第39話 囚われたオリヴァー
楽しそうな話し声が聞こえる。それは俺の良く知る声とは違う。
「これで明日からボロ儲けっすね」
「そろそろ新たな拠点を探すのもありだな」
「あの山、もう人来ないっすもんね」
薄っすら目を開けると、後頭部に鈍い痛みが生じた。
「痛ッ」
痛む頭に手を持っていこうとしたが、手は後ろで縛られ動かない。そして俺は硬い地面に転がされている。
「お、目ぇ覚めたか?」
「お前は……」
「そんな恐い顔するなよ。今日からオレ達仲間だろ」
仲間? 俺はいつから野盗の仲間になったのか。
「逃げようなんて思うなよ。昼間は油断したが、こいつらは強いぞ」
昼間倒した野盗も一緒に戻ってきているようだ。
ちなみに今は夜。野盗達は星空の下、焚き火をしている。
「お前も食うか?」
野盗の一人が肉を差し出してきた。
「いらない」
と、言いながらもタイミング悪く俺の腹の虫はグゥと鳴った。
「腹減ってるんじゃないか。食え」
野盗は無理矢理、肉を口に入れてきた。
「うまッ」
美味しさのあまり思わず声が出てしまった。
「特製のタレで焼いてるからな。ほらもっと食え。食べないと大きくなれないぞ」
「まさかこんな子供が聖人様だったなんてな」
「よくお前バレなかったよな」
偽聖人様もそこにいた。
俺達の昼間の行動は全くの無駄ということか。それより気になることがある。
「俺の仲間は無事なのか?」
「お前と一緒にいた奴らか? みんなお頭の攻撃食らって吹っ飛ばされたけど、死んではいないんじゃないか。なぁ?」
「ああ、立ち向かってきたやつは返り討ちにしてやったが、死んではないだろ」
それを聞いて安堵した。死んでしまったら元も子もない。
「まぁ、お前にはもう関係ないだろ。お前も飲むか?」
野盗の頭が酒を勧めてきた。
「そんなに睨むなって。冗談だよ、未成年に酒は飲ませねーよ。ほらよ」
野盗の頭は、俺の手の縄を短剣で切った。
「え……良いの?」
「なんだ? 縛られたままの方が好きなのか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「お前一人が抵抗したってオレらには勝てねーよ」
確かに今は剣も取り上げられて魔法しか使えない。しかも敵は十五人もいる。それなら情報収集だけでも。
「質問して良い?」
「何だ?」
「お前も魔法が使えるのか?」
「キースだ」
「え?」
「頭って呼びたくないんだろ? だったら名前で呼べ。それから、オレは魔法は使えねぇよ」
「え、でも……」
キースはジェラルドと同様の攻撃をしてきた。しかも大魔法使いになれる程に魔力量が多い、あのジェラルドを上回る程だ。
「オレのスキルはカウンターだからな」
「カウンター?」
「敵の攻撃を受けると、同様の攻撃が出せる。しかも、威力は相手より強い」
納得した。だからキースは一身にジェラルドの攻撃を受けていたのか。つまり、俺が今攻撃をしかけても返り討ちにあう可能性大だ。
「逃げるの諦めたか?」
「う……でも野盗の仲間になんてならない」
「諦めが悪いな。それよりお前、そっちの趣味があるのか?」
「そっち?」
そっちとはどっちの趣味の話だろうか。
キースは酒を片手に一枚の紙を眺めている。あの紙は見覚えがあるようなないような……。
キースは酒を置いて、俺の顎をクイッと持ち上げた。
「な、何を……?」
「確かに、男にしては可愛い顔してるもんな」
まじまじと顔を観察され、目線をキースから逸らした。その時、キースが手に持っている紙に描かれているものが見えた。
「わ、それは違ッ」
キースが持っていたのはノエルの絵だった。
その絵には俺とエドワードが、ただただ食事をしながら話している姿が描かれている。しかしながら、ノエルにかかればそんな些細なシーンも、恋人同士の仲睦まじいワンシーンに早変わりだ。
キースは俺の顎から手を離して言った。
「よし、今日からお前はオレと寝ろ」
「は?」
「こいつ程じゃないがオレも中々イケてるだろ?」
「うん」
遠目からは分からなかったが、キースは近くで見ると二十歳くらいだろうか……思ったより若く、顔も良い。
「いや、だからって何で一緒に」
「一人は寂しいだろ」
周りの野盗も盛り上がり始めた。
「頭に相手にしてもらえるなんてラッキーだな」
「さすがホンモノの聖人様だ」
「わっ」
キースに縦に抱き上げられた。
「ほら、行くぞ。お前ら邪魔すんじゃねーぞ」
「俺は一人で寝るから! 地べたでも何でも良いから一人で寝る!」
「遠慮すんなよ。あんなガキより大人の魅力を見せてやるよ」
「そんなのいらないよ! くそっ、なんで抜け出せないんだ」
必死に抵抗しているのにキースの抱っこから逃げ出すことが出来ない。
「ははは、良い夜になりそうだ」
笑い事ではない。早くこんなとこ抜け出さなければ——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます