第七章 人間界侵略回避
第102話 幸せのカタチ
馬車に揺られること三日、アルフォード辺境伯領に到着した。
「やっぱ辺境の地って、ど田舎だよな」
「アーサー、やめてよ。辺境伯は伯爵より身分高いんだから」
「貴族は面倒くせーな。じゃ、おれら先に宿行ってるわ。聖水と結界宜しくな」
アーサー率いるパーティーとは一旦別行動することに——。
襲撃は明日の昼。流石に領地全てを結界で覆い尽くすことは困難な為、ひとまず街の中心部からやや離れた場所に位置する教会を中心に結界を張る事にしている。
結界を複数張ることも考えたが、結界が破られ混乱が生じることを想定し、今回は一つにすることにした。
また、負傷者を一人一人治す時間と魔力が惜しい。そこで、聖水の出番だ。
◇
「これで聖水出来たのかな?」
近くにあった湖に光魔法を付与してみた。いつも思うが、聖水はパッと見ただの水。自身で作っておきながら効果があるのか疑ってしまう。
「問題ありませんわ」
「大丈夫だろ」
不安に思っているのは俺だけのようだ。仲間は皆、疑いもせずに小瓶に聖水を汲み始めた——。
百本近く聖水が出来上がり、エドワードが立ち上がって言った。
「そろそろ移動しよ。なんか見られてるし」
「だね……もしかして聞かれてたのかな? アーサーが『ど田舎』って言ったの」
先程から一人の騎士が俺達を見ているのだ。
「まぁ、事実だしな」
「ジェラルドは良いよね。身分高いから」
「は? いずれお前が一番高くなるだろ」
「なんたって僕のお嫁さんだもんね」
「二人共、それいつまで続けるの?」
何故俺が男と結婚しなければならないのか。そして、リアムはそれで良いのだろうか。
「リアムは女の子が好きじゃないの? 冒険中も女の子に囲まれること多いけど、満更でもない顔してたじゃん」
「そんな顔してた?」
「してた」
リアムは俺の頭を撫でながら、嬉しそうに笑った。
「嫉妬してくれるなんて嬉しいね」
「嫉妬とかじゃないんだけど……」
「じゃあ何?」
何か……と、問われると困る。俺も女の子に囲まれてみたいと思わなくもない。やはり嫉妬なのだろうか。
いや、これは嫉妬の種類が違う。
「とにかく、男同士で結婚がおかしいって言ってるの」
ドサッ。
「ノエル?」
ノエルが荷物を落とした。しかも、顔が青い。
「お兄様……子供の頃の夢はどうしてしまったのですか? 諦めてしまわれるのですか? わたくし、お兄様の為を思って今まで応援してきましたのに」
「えっと、ノエル。俺一言も男と結婚したいなんて言ってな……」
この際、ノエルにもきちんと説明しようとしたら、ショーンとエドワードに怒られた。
「オリヴァー、酷いよ。ノエルはオリヴァーをずっと応援して頑張ってるのに」
「ショーンの言う通りだよ。冒険なんて貴族令嬢がついてくること自体普通じゃないんだよ。それもこれもオリヴァーの為でしょ」
「え、これ俺が悪いの……?」
皆が俺を見て頷いた。
俯いているノエルに俺は謝った。
「ノエル……ごめん」
何に対して謝っているのかは分からない。だが、謝らないと場の空気が悪すぎる。
「お兄様は、どうなさりたいのですか? 皆様と幸せになりたいのではないのですか?」
「なりたいよ」
「では何故結婚したくないなどと」
「だってそれは……」
幸せの形がズレているから。と、言っても良いのだろうか。ノエルの悲しむ顔は見たくない。
そうだ、こう言う時は——。
「リアムは俺とキ、キス出来るの?」
この前、アーサーが言っていた。
『結局、結婚ってキス出来るかどうかなんだよ。キスもできねー奴とは夫婦になっても上手くいかねーよ』
『アーサーは俺と出来るの?』
『出来るぞ。やってみるか?』
アーサーが俺の唇にチュッと軽いキスをした。そして、角度を変えて何度も何度も口付けた——夢を見た。
とてもリアルな夢だった。その時に分かった。キスが結婚の判断基準になるのなら、俺はアーサーと問題なく結婚できると。何よりアーサーは女の子だし。
「で、リアムはどうなの? キス出来ないんだったら、みんなで違う幸せの形を見つけよう」
馬鹿な事を言っているのは百も承知だ。しかし、リアムが俺を拒めばノエルも納得してくれるはず。
きっとリアムもごっこ遊びをやめるにやめれなくなっているだけだ。そう思って聞いたのに……。
「出来るよ」
リアムは俺の額にちゅッとキスをした。
「なッ」
「って言っても、今は刻印があるから出来ないけど」
「リ、リアムは男が好きなの?」
俺は額を押さえながら顔を赤くして問えば、リアムは考えるようにして言った。
「うーん……そういう訳じゃ無いけど。オリヴァーが好きかな」
「え……」
「僕の人生変えてくれたのって、オリヴァーなんだよ。ずっと一緒にいたいなって思うし、一緒にいる為に体の関係が必須なら喜んでするよ」
「もしかして、リアムは体の関係は望んでなくて……ただ一緒にいたかっただけ?」
結婚イコール夜伽みたいなことを考えていた自分が恥ずかしくなってきた。
リアムに頬を触られ、うっとりとした目で見られた。
「オリヴァーがしたいなら何だってしてあげるよ。あ、でもジェラルドとしろって言われたら、ちょっと出来ないかも」
「分かるー、俺もリアムにあんな事出来ねぇ」
「あんな事って?」
「耳をな……」
「ジェ、ジェラルド。それは内緒」
リアムの問いに、ジェラルドが平然と応えようとしたので焦って止めた。
「怪しい……僕に隠し事なんてしても良いと思ってるの?」
「あ、後でこっそり教えてあげるから。ね?」
流石にエドワードやキースもいる中で、ジェラルドに耳を舐め回されたとは言えない。リアムにだって本当は言いたく無いが、後が怖い。
「お兄様、良かったですわね。相思相愛ですわね」
ノエルが泣いて喜んでいる。
俺もリアムとはずっと一緒にいたいと思っていたので、相思相愛と言われればそうなのだが……少し違う気もする。
ただ、体の関係を望んでいなかった相手に、自分からねだった形になってしまった。
「結婚したら毎日してあげるね」
「えっと、何を……かな?」
「何をだろうね」
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