第111話 重症者救出
上空から領地全体を見渡すと、騎士らの情報通り領地の端の方からスライムが発生しているようだった。そしてそれらは幸いと言って良いのか分からないが、領地の中心部に向かっていた。領地外の心配はしなくて良さそうだ。
副団長の指示が広まったのか、スライムに対抗出来ない騎士は、スライムを見るなり逃げるようにして近くにある避難場所へと走っていた。
「あ、ジェラルド達だ。俺と同じことしてる」
重症者に聖水を飲ませたのだろう。全裸で元気そうな騎士らが結界の中にいた。
俺が上空から観察しているのが見えたのか、アーサーの声が聞こえてきた。
『オリヴァー、どうだ? 上からの様子は』
「えっと——」
上空で見た様子をそのまま伝え、アーサーもそれをリアムに伝えたようだ。暫くして、指示された。
『スライムは発生元見つけないことには倒しても意味ないから、ひとまず重症者助けるぞ。だって』
「分かった。じゃあ、先に騎士団長がいない東に……」
『いや、オリヴァーとエドワードは団長のいる南に向かえ。で、ジェラルドとキースを東に連れて行けって。時間ないから最短で連れてけよ』
「了解」
みーちゃんが俺以外を背に乗せてくれないので、転移させる為に下降した。
「ジェラルド、キース!」
「お、オリヴァーじゃん……って、何すんだよ!」
「オレ、初めて空飛んだかも。ショーンに自慢しよ」
みーちゃんがジェラルドとキースの肩を鉤爪でがっしりと掴んで、上空へ飛んだのだ。俺自身びっくりしている。
「みーちゃん、優しくね。優しく」
「キィ!」
俺の言葉は通じていないのだろうか。みーちゃんは超高速で移動し、東側のスライムの大群の中にジェラルドとキースを投げ入れた。
「わっ、みーちゃんそんなことしちゃダメだって」
そして、ジェラルドが落ちた辺りを中心に半径百メートルくらいが極寒の吹雪と化した。
「うわー、怒ってる」
◇
「エドワード、ごめんね」
「はは、これくらい男なら……」
エドワードもみーちゃんの鉤爪に掴まれて騎士団長がいるであろう南に移動した。エドワードが涙目になっている。
「それより、ここも悲惨な状態になってるね」
先程と違うのは戦える騎士がいることか。しかし、ただそれだけ。巨大化してしまったスライムには誰の攻撃も通じない。
「子供がこんな所にくるんじゃない!」
「ですが団長。私達二人だけではもう……」
魔法の使える団長と団員の一人だけが無事だが、残りの団員は皆重症だ。
負傷者は炎や風のシールドで守られていたが、それは巨大スライムによって呆気なく破られる。その度に何度も張り直しをしているようだ。
しかも、負傷者は散らばっているのだ。散らばった騎士一人一人にシールドを張る為、魔力消費も大きいはず。
「駄目です。もう魔力が……」
団員の一人は魔力切れで新たなシールドが張れなくなった。巨大スライムが、倒れている騎士に触れる寸前、俺は闇魔法で騎士を引っ張った。
「ふー、今度は間に合った」
そのまま治癒魔法をかけると、傷は綺麗に治った。
「団長、何故だか痛みも全くありません」
団長達は、その一連の流れに呆気に取られていた。
「貴様……何をした?」
俺が助けたことが気に食わなかったのか、団長が苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「エドワード?」
エドワードが手を繋いできた。
「結界張って、負傷者治さないことには始まらないんでしょ? 早くしちゃおう」
「そうだね」
俺は闇の結界を張り、目に見える所にいる騎士を次々に闇魔法で結界内に入れた。
「負傷者は他にもいますか?」
先程治癒した団員が数を数え始めた。
「三人足りません。きっとどこかに……」
「駄目! 結界から出るとまたスライムにやられちゃう」
そのまま結界から出て団員を探そうとしたので制止した。すると、団長が怪訝な顔を見せた。
「結界? 結界はもっと複雑な詠唱が必要なはず……しかも、このオレでも習得出来なかった。こんな子供が張れる訳……」
団長が呟いていると、エドワードが怒った。
「あなたは騎士団長ではないのですか? 団員の安全を確保するのも役目でしょう。つべこべ言わず、早く団員を連れてくるべきではないですか?」
団長はかなり苛立ちを覚えたようだが、エドワードの言う事は正論だ。
「貴様に言われんでも分かっとるわ」
団長はスライムを避けながら団員を探しに行った——。
「他の人も無事だと良いけど」
結界内にいる騎士には治癒魔法を施し、最後の一本である聖水を騎士の一人に手渡した。
「残りの人はコレ飲ませてあげて」
「オリヴァー、それ君に万が一の事があった時用の……」
「待ってる時間が惜しいでしょ」
俺達はスライムの発生元に向かった。
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