第99話 闇魔法の代償

「メレディス、もっと優しくして……」


「これでも優しくしてるつもりだ」


「初めてなんだから。あぁ……無理……痛……」


 痛みを我慢する為、俺はノエルのベッドの上でリアムの首に手を回し、ギュッと抱きついている。リアムも俺の背に手を回し、ポンポンと撫でてくれた。


 その姿を見兼ねたのか、メレディスはジェラルドに言った。


「試しに貴様のを入れてみるか」


 背後にいたメレディスが、ジェラルドに変わった。


「え、無理無理無理。これ以上は何も入らないよ」


「だが、辛いのだろう? 違う種類の魔力は緩衝材のような役割を果たすこともあると言われている」


「そうなの?」


「オリヴァー、入れるぞ」


 ジェラルドのひんやりとした魔力が俺に注がれた。

 

「本当だ。痛くなくなった」


 実は今、メレディスに光魔法と闇魔法どちらも最大限に引き出す方法を習っている真っ最中。


 ——ノエルの部屋に引き摺り込まれた俺はメレディスと向かい合って立った。もちろんジェラルドとリアムが俺の後ろに立っている。


『光魔法を最大限に出してみろ』


『は?』


『放出はしなくて良いからな。体に纏うくらいにしておけ』


 メレディスに愛でられる覚悟でノエルの部屋に入室したので突然の事に驚いたが、言われるがまま俺は光魔法を最大限に引き出した。


『やはりな』


『やはりって?』


『オリヴァー、汝の魔力は本来そんなものではないだろう?』


『確かにお前、昔より魔力量減ったよな。去年アイリス先生の元で同じことやった時はそれの数十倍はあったぞ』


『え、そうなの?』


 自分では分からないが、ジェラルドが言うならそうなのだろう。


『でも、何故?』


『本来、光と闇は相反する。私が光魔法で浄化されるように、汝も私の力にあてられているのだ』


『メレディスの力に? まさか放置してたら死ぬの?』


 顔を青くしていると、安心させるようにメレディスが言った。


『死にはせん。ただ、光も闇もどちらも半端な力しか出せなくなる』


 リアムも納得したように言った。


『なるほど。メレディスと同等の力が使えるって聞いてたのに、魔界に一度行っただけで魔力切れなんておかしいと思ったんだ』


『そんなんじゃ陛下には敵わん』


『でも、今はみんなもいるし何とか……』


『汝にも仲間がいるように陛下にも部下が腐る程おる』


 確かに。一人じゃなくなっただけで不利なのに変わりない。


『だけど、どうしたら……』


『案ずるな。その為に今日来たのだからな』


『え、愛でる為じゃ』


『それも勿論あるが、終わってからな。後ろ向いてみろ』


 メレディスに言われ、後ろを向いた。ジェラルドとリアムと向き合う形になり、これはこれで照れてしまう。


『まずは光魔法の制御からだ。時間がないから力技でいく。良いな?』


『うん。でも、一体何するの?』


『私の力を注ぐ。闇を優位に立たせて己の中の光を制御しろ』


『どうやっ……』


 メレディスの力が俺に注がれた。しかも凄い量だ。


『うあああ! 痛い痛い痛い!』


 全身に激しい痛みが生じ、俺はその場に蹲った。


『体の中で光が邪魔をしにきたのだ。半減される前に光を抑え込め』


『そんな事言ったって、どうしたら……痛い痛い痛い!』


『ッたく、痛みを緩和させないと出来そうにないか』


 メレディスに抱っこされ、ベッドに座らされた。


『ひとまず、私に抱きついて痛みを……』


『オリヴァー、これでも持っとく? 抱きしめてたら少しは違うかも』


 リアムが枕を手渡してきた。痛みで冷静な判断が出来ない俺は、枕ではなくリアムに抱き付いた——。


 そして、メレディスは自身に抱き付いて欲しかったのだろう。暫く経った今もご機嫌が斜めだ。


 再びメレディスの魔力が注がれ激痛に襲われた。


「ッ……メレディス、魔力入れるなら入れるって言ってよ。心の準備が必要なんだから」


「縋り付く相手を間違えなければ、もう少し配慮出来たんだがな」


 メレディスが不機嫌に俺を見下ろしてくるので、リアムの首筋に顔を埋めて聞こえないフリをしておいた。


 今更縋り付く対象を変えるなんて、ジェラルドやリアムから奇異な目で見られる。


 目を瞑ってリアムの首筋に顔を埋めて激痛に耐えていると、次第に体の中の光と闇が自分の中で何となく分かった気がした。ただ、どうやって抑え込むのかは分からない。


「メレディス……どうやって抑え込むの?」


「ッたく、とにかく光を感じなくなるまで闇で覆い尽くせば良い」


「それが分からないから聞いてるのに」


 不貞腐れていると、リアムが俺の背中をポンポンと撫でながら提案してきた。


「結界でも何でもイメージで出来るんだから、今回も引き出しに光の魔力入れるイメージでやれば出来たりするんじゃない?」


「うん。やってみる」


 リアムの言ったことは当たっていた。イメージすれば、体の中が闇一色になった。


「出来たかも! 痛みも無くなった!」


 一人喜んでいると、メレディスが俺をリアムから引き剥がした。


「痛みが無くなったなら早く離れろ」


「はい」


「よし、それで魔力を引き出してみろ」


 メレディスに言われ、闇の魔力を最大限に引き出した。


「どう? 自分じゃ分かんないんだけど」


「おい、オリヴァー。背中見てみろ」


「背中……?」


 ジェラルドに言われて後ろを見るが、自身の背中など見れる訳がない。


「ノエル呼んでくるよ」


 リアムが部屋を出ると、ジェラルドが俺の背中の何かを引っ張った。


「んんッ」


 何今の? 力が一瞬抜けた。


「貴様、他人の嫁になんてことするのだ。死にたいのか?」


「何って、羽引っ張っただけだろ?」


 メレディスとジェラルドが再び睨み合っている。

 

 トントントン。


 扉がノックされ、リアムとノエルが入ってきた。


「あら、お兄様。悪魔になられましたの?」


「ノエル、絵を描いてあげてくれる?」


 リアムがノエルに言えば、手早くノエルが俺の肖像画を描いた。


「これ……」


 予想はしていたが、俺の背中にとても小さな黒い翼が生えていた。

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