第98話 メレディスの来訪
人間界が襲撃されるまで残り十日を切った。そんなある日の昼下がり。
「俺、緊張してきた」
「僕も」
「はは、どうにかなるだろ」
俺とエドワード、キースの三人で剣の手入れをしていると、背中に温もりを感じた。
「案ずるな。いつでも逃げる準備は万全だ」
「メレディス!?」
俺の背にメレディスの背がくっ付いていた。すぐさま振り返り、メレディスの背中を触った。
「羽は? 魔力戻ったの?」
人間の姿の為、翼は無かったがメレディスはニコッと笑って言った。
「全て元通りだ。一刻も早く愛でてやりたいと思ってな、陛下の目を盗んで来たのだ。嬉しいだろう?」
「あー、うん」
回復したことは喜ばしいが、愛でられるのは勘弁だ。
「愛でるって何を?」
エドワードがやや警戒したように、メレディスに疑問を投げかけた。
「そんなの決まっているだろう。オリ……」
「あー! メレディス、俺の聖剣見てよ。光だけじゃなくて他の魔力でもいけるみたい」
俺は話を逸らした。メレディスが俺を溺愛しようとしていることはノエルにしか話していないのだ。ノエルが話してしまったのでアーサーも知っているが、仲間に知られるのは流石に恥ずかしすぎる。
「そうかそうか。そんなに私と喜びを分かち合いたかったのか」
メレディスに抱きしめられそうになったので、俺は立ち上がった。
「そういえば、ジェラルドそろそろ帰ってくるかな?」
「その名は腹が立つな。襲撃に乗じて殺しておくか」
「ん? メレディス、何?」
メレディスの声が小さ過ぎて聞こえなかった。メレディスも立ち上がって応えた。
「何でもない。そんなことより、汝の光魔法……」
ガチャッ。
ジェラルドとリアムが帰ってきた。ノエルにショーンも二人の後ろをついて部屋に入ってきた。
「あら、メレディス様。ご機嫌よう」
「久方ぶりだな」
「お前ら、敵を普通に招き入れるなよ」
ジェラルドに指摘され、苦笑を浮かべた。
「私は嫁の味方だ。貴様は敵だがな」
何故かメレディスがジェラルドに敵意をむき出しにしている。
仲間のことをメレディスに認めさせ、刻印を消す決断をしてもらうことなど果たして出来るのだろうか。不安を抱きながら二人の仲介に入った。
◇
数時間後、食堂にて。
「ねぇ、メレディスは帰らなくて良いの?」
「問題ない」
メレディスは魔王の目を盗んで来たと言っていたので時間もそう許されないだろうに、今も俺の左隣に座って夕食を食べている。しかも正面に座っているジェラルドをまだ睨みつけている。
ジェラルドもまた、負けじとその目力でメレディスを睨み返している。
「二人とも食事中にやめなよ」
そう言うと、二人の視線が俺に向いた。睨んでいる状態でこちらを向いたので、圧が凄い。つい癖で右隣にいるリアムの腕に縋りついた。
「リアム、怖いよー」
すると、いつものように困った顔で頭を撫でられた。それが更に状況を悪化させる。
「オリヴァー、何をしている?」
メレディスは冷たい視線を俺に向けた。そんなメレディスをジェラルドは鼻で笑った。
「婚約者だからな。何の問題もないだろ」
「は? 婚約者だと? どういうことだ?」
「ひっ」
額に青筋を浮かべたメレディスに腕を捕まれ、立たされた。
「お仕置きが必要なようだな。今晩は眠れないと思え」
「お仕置きって……? 眠れないって…….?」
メレディスに怯えていると、キースとエドワードが助け舟を出してくれた。
「何をそんな怒ってんのか知らねーけど、メレディス、お前はここに何しに来たんだよ」
「そうだよ。何かを愛でに来たんでしょ? 早く愛でに行ったら?」
二人のおかげか、メレディスの表情は和らいだ。それが良いのか悪いのか……。
「そうだったな。私の愛が不足しているが故に起こった事象。十二分に愛でてやろう」
「キャ、メレディス様、わたくしの部屋を使って頂いて結構ですわよ」
「妹、助かる。では、オリヴァー行くぞ」
ノエル、余計なことを……。
「なんか、無性に腹立つから俺も付いて行く」
「僕も」
「まぁ、三人で? お兄様、頑張って下さいませ!」
俺はメレディスに引きずられるようにしてノエルの部屋に向かった——。
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