第37話 野盗おびき寄せ

 ここは山から一時間程歩いたココット村。


「五人も大丈夫?」


「狭いけど野宿よりマシだろ」


 宿が空いてなかったのでギルの家に泊めてもらうことになったのだ。


「ギルの兄弟はお兄さんだけじゃなかったんだね」


 ギルの家には、五歳の双子の妹がいた。


「オリヴァーお兄ちゃん、抱っこ」


「ずるい! 私、おんぶ」


 俺は双子の一人を抱っこし、もう一人をおんぶした。


「お兄ちゃん、大きくなったら結婚しようね」


「ずるい、私も!」


「良かったな。二人も婚約者が出来て」


「ジェラルド、俺が勝手に恋人作ったら許さないんじゃなかったの?」


「俺の前で作ったなら問題ない」


「あっそ。それよりリアム、何で野盗を野放しにしたの?」


 そう、俺達は野盗に会ったのだ。魔石を持って下山していると野盗が二人現れた——。


『おい、それを置いて行ってもらおうか』


『お前らなんかに誰が……』


 威勢よく反発するギルをリアムが制止した。そして、集めた魔石を全て野盗に差し出した。


『これで見逃して下さい』


『な、リアム!?』


 そこにいる皆が驚いた。


 野盗は魔石が入った袋を奪い取り、中を見た。あれからコウモリ型の魔物の群を大量に倒したので四十個近くの魔石が入っている。


『これだけ集めるのにどれだけかかったんだ? 一週……』


『二時間くらいです』


『は? 二時間!?』


 野盗が互いに目を見合わせた。


 リアムはいつになく弱々しく言った。


『あなた方が噂の野盗ですよね? 僕らじゃ到底敵わないよ。剣の修行で一ヶ月は滞在する予定だったけど、やっぱりやめよう』


 すると野盗二人がこそこそと話し始めた。そして何か決まったようだ。野盗が魔石を返してきた。


『ほらよ。剣の修行頑張れよ』


『こんな場所中々ないからな。お前らだけ襲わねーから安心して明日も来い』


 野盗の言動に呆気に取られながらも、俺達はリアムの後に続いて歩いた——。


「野盗が二人なわけないからね」


 リアムが言えば、ギルの父が頷いた。


「野盗は十四、五人はいる。ただ、危ないからそのまま帰ってきて正解だ」


「そんなにいるんだ……でも、何で魔石返してくれたんだろ」


「あの山には野盗の噂が出回って誰も寄り付かなくなったでしょ? だから、野盗の収入源は偽の聖水で得たものだけなんだ。そこへ良いカモが現れるとどうなると思う?」


「どうなるの?」


「はぁ……魔物を狩ってくれる人がいないと、野盗はあの山で生活ができないでしょ?」


 ジェラルドも面倒くさそうに言った。


「自分で魔物狩れば良いのにな」


「それだと野盗のプライドが傷付くとでも思ってるんじゃない? 野盗は人の物を奪ってこそ野盗と言えるから」


「確かにな。自分で狩ったら、ただの善良な民だもんな」


「だから、明日山に入ったら交渉されるか脅されるはずだよ」


「何で今日じゃないの?」


「今日は二人だけだったでしょ? 明日は野盗の頭も含めて全員に囲まれるはずだよ」


「なるほど、そこを一網打尽というわけですわね」


 ノエルは嬉しそうに言うが、ギルの父は一人困惑している。


「やめておきなさい。ワシら村人が総出で挑んでも敵わなかったのに、子供が敵うはずがない」


「でも親父、こいつら凄いんだぜ! 魔物をいとも簡単に倒すんだ。魔石だって短時間でこんなに……」


「ギル! 良い加減にしなさい! お前が余計な話するから皆仕方なく付き合っているんだ」


「違うよ! 聖水だって偽物で、オリヴァーが持ってるのが本物なんだ! だから協力……」


「ギル!」


 ギルの父が大きな声を出したので、皆が一瞬怯んだ。


 子供を心配する父親の気持ちも理解出来るが、これは俺の……俺達の問題でもあるのだ。


「あの……俺達は聖水の謎が知りたいだけですから」


「だが、あれは聖人様が直々に売りに来ていて」


「直々に?」


 光魔法が使えるのは三人。俺を除けばアイリス先生と大司教様だけだ。聖水を作ったのがこの二人の可能性もゼロではない。ただ、アイリス先生なら聖女と呼ばれるはずなので、残るは大司教様となる。


「見た目はどんなでしたか?」


「ワシが見たわけではないが、噂ではピンクの髪に」


 ピンクの髪のワードが出た瞬間、仲間の視線が俺に集まった。


「背が高く、切れ長な目に、赤いマントを着た男の人らしい」


「それって……」


 背の高いエドワードに、切れ長な目のジェラルド、赤いマントを着たリアム、そしてピンクの髪の俺。疑惑は確信に変わった。


「お兄様、これは黒、真っ黒ですわ」


「間違いないね」


「ふざけやがって。オリヴァー、俺が氷漬けにしてやるよ」


「いや、僕が三枚におろしてあげるよ」


「僕が罰しても良いけどね」


 俺達が急に闘志を燃やし始めたので、ギル一家は呆気にとられている。


「えっと、どういうこと?」


 ギルの問いにノエルが自信満々に応えた。


「聖水は光魔法で作りますの。そして、ピンクの髪に光属性なんて、この世界にたった一人しかいませんわ」


「え、オリヴァーって光魔法使えるのか?」


 コクリと頷くと、その場にいたギル一家は理解したようだ。揃って平伏された。


「いやいやいや、顔上げてよ」


 ——そんなこんなで、本物の聖人様の正体を知ったギルの父と兄も協力してくれる運びとなった。


 きっと明日野盗と決戦のはず。明日に備えて作戦会議が開始された。

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