第100話 妾

 一度コツを掴んでしまえば、魔力の抑え込みは容易かった。闇魔法を抑え込んで光魔法を最大限に引き出すことにも成功した。


「メレディス、もう終わりにしようよ。出来るようになったよ」


「駄目だ。これくらいでは、切り替えている内に攻撃されてしまう」


 実はこの特訓、朝まで続いている。仲間達は流石に寝てしまい、メレディスと二人、外で特訓中。 


「仕方ない。今日はこのくらいにして愛でる方を優先してやろう」


「そっちはいらないから。それが無かったらもっと早く出来るようになってるよ」


「何を言っている。妹と猫も言っていたではないか。『愛の力は偉大だ』と。愛情を注いだからこそ、こんなに早く上達したのだ」


 メレディスは俺と二人きりになってからは、数回に一回は俺の黒い翼を執拗に触ってくるのだ。逃げようとすればすぐに捕まり、更に激しく触られる。


 この行為、人間から見ればなんて事ない光景に見えることだろう。しかし、この黒い翼は性感帯なのだ。つまり、外でエロいことを堂々としているのと同義だ。


 ちなみに、この翼は闇が優位に立った時に出てくる。そして、まだとても小さい為、空は飛べないらしい。何の意味もない黒い翼。


「あん……もう、羽はやめてよ」


 この翼のせいで、ただただメレディスにトロトロにされてしまう。


「その顔、何度見ても堪らん。もっと早く出来るようになったらご褒美に最後までしてやるからな」


 これを言われるから、本当はもっと早く魔力の切り替えが出来そうなところを敢えてゆっくりしているのだ。


「三日もすれば出来るようになるだろう」


「メレディス帰らないの?」


「出来るようになるまでは帰らん」


「はぁ……」


 どうするのが良いのだろうか。ひとまず翼を収めよう。そう思って光魔法を優位に立たせようとすれば、アーサーが宿から出てきた。


「こんな朝から何してんだ?」


「アーサーこそ」


「おれは体力作りの為にジョギングだ。それより、これが噂の五人目か?」


「これって……メレディスだよ」


 互いを軽く紹介すれば、メレディスは不機嫌そうにアーサーに言った。


「私は人間の味方ではない。嫁の味方なだけだ。そこを履き違えるなよ」


「あー、はいはい。オリヴァーも愛されてるな」


 面倒臭そうに話すアーサーが、今にも走り出そうとしたので呼び止めた。


「アーサー、少し付き合ってよ」


「おい、せっかく二人きりで愛を深め合っているのだ。何故他の奴を誘う必要がある」


「だって……」


 メレディスは二人きりの時にしか翼を触ってこない。俺の淫らな顔を他人に見せたくないらしい。


「おれを六人目にしようとするのだけはやめろよ」


「六人目とは何だ?」


 怪訝な顔でメレディスが俺を見た。


「俺達の仲間になりたくないってことかな……」


 苦し紛れに誤魔化していると、アーサーが一人呟き始めた。


「でもオリヴァーと結婚したら玉の輿か……それはそれで人生イージーモードに早変わり。女と結婚すると百合になっちまうし……かといってムサい男とヤりたくないしな」


「アーサー? 勘違いしてるようだけど……」


「良いぞ。結婚してやっても」


「だから、アーサー違うって」


 メレディスの周りに真っ黒いオーラが漂っている。大層お怒りのようだ。


「メレディス、違うからね、これは……」


「何が違うんだ?」


 にっこりと笑うメレディスが怖すぎる。


「あ、そうだ。アーサーは女の子なんだよ。ほら、見て」


「何すんだよ」


 俺はアーサーのカツラを取った。すると、長い栗色の髪の毛がパサっと現れた。メレディスは一瞬驚いた顔を見せたが、再びにっこりと笑った。


「だからどうした? 男が女と夫婦になることなど普通だろう」


 確かに。男同士の方が変なのだった。


「私とのことは遊びで、こっちが本命だったのか? 私を弄んで楽しいか?」


「ち、違うよ。弄んでなんてないって」


「では、今の状況を説明してもらおうか。ついでに赤髪の男との婚約についてもだ」


「いや、説明って言われても……アーサー」


 俺がアーサーに助けを求めれば、アーサーがニコッと笑って言った。


「おれ、一応公爵の元で育ったからマナーとかは何となく分かるぞ。それに、お前ら男同士だったら子供産めないだろ? おれが代わりに産んでやるよ」


 アーサーの精神は男だが、体は女だ。メレディスやリアムのように身も心も男と夫婦になるより一番良いような気がしてきた。


 アーサーに対して恋愛感情はないが、政略結婚だって同じ事。ノエルによって外堀から埋められている今となっては、普通の令嬢と結婚は困難かもしれない。これは願ってもないチャンスが訪れたのでは?


 そんなことを考えていたら、メレディスがアーサの顔をまじまじと見ていた。


「良いだろう。顔はいまいちだが、私達の妾として採用してやろう」


「なんかイラッとするけど、まぁ良いか。オリヴァー、そういうことだから宜しく」


 そう言ってアーサーは走っていった。

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