第32話 ひまわりの花言葉
精気を奪われた人達にも聖水は絶大な威力を発揮した。そして、再びあの光景が……。
「聖人様だ!」
「聖人様、この度はありがとうございました」
俺が歩く度に村中の人が端に寄り、道を開く。そして平伏される。
「俺、一応勇者なんだけどな」
「人を救うことに変わりありませんわ。それに今回は村を救った勇者兼聖人として讃えられたではありませんか」
「そうだけどさ、見てよこの差」
俺は主に被害に遭った男性やその家族に平伏されているのに対し、他三名は英雄として若い女性に囲まれている。
「お兄様は御三方を村の女性達に取られたようで寂しいのですね」
「いや、逆かな。三人に村の女性達を取られたから悔しい。うーん……逆でもないか」
とにかく、崇拝されるよりも普通に『格好良い』だの『強い』だの言われたい。
ちなみにアデルは魔界に帰った。悪魔は約束を破らないので、去り際はあっさりだった。
『負けは負けよ。一人で魔界に戻るわ。また遊びに来るわね』
また来られてもどうして良いのやら。まぁ、その時はその時だ。
「お兄様、例の刺繍ですが素敵なのを選びましたわね」
「でしょ? 赤いマントにひまわりが合うかどうかが心配だけど……」
「そこは仕立て屋さんの腕の見せどころですわ」
そう、今は仕立て屋に向かっているところ。ククル村で貰った火鼠の皮衣はマントにすることにした。ただのマントも味気ないので刺繍を施すことにしたのだ。
そして、このマントはリアムにあげることにした。驚かせたいので本人には内緒だが、軍師のリアムは戦闘能力がゼロに等しい。そんな状態で毎度戦場に付き合わせているのだ。防御の一つくらいあった方が良い。
そして、ひまわりの花言葉は『憧れ』『光輝』。今後成り上がる予定のリアムにはピッタリな花言葉だと思って俺が決めたのだ。
——仕立て屋に到着すると、三人を取り巻いていた女性達が名残惜しそうに散っていった。
「いらっしゃいませ。あ、聖人様! と、そのお仲間さん達。この度はありがとうございました」
この店の主人も聖水を飲んだ一人。
「出来てる?」
「はい! それはもう、丁寧に作らせて頂きました」
仕上がったマントを受け取り、そのままリアムに手渡した。
「はい、リアム」
「ん?」
「俺達からのプレゼント」
「でもこれ、オリヴァーがククル村の人達を救って貰ったアイテムだよ」
「良いから良いから。あれは、みんなで救ったんだから」
俺はリアムに無理矢理マントを試着させた。
「うん。丁度良いね」
髪の毛が赤いので、赤いマントで更に真っ赤っかになってしまったが似合わない訳ではない。むしろ良く似合う。
「これ着てたら何処にいてもリアムが探し出せるね」
「目立つもんな」
「諜報とかには使えないかもね」
何気ない会話をしていると、リアムが俺を見ていることに気がついた。俺もリアムの顔を見上げると、目を逸らされた。そして、俺はまるでそこにいないかのように、リアムはジェラルドとエドワードの背中を押して言った。
「そろそろ行こっか」
避けられた? 俺、嫌われた?
リアムが俺を押し倒した件については覚えていないのか、はたまた覚えていないフリをしているのか、会っても至極普通だった。やはり、マントが気に入らなかったのだろうか。
「リアム殿下照れてますわね」
「照れ?」
「先程『マントは皆様からですが、ひまわりの刺繍はお兄様からの贈り物ですよ』と、お伝えしておきましたので」
「それで何で照れ……」
「ひまわりの花言葉、良いですわよね。『あなただけを見つめる』」
「え……そんな花言葉だったっけ? 『憧れ』『光輝』じゃなかった?」
「そういうのもあったかもしれませんわね。ですが、告白するにはうってつけのお花ですわ」
リアムに嫌われた理由が分かった。
今すぐ訂正したい。そういう意味で刺繍してもらった訳ではないことを。しかし、リアムは再び村の女性に囲まれている。
女性に囲まれたリアムは満更でもなさそうだ。そんな中で声をかければ、楽しいひと時を邪魔することになり、更に嫌われる。
俺は黙って下を向いて歩いた——。
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