第34話 初めての魔物退治

 真昼間だというのに薄暗い山の中、バサバサバサッと鳥が飛び立つ音がする。


「ノエル大丈夫? 怖かったら」


 ノエルを心配して後ろを振り返れば、目を輝かせていた。


「えっと……楽しい?」


「はい! もうピクニック気分ですわ」


「あ、そう」


 魔物退治をピクニックとは……流石ノエルと言うべきか。

 

 そんなやり取りをしていると、目の前にオークが現れた。


「うわ、これが魔物か」


「本で見るよりも実物の方が素敵ですわね」


「え、素敵?」


 あれが素敵。ノエルの目には俺と違ったものが映っているのだろうか。


 エドワードが既にオークに斬りかかっていたのだが、すんでのところで制止し戻ってきた。


「これ、僕が倒したらノエルに嫌われない? オリヴァーやってよ」


「いや、剣の修行したいって言ったのエドワードじゃん」


「そうだけどさ、お願い。次は僕が斬るから」


「仕方ないなぁ」


 俺は剣を引き抜いて体勢を低くした。そして、向かってくるオークに飛びかかり、縦一閃刃を入れた。


 オークはその場に倒れて動かなくなった。


「うわー、斬っちゃったよ」


 藁や木しか切ったことがなかったのに……いや、暗殺者っぽい人斬ったか。それにしても生身の魔物は生々しい。


「これ、どうやったら魔石出てくるの?」


「心臓の辺りにあるって聞いたことあるよ」


「え……まさか、えぐり取るの? ムリムリムリ。ジェラルドやってよ。剣貸すから」


「嫌だよ」


 誰もやってくれる人がいないので、渋々俺はオークの心臓に刃を向けた。


「あ、そうだ。聖なる光よ、汝に安らかな眠りを冥福ブリス


 死んだ人にかけるおまじないのような魔法。何気なく詠唱すると、オークの体がサラサラサラと砂のように消えていき、残ったのは赤い魔石だけだった。


 呆気に取られていると、ジェラルドとエドワードに小突かれた。


「お前、そんなこと出来るんなら最初からやれよ」


「本当だよ。あんなに騒いでおいて」


「俺だってびっくりだよ」


 体が消滅するなんて聞いたことがない。


「相手が魔物だから浄化しちゃったんじゃない?」


「光魔法は特別ですものね」


 理屈は分からないが、魔石をえぐり取らなくて良くなったことに安堵した。

 

 剣についたオークの血を拭ってから鞘に収め、魔石を拾って鞄に入れた。



 ◇



 俺を先頭に歩を進めて行くと、何やら周りから視線を感じた。


「見られてる?」


「ああ、かなりの数にな」


 俺が立ち止まると後ろを歩いていたジェラルド達も自然と立ち止まった。


 草陰からヒョコッとゴブリンが現れた。一体姿を現すと次から次へとゴブリンが出てきた。


「こんなにいたら流石に怖いな」


 ゴブリンが軽く二十体はいる。それでもノエルだけ上機嫌だ。


「お兄様、お兄様、あれがお母様であれがお父様かしら。それともお兄様?」


 ん? 確かに大きさがそれぞれ違って顔つきも若干違うようにも見える。


「いや、あっちが父親じゃないかな? こっちの子にそっくりだ。って、知らないよ! ゴブリンの家族構成なんて」


「お前ら兄妹で何ふざけてんだよ」


「ごめん」


 ジェラルドに言われて臨戦態勢をとるが、ゴブリンにも家族がいるのかと思うと何だか複雑な気分になった。このまま殺すと一家虐殺?


「オリヴァー、余計なこと考えてると負けるよ」


 リアムに言われたら本当に負けそうだ。こんな所で死ぬわけにはいかない。相手は初対面のゴブリン一家だ。情は捨てよう。


 一番大きなゴブリンが何やら合図を出すと、一斉に短剣で斬りかかってきた。


「凍てつく氷よ、敵の心臓をも貫け氷弾アイスバレット


 ジェラルドが詠唱すれば、氷の弾丸は一気に五体のゴブリンの心臓辺りを貫き、魔石が出てきた。


「僕も負けてらんないな」


 エドワードの闘志にも火がついた。ゴブリンの攻撃をかわしつつ、一体一体軽やかな身のこなしで確実に斬り倒していった。


「綺麗ですわね」


「エドワードは音を立てないんだよ」


「確かに何の音もしませんわね。まるで踊っているかのようですわ」


 ノエルがエドワードに見惚れている。後でエドワードに教えてやろう。


 俺は三体目のゴブリンを斬り倒すと、既に他のゴブリン達も皆倒れていた。


「聖なる光よ、汝らに安らかな眠りを冥福ブリス


 最後に俺が詠唱すれば、ゴブリンは魔石だけを残して一斉に天に昇るように消え去った。

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