第97話 必殺技を考えよう

 本日は必殺技なるものを編み出す為、皆で荒野に来ている。


「やっぱ勇者って言ったら必殺技だよな」


「そうですわね。セリフを言うだけで強い感じがしますわ」


 アーサーとノエルが上機嫌に言えば、ショーンもノエルの腕の中で頷いた。


「子供が大人相手にするんだもんね。少しは強そうに見えないとね」


「そんなにディスるのは可哀想だぞ。弱そうに見えるだけで、たまに強いんだから」


 アーサー、フォローしているつもりだろうが、全くフォローになっていない。たまにって何だ。たまにって。


「キース様は『カウンター!』って言うだけで決まりますが、お兄様やエドワード様の剣術の名前は何が宜しいですかね? こちらには剣術の具体的な名前がありませんものね」


 ノエルが悩んでいると、エドワードが言った。


「前にノエルが言ってた『直心影流剣術』とか何とかって、ああいうの格好良いよね!」


 エドワードは必殺技名を考えることに対してノリノリだ。


「うーん……そのまま使っても良いけど、せっかくだから自己流作りたいよな。ノエルの前世の名前何?」


「わたくしは『柴崎 凪沙』ですわ。アーサー様は?」


「おれは『吉田 雪哉』だ。吉田流……でも、フルネーム叫ばれると恥ずいよな」


「では、二人の名前を合わせるのは如何でしょう? 『柴崎流必殺奥義雪哉』『吉田流必殺奥義凪沙』という感じに」


「お、良いじゃん。じゃあ、エドワードが柴崎流で、オリヴァーが吉田流ってことで」


 アーサーとノエルによって、必殺技名があれよあれよと決まっていく。


 至極良い加減に付けられていく技名にノリノリだったエドワードも困惑の色を見せている。


「ジェラルド様は魔法ですからね。何が宜しいですかね」


「無詠唱で出せるようになったのに、敢えて何か叫ぶ必要あるの?」


「これもファンサの一種ですわ」


「だな。やっぱ氷だからそれっぽいのが良いよな……氷、氷、氷……」


 アーサーが悩んでいる。良いのが思いつかないようだ。そして、当の本人であるジェラルドは心底どうでも良いような顔をしている。


「名前決めるのは良いけどさ、肝心の技はどうするの?」


 俺は剣の素振りをしながら聞いてみると、リアムが言った。


「技を新たに考えるのって難しいよね。それが強いかも分かんないし」


「だよね」


「弱いと油断させて実は強い。なんて心理戦でいくのもアリだけど」


 そこで、ショーンも話に加わった。


「ボク、いつも戦闘を近くで見てるけど、敵を倒す瞬間って『この一撃で倒れる』ってのが何となく分かるんだ」


「確かに。戦っててもそれは感じる」


「だからさ、技を固定しなくてもそんな一撃を使う前に技名叫べば良いんじゃない?」


「それは名案ですわね」


「だな」


 それを果たして必殺技と呼べるのか分からないが、ノエルやアーサーだけでなく皆がそれに賛同した。面倒臭いのだろう——。


 必殺技名を叫ぶタイミングが決まったところで、エドワードと剣の撃ち合い稽古でもしようとしたらキースが聞いてきた。


「オリヴァーの聖剣って光魔法以外の魔力込めたらどうなるんだ?」


「さぁ」


 聖剣だから光だろう。と、勝手に決めつけていた。試しに俺は闇の魔力を聖剣に込めた。すると、聖剣が漆黒に変わった。


「おおー」


「なんか格好良いな」


「僕にも貸して」


 エドワードが水の魔力を込めると聖剣は水色に。


「これ、何でもいけるんだね」


 ただ、闇の魔力を込めた直後だからか、片面漆黒で片面が水色だ。効果はそれぞれ違うのか、実戦で試してみる価値はありそうだ。

 

「これはもしや、合体必殺技が使えるのでは?」


「ノエル、合体必殺技って?」


「皆様の魔力を聖剣に込めるのです。それはきっと絶大な力を発揮するはずですわ」


 アーサーもうんうんと頷いた。


「戦隊モノではあるあるだよな。合体必殺技ともなればアレだな。名前はさっきみたいな流儀より、魔法少女的な奴が良いかな? アルティメット何ちゃらみたいな」


「そうですわね。皆様の魔力を並べて『アルティメット・ライトニング・ダークネス・フリーズ・ウォーター』でどうでしょう」


 どうでしょう。と至極真面目に言われても、長すぎてセリフを言う間に攻撃されそうだ。


 先程まで面倒臭がっていたジェラルドが聖剣を手に取った。


「試しに魔力込めて一振りしてみよーぜ」


 ジェラルドが魔力を込めると剣の三分の一が白くなった。そして、最後に光の魔力を込めた。


「お兄様、アルティメットですわよ!」


「えっと……アルティメット・ライトニング・ダークネス・フリーズ・ウォーター」


 長い技名を一応言って、何もない所で聖剣を一振りしてみた。


「うわッ」


「マジか」


「すげぇ」


 口々に感嘆の声が上がる。


 剣を一振りしただけなのに、剣から虹色……とまではいかないが、四色が混じりあった閃光のようなものが出てきた。しかも、少し離れたところにある山が一つ吹っ飛んだ。


 あの山には誰も足を踏み入れていませんように……と切に思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る