第101話 付き従う者
俺達は久々に荷馬車に揺られている。侵略リストの一番上にあるアルフォード辺境伯領を目指して。
「ねぇ、リアム。今更だけど、このリストが嘘ってことないかな?」
「それはないと思うよ。力に絶対の自信がある人が、そんな卑怯な手は使わないだろうし……そもそもこれをゲームか何かだと思ってる魔王は確実にリスト通りに襲撃しに来るよ」
「それなら良いけど」
「まぁ、初めはだけどね。君達が侵略を全て食い止めていけば、焦りが生じて変更する可能性もある」
「それじゃあ……」
「でも大丈夫。その為にメレディスに魔王の元に戻ってもらったんだから」
そう、メレディスは魔界へ戻った。俺達の仲間として——。
三日以上経ってもメレディスが俺のそばから離れないので聞いてみた。
『メレディスが帰らないのは、魔王より俺の方が強いって思ってくれてるから? だから仲間としてここに居座ってるの?』
『それは違うな。嫁が心配なだけだ』
『やっぱ俺、弱いんだ……まだランクBだし』
何だかんだ依頼をこなせばランクは上がった。しかし、改めて弱いと言われると軽くショックだ。
『別に弱いと言った訳ではない。汝は優しすぎるのだ。そこが良い所でもあるがな』
『どういうこと?』
『威厳が足りんと言っているだけだ。他者を従える程の威厳が』
威厳なんてどうやって身につければ良いというのだ。ただ威張るのとは違うだろうし、やはりメレディスは敵に回ってしまうのかと残念に思っていると、ノエルが言った。
『メレディス様、魔王様とお兄様、どちらが好きですか?』
『何当たり前のことを聞いておる』
メレディスが俺の肩を抱き寄せて、うっとりとした目で見下ろしてきた。俺はメレディスから視線を逸らせた。
『もしも、お兄様以外の人間を殺せと命が下れば殺しますか?』
『無論、殺す。王命だからな』
『ですが、メレディス様。人間に危害を加えれば確実にお兄様に嫌われますわよ』
メレディスが青い顔をしている。
『それは
『それは逆効果ですわね。お兄様は責任感の強いお方。人間に危害を加えた相手と愛を育むくらいなら死を選ぶはずですわ。ね、お兄様』
死までは選ばないかもしれないが……。
『愛は育めないかな』
メレディスはショックを受けているようだ。一人後ろに後退り、しゃがみ込んだ。
『メレディス、仕方ないよ。王命だもん』
励ましたつもりが、追い討ちをかけてしまったようだ。
『何故だ。何故、汝に付き従おうと思えんのだ。残り一週間、みっちり鍛え上げて……いや、それよりも威厳か。威厳をどうにかして』
『メレディス落ち着いて』
『これが落ち着いていられるか。夫婦の離婚の危機だぞ』
ある意味嬉しいと内心思っていると、ノエルが得意げに言った。
『メレディス様。物は考えようですわ』
『どういうことだ?』
『力は力でも愛の力はどうです? 魔王様とお兄様、どちらが強いですか?』
メレディスの青い顔に血の気が戻った。
『喜べ。今、切り替わった』
『切り替わったって?』
『オリヴァー、汝のそばから片時も離れないと誓おう』
どうやらメレディスが愛の力で付き従う者を魔王から俺に切り替えたらしい。
そして、これはノエルとメレディスとの三人でした会話。その後、皆にメレディスが仲間になったことを伝えた。
『仲間になるなら、早速魔界に戻ってくれる?』
反対されるかと思ったが、リアムがあっさりと受け入れた。
『は? 何故私が貴様なんぞの指示に。私はここに残ると決めたのだ』
『暫くは戦闘にも加わらなくて良いから、魔王の側近として今まで通り生活して欲しい。で、予定とは違った動きがあったら教えて』
『私に諜報をやれと?』
メレディスは不愉快そうな顔をしたが、ノエルが上機嫌に言った。
『スパイなんて格好良いですわね! お兄様もそう思いますでしょう?』
『中々出来ることじゃないよね』
『そばを離れることになるのだぞ? それでも良いのか?』
『今生の別れって訳じゃないし、メレディスにしか出来ない役目だよね』
『そこまで言われたら致し方ない』
メレディスは渋々魔界へと戻った——。
「でもさ、メレディスは、こんなに頻回に手紙寄越して大丈夫なのかな? バレたりしないかな?」
実はみーちゃんを通じて、メレディスと手紙のやり取りをしている。内容は一枚目に『変わりなし』とだけ書かれ、二枚目に俺への愛がびっしりと書き綴られている。真面目な俺は、誰にも見られないように一読してから、みーちゃんに食べてもらっている。
「まぁ、バレたら拷問か何か受けるんじゃない? でも、オリヴァーをペットにしたがってる魔王だから殺しはしないよ」
平然と言ってのけるリアムが恐ろしい。
「それに、こっちに居座られて情報流されても困るでしょ」
メレディスは仲間の一員として認められたのかと思いきや、厄介払いをされただけのようだ。
「それよりお前、メガネとマッチョに何かしたのか?」
ジェラルドに言われ並走している荷馬車を見れば、メガネとマッチョがこちらを睨んでいた。
「何かしたのかな……」
アーサーが顔をヒョコッと出して手を振ってきたので、振り返すと二人の顔が更に険しくなった。そして、アーサーを隠すように馬車の中に追いやった。
「あれは……嫉妬ですわね。ね、ショーン様」
「だね。オリヴァーが妾とか勝手に作ってくるから」
「どういうこと? あれ、アーサーが言い出したんだよ」
ショーンが呆れたように窓の外を眺めた。
「メガネとマッチョはアーサーの事が好きなんだよ。見てたら分かるでしょ」
「そうなの? ジェラルド知ってた?」
「いや、全然」
「これだから童貞は」
「童……」
俺とジェラルドが動揺する前に、キースが動揺した。
「ショーン、お前経験あるのか? 猫になったのだって、こんな小さい頃だったぞ。人間と猫じゃ無理だろ……ってことは、相手はどの猫だ?」
「兄ちゃん、何言ってんの?」
「それより、お前いつまで猫の姿でいる気だ? もしかしてその猫の方が好きなのか?」
キースとショーンの言い合いが続く中、俺はアーサーの乗っている馬車を見つめた。
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