくて良いからさ、早くやってくれない? 結界の中で戦争が起こったらどうするの?」


 結界によってスライムからは守られているが、中で喧嘩が始まった。しかも、騎士の剣を奪い取って振り回している者までいる。


「威力がどうか分かんないけど、多いに越したことはないんだから」


「大は小を兼ねると言いますものね。ではお兄様、副団長はエドワード様と同じ水なので団長さんの『ファイア』を最後に付け足して下さいませ」


「はいはい」


 聖剣を騎士団長に渡し、魔力を込めてもらうと剣の五分の一が赤くなった。副団長も魔力を込めたが、既に水の魔力が込められているからか、それ以上の変化は無かった。


「よし、みんな行くよ!」


 俺とキースは超特大スライムの前に、ジェラルドとエドワードは両斜め前に立った。


 手始めに俺が光魔法を放つと、超特大スライムの体がジュッと音を立てて抉れた。そこへ小さなスライムがピョコピョコ跳んで来た。


「水よ、体内の水量を増やせ水量変化アマウントチェンジ


 エドワードが詠唱すれば、小さなスライムは弾け飛び、ジェラルドもやや大きなスライムを氷漬けにした。


「カウンター!」


 超特大スライムの修復されなかった部分にキースが追い打ちをかけるように光魔法のカウンター攻撃を放つ。威力の増した光魔法は効果的で、スライムは真ん中の方まで抉れた。


 そして、俺はキースがカウンターを出したと同時に走っており、抉れた部分に剣を突き刺した。


「刺さった……あれ?」


 跳ね返されることなく刺さりはしたが、何も起こらなかった。


「お兄様! アルティメットですわよ!」


「あ、忘れてた。アルティメット・ライトニング・ダークネス・フリーズ・ウォーター・ファイア」


 必殺技名を言うと、五色の光が聖剣から出て、超特大スライムの体の中で光った。そして、それが一気に弾け飛んだ。

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