第112話 超特大スライム

 草をかぎ分けながら進むと……。


「あった!」


 空中に波紋が広がり、そこからスライムが発生していた。


「オリヴァー、こっちにもあるよ」


「え? 四方に一つずつじゃないの?」


 エドワードに呼ばれて行くと、波紋が二つあった。


「本当だ。あ、あっちにも」


「これだけのスライムを一気に生産するには一つじゃ限界があるもんね。これは領地の周りを一周回った方が良さそうだね」


「一日で終わるかな」


 不安に思いながら、俺は四つのスライムの発生源を光魔法で浄化した。


 領地の外周ともなると、かなりの距離がある。しかも探しながら歩くと時間もかかる。ジェラルドと融合した結界はともかく、一人で張った結界が果たしていつまでもつか……。


 そんな不安を解消してくれる人が現れた。


「お父さん」


「私は君の父親ではないが?」


「あ、いや……間違えました」


 実の父ではなく、アーサーの仲間のお父さん。名前は……忘れた。


 そして、お父さんの肩や頭の上には小鳥が止まり、ウサギやリスなどの小動物がちょこんと足元に佇んでいる。


「ここもか。助かる」


 お父さん、実は動物や鳥と話が出来るスキルの持ち主だ。スキンヘッドの強面の顔には似合わない。そんなお父さんが、印のついた地図を手渡してきた。


「私達は発生源を探すことしか出来ない。申し訳ないが、宜しく頼む」


「これ全部お父……あなたが?」


「ボクも手伝ったんだよ」


 ショーンがマッチョの肩に乗って反対方向からやってきた。


「ショーン、何でこんな所に?」


「だって……」


 ショーンがマッチョをチラリと見た。


「オレが頼んだんだ。何の役にも立てないのは嫌だから」


「違うでしょ。オリヴァーに負けたくないんでしょ」


「俺に?」


 マッチョは開き直ったように言った。


「アーサーは返してもらうからな。お前みたいに強くねーけど、オレだってやる時はやるんだから」


 なるほど。アーサーに出来るところを見せて株をあげようと。きっと、メガネも他の所で何かしているに違いない。


 とにかく、動機は何でも良い。今は手伝ってくれて感謝しかない。


「ありがとう」


「何でお前が礼を言うんだよ」


「一緒に人間界守ろう!」


「誰がお前なんかと……」


「でも、どうやってここまで来たの? スライムの大群がいたのに」


「走ってきた」


「走って……? 良くわかんないけど、これ有り難く使わせてもらうね」


 俺は地図を見ながらスライムの発生源を浄化して回ろうと一歩踏み出した。すると、マッチョがしゃがんで背を向けてきた。


「乗れ」


「えっと……俺、歩けるよ?」


「お前の足じゃ日が暮れるだろう」


「これだけ発生源があれば日は暮れると思うけど……」


 俺は困った顔でエドワードを見れば、お父さんが言った。


「デニス、お前説明不足だぞ。オリヴァー君、デニスは超加速のスキルを持っているんだ。ショーン君はこっちへおいで」


 ショーンがピョコンとお父さんに飛び移ったので、代わりに俺はマッチョの背に乗せてもらうことにした。


「じゃあ、お言葉に甘えて……わッ」


 マッチョの背に乗った瞬間、猛スピードで走り出した。



 ◇



「やっと終わった」


 マッチョのおかげで一日以上かかりそうなスライム発生源の浄化が、たったの二時間で終わった。


「エドワードはどこだろう」


 領地を一周して元いた場所に戻ってきてはみたが、エドワードやお父さんの姿は見当たらない。


「二時間も同じ場所にはいないか」


「おい、アーサー。グレッグとエドワードは何処にいる?」


「え、こっちからもアーサーに連絡出来るの?」


「オレ達は特別だ。特別な絆で繋がってるからな。羨ましいだろう」


 マッチョのドヤ顔にやや苛立ちを覚えるが、少し羨ましい。


「で、どこにいるって?」


「領地の中心部だってよ。皆集まってるらしいぞ」


「そっか、じゃあ俺も」


 転移しようとした瞬間、再びマッチョが走り出した。


「早く合流しないとヤバいって、アーサーが」


「なんて言ったの!?」


「早く行けって!」


 早すぎて互いの声が聞こえないので叫びながら話していると、あることに気がついた。


「スライム減ってない?」


「多少は倒してくれたんだろ」

 

「ちょ、ストップ、ストップ!」


 マッチョの肩をパシパシ叩いて知らせると、ピタッと立ち止まった。


「どうした?」


「急に止まらないでよ。吹っ飛ぶとこだったじゃん」


「どっちだよ」


「止まり方が極端すぎるんだよ」


「で、どうしたんだ?」


「そうだった」


 俺はマッチョから降りて、元きた道を走った。


「あ、いたいた」


 聖剣でやや大きめなスライムを斬り、そこに倒れていた副団長に治癒魔法をかけた。


「大丈夫ですか?」


「君はさっきの……助かった。感謝する」


「聖水は? って、もうないか。まだまだ負傷者はいそうですか?」


「全体の安否はまだ取れていないが、君達のおかげで随分と避難出来たと思う」


「おい、早く行くぞ」


「わっ、貴様、何をする!?」


 マッチョは俺を脇に抱え、副団長を背に担いで走り出した。


「さすがマッチョだ……」


 

 ◇



 数分後。領地の中心部に辿り着いた。


 そこにはリアム以外の仲間が集結しており、騎士団長の姿もあった。そして何より……。


「これ、スライム?」


 俺が知っている巨大スライムよりも更に大きなスライムがそこにいた。そこにいるスライムは一軒の家よりも大きく、近くにある建物をも破壊しながら移動していた。そして、それは小さなスライムを次々と吸収してどんどん大きくなっていく。


「これどうやって倒すの……?」

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