第110話 巨大スライム
西にはスライムがそれはもう数え切れない程いた。しかも、小さなスライム同士がくっ付き、やや大きなスライムに。そして、その連鎖は止まらない。人よりも大きなスライムまでいた。
「ギャァァァ」
「もうやめて! もう動けないから!」
「騎士なんてなるんじゃなかった。騎士なんてなるんじゃなかった。騎士なんてなるんじゃなかった……」
何処からか悲鳴や念仏のようなものが聞こえてきた。
俺は足場のスライムを聖剣で薙ぎ払い、道を作った。
「水よ、如何なる攻撃も防げ
エドワードが詠唱すれば、その道に沿って水のシールドが現れた。そこを通って声のする方へと向かった。
こんな時に不謹慎だが、水のシールド内は癒される。シールドを通して見えるスライムが、まるで海の中をふよふよと泳いでいるクラゲのようにさえ見えてきた。
ベチョッ!
呑気な事を考えていたら、巨大スライムがシールドに突撃してきて驚いた。
「オリヴァー大丈夫?」
「うん、ごめん。負傷者助けに行かないとね」
死者が出ていない事を祈りながら進むと、先程の声の主達がいた。
倒れている騎士は数十名。服は溶け、全身の皮膚は爛れ、見るも無惨な姿になっていた。かろうじて残った鎧さえもスライムによって溶かされつつあった。
「殺してくれ。オレを殺してくれ」
「ボクも、もう死にたい……ギャァァ!」
騎士の一人に巨大スライムがのしかかった。
俺は急いで巨大スライムを聖剣で叩き斬……れなかった。ポヨンと弾かれたのだ。
「聖剣が効かない」
「オリヴァー、先に治癒してあげて!」
「うん」
スライムが乗った状態で騎士に治癒魔法をかけた。しかし、皮膚が再生したと同時にスライムによって溶かされる。
今この瞬間、この騎士に息があるかは分からない。それでも、魔法をかけるのをやめたら確実に死ぬ。
「水よ、体内の水量を増やせ
エドワードが詠唱すれば、巨大スライムは更に大きく膨らんだ。いつもなら弾け飛ぶが、いつまでも膨らみ続ける。
「どうすれば……」
考えている間にも他のスライムが襲ってくる。小さいスライムはエドワードの魔法で消滅したが、次から次へとキリがない。俺は治癒の手を止められないし……。
「みーちゃん! あのデカいのどうにかして!」
「キィ!」
みーちゃんが出てくると、大きく口を開いた。そして、パクッと食べた。まるでゼリーを食べるかの如くパクパクツルンと食べた。
「みーちゃん? そんなの食べて大丈夫?」
「キキィ」
「美味しかったんだ」
メレディスが後でお腹を壊しませんようにと祈りながら騎士を治癒すると、傷ひとつない綺麗な元の姿に戻った。ただ、素っ裸だが。
「あれ、ボク……どうして?」
「良かった、死んでなかった」
かろうじて息はあったのだろう。治癒魔法をかけ続けて良かった。
「って、ホッとしてる場合じゃない」
他の人も重症だ。急いで治癒しなければ。しかし、スライムは次々に襲いかかってくる。治してもキリがない。
数十人転移させ、いざという時に魔力切れなんてシャレにならない。ただ、この大量のスライムの中、剣しか使えない騎士らが避難場所まで自力で辿り着くのは困難だ。
他の場所でも重症者は多数。光の魔力は温存させたい。
「やったことないけど出来るかな」
俺は闇魔法を優位に立たせて目を瞑った。
何だか手が寂しい……。
「ごめん、エドワード。手貸して」
「良いけど……はい」
エドワードと手を繋ぎ、ここにいる騎士達が入れる大きさの結界を張った。
「ふぅ、成功したみたい」
薄っすらと闇のベールが見えた。
「オリヴァーの手って小さいんだね」
「そう? ノエルよりは大きいよ」
「ノエルはこれより小さいのか」
エドワードが繋いでいた手を離して、手の平を合わせてきた。
「オリヴァー、今度シミュレーションさせてよ」
「何の?」
「ノエルと手を繋ぐシミュレーション」
「ぶっつけ本番で良いじゃん」
「手汗とかかいて嫌われたくないし。お願い!」
「良いけど……」
呑気な会話をしていると、騎士らの声が聞こえた。
「オレ、既に痛み感じなくなってる」
「ぼくもです……ギャッ、嘘でした。まだ痛覚残ってました」
「結界張って満足してた。スライム倒さないと」
エドワードと二人で結界内のスライムを倒し、騎士らを治癒した。
素っ裸の騎士らに結界から出ないよう説明し、俺達は上空からスライムの動きなどを観察することにした。
「だから、お願い。エドワードも背中に乗せて」
みーちゃんはそっぽを向いた。俺とメレディスのセットなら良いが、俺とエドワードが二人で乗るのはダメなようだ。
「仕方ないよ。僕、待ってるから様子見てきて」
「ごめんね。すぐ戻ってくるから」
俺はみーちゃんの背に乗って上空へと飛んだ。
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