第三章 新メンバー登場

第38話 命に代えて……

 荷馬車に揺られながら地図を広げて作戦会議。


「さて、次はどこに行こうか」


「面倒ごとのない普通の村に行きたいよな」


「まぁね」


 今は何となく北に向かって進んでいるだけ。今まで同様に隣の村々を渡り歩いても良いのだが、この国は広い。故に一年やそこらじゃ回りきれないのは明白だ。今回は少し遠くを目指している。


 エドワードが剣の手入れをしながら言った。


「そろそろ剣を使いたいよね。冒険始めて二ヶ月目に入るのに全然剣の出番ないからさ」


「確かに」


 エドワードは将来騎士になりたいのだ。剣を扱わない日々が続けば感も鈍くなるというものだ。


「うーん、じゃあ、ここなんてどう?」


 リアムが地図を見ながら、ある場所を指差した。


「ここは……山?」


「うん。ギルドの依頼は受けられないけど、魔物が沢山いるって噂だよ」


「魔物倒したことないけど大丈夫かな」


 そう、ミミック村でもククル村同様、聖水のおかげか魔物討伐の依頼が無くなった。つまり、俺達は下級魔物すら倒したことがない。


「サキュバス倒しておいて何ビビってんだよ」


「いや、あれは倒した内に入らないし……」


「上の方まで行かなければ大丈夫だよ。下の方は下級魔物しかいないらしいから。それに、下級でもたまにレアな魔石が手に入ることがあるみたいだよ」


「それは行くしかありませんわ! 是非レアな魔石を手に入れましょう!」


 魔石は魔物を倒したら出てくるらしい。


 この国で魔石は日常生活に必要な電力の供給源として使用されている。しかし、レアな魔石は、剣や盾等、武器に付ければ特殊な力を発揮するのだとか。


「じゃあ、僕、御者に行き先伝えてくるよ」


 エドワードが上機嫌に馬車の小窓から御者に進路を伝えた。


◇◇◇◇


 数時間後、山の麓に到着。


「聖人様、本当にこちらで待っていなくて宜しいのですか?」


「何日滞在するか分かんないからね」


「では、またいつでも村に遊びにいらして下さいね」


 御者と別れの挨拶を済ませた俺達は、ひとまず食事をすることにした。だって、ちょうど昼時だったから。


「何か凄い鳴き声聞こえるな」


「ジェラルドはこういうのは怖くないの?」


「生きてるからな」


「こっちの方が遺跡より不気味だと思うけど……」


 山からはキキー、ギャオォォォ、と魔物の鳴き声が聞こえる。それを聞きながら干し肉を貪った。


「でも何でこの山には魔物が沢山いるのに、山の周りは何もいないんだろ」


 俺の問いにリアムが応えた。


「魔素や瘴気の関係だと思うよ。魔物にとったらこの山は居心地が良いんじゃないかな。人間だって、居心地が良いところからわざわざ出たがらないでしょ」


「なるほど」


 てことは、この辺は安全というわけか。山の中は危険がいっぱいだし……。


「ノエルとリアムはここで待っててよ。食べたら三人で行ってくるから」


 すると、ノエルだけでなくリアムまで不機嫌な顔になった。


「わたくしはお兄様に付いて行きますわ!」


「僕も行くよ」


「でも、ここにいた方が安全だし」


「どこにいたって命に代えて守ってくれるんだよね? あれは嘘だったの?」


「いや、嘘じゃないけど……」


 皆の前で言わなくても……。


 俺は確かにリアムに言ったのだ。


『命に代えても守る』


 と。俺はリアムと同室になった時に、ひまわりの刺繍の意味について説明した——。


『そのひまわりの意味は告白とかじゃないからね。リアムがもっと輝いて上に立てたらなって意味で……』


『分かってるよ』


『なんだ』


 嫌われたかもと思ったのは杞憂だったのかもしれない。だが、やや怒っているように見えるのは気のせいか。この際、率直に聞いてみることにした。


『あのさ、怒ってる?』


『怒ってないよ』


『本当に? 俺のこと嫌いじゃない?』


『どうして僕がオリヴァーのこと嫌いになるの? 逆でしょ普通。僕があんなことしたんだから』


 俺を押し倒したことは覚えているようだ。あえて口に出さなかったのか。


『あれはしょうがないじゃん。リアムのせいじゃないよ』


『じゃあ、どうしてあんな貴重なアイテムくれるの? 僕があんなことになって惨めで哀れだとでも思ったの? それとも魔法の使えない僕が可哀想だと思った?』


『やっぱり怒ってるじゃん』


 リアムはバツが悪そうに目を逸らした。


『ごめん。言い過ぎた』


『思ってちゃ悪いの? リアムに少しでも危険な目に遭ってほしくなくて、みんなで話し合ったんだから。こんな冒険に付き合わせた責任だってあるし』


『それは自分の意思だよ。君に責任はない』


『例えそうだったとしても……とにかく、リアムが嫌だって、余計なお世話だって言っても俺はリアムを命に代えても守り抜くから! そのマント道中外したら絶交だからね』


 言いたいことだけ言って俺は毛布に包まった——。


 後になって言い過ぎたかな、とも思ったが、リアムの機嫌が直っていたので謝罪はしていない。


 そんなことより今、皆の視線が俺とリアムに集まっている。


「さすが勇者だね。リアム殿下にそんなこと言ったの?」


「俺も遺跡に入る時言われたかったな」


「その格好良いセリフはなんですの!? リアム殿下、詳しくお聞かせ下さいませ」


 ノエルはメモをとり始めた。


「わー、良いから! リアムも嬉しそうに応えなくて良いから」


「じゃあ、僕も連れてってね」


 うわ、わざとだ。俺がリアムを置いて行こうとしたから。わざと、俺の恥ずかしいセリフを皆がいる目の前で……。


「分かったよ。みんなで行こう」


 こうして俺達はレア魔石の採取のため、魔物退治に皆で向かうことになった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る