第22話 薬草を探す少女

 順番は前後したが冒険の目的も決まったところで、俺達は次の村へと歩を進めた。


 暫く歩いていくと森が見えてきた。エドワードが地図を見ながら言った。


「この森を越えると村があるみたいだよ」


「だけど、今から森に入るのは危険かもね。今日はここで野宿しよ」


 辺りは既に薄暗くなってきている。森には野生の動物や魔物の類もいるかもしれない。知らない土地での夜の行動は危険なので、本日は森の入り口で野宿をすることに決まった。


「テントなんて初めて張ったけど案外簡単なんだね」


「一番簡単で軽いのを購入しましたので」


 ノエルに任せて正解だと思ったのは初めてかもしれない。


「そうだ。ご飯どうする?」


「ああ、それならさっきの村で女の子達が何かくれたのがあるぞ」


「え、いつの間に!?」


 ジェラルドは荷物から包みを取り出した。


「あ、それなら僕ももらったよ。エドワードも何か貰ってたよね」


 リアムとエドワードまで包みを出して来た。それぞれ包みを開けてみると、パンや干し肉、ドライフルーツ等、簡単に食べられるものが入っていた。ついでに恋文らしき手紙まで添えられている。


「俺だけ何ももらってないんだけど……」


 一人、落胆しているとノエルまで包みを出して来た。


「ノエルもか……」


「いえ、これはお兄様にですわ。預かっていましたの」


 俯いていた俺は、ガバッと顔を上げた。嬉しくなってすぐに包みを開けようとしたが、皆の余裕そうな顔を見て一旦落ち着いた。


 照れを隠しながら中身を開けて見ると……。


「何これ」


「腹巻ですわ。他にもマフラーやら靴下もありますわよ」


「これって誰から?」


 可愛い女の子からなら嬉しい。もしかしたらリサかもしれないと思って期待を込めてノエルの次の言葉を待った。


「前に英雄と讃えられた時にいらした奥様方ですわ。おじ様方からは手紙を頂いておりますわ」


 それはつまり、年配のおじさんおばさん達だ。母よりも年上の。


 いや、嬉しいけどさ。この寒空の下、防寒グッズは必須だけどさ。この差は何なの? ジェラルド達は可愛い女の子達からもらってるのに何で俺だけ……。


「俺、ちょっと水でも汲んでくる……」


 再び落胆してトボトボ歩いていると、ジェラルドが付いて来た。


「おい、オリヴァーどうしたんだよ」


「何でもないよ」


 どうして赤ん坊の頃から一緒に育っているのにこうも差が出るのだろうか。


「俺も髪の色、紺色にしようかな」


「は? ピンク嫌なのか?」


「嫌って訳じゃないけど……あれ? 誰かいるよ」


「子供?」

 

 小川の近くに五歳くらいの女の子がいた。辺りを見渡しても大人の姿が見えない。


「迷子かな?」


「声かけてみるか」


 少女に近づいて優しく声をかけてみた。


「お嬢ちゃん、お父さんかお母さんは?」


 少女はビクッとしながら応えた。


「いないよ」


「えっと……おうちはどこ?」


「……」


「どこから来たのかな?」


「……」


 何も言わない少女に俺とジェラルドは顔を見合わせて眉を下げた。


 もうじき日も暮れるのに一人置いていっても良いのかも分からないし、途方に暮れているとジェラルドがやや苛々しながら言った。


「なんか言えよ。心配してやってんだろ」


 少女は怯えた表情を見せたので咄嗟に少女を庇ってジェラルドに注意した。


「ジェラルド、ダメだよ」


「だって、何も喋んないから」


 ジェラルドの気持ちも分かるが、知らない男に声をかけられて黙ってしまう少女の気持ちも分かる。


 どうしようか悩んでいると、小さい頃にノエルが母に怒られて家出をしようとした時のことを思い出した。


「ねぇ、お兄ちゃんが良いもの見せてあげるね」


「え?」


 俺は手から光の玉をポゥっと出した。それを十個くらい出して上空にふわふわと浮かべた。


「見ててね」


 手をパチンと叩くと、光の玉もパチンと弾けた。


「わぁ、綺麗」


 キラキラと光の粒子が少女に降りかかった。


「お兄ちゃん、すごーい。魔法みたい!」


「そうだね。暗くなったら危ないからさ、とりあえずおいでよ。あっちには可愛いお姉ちゃんもいるよ」


「うん」


 少女が手を繋いできたので、ギュッと握り返した。


「名前は?」


「アンだよ」


「アン、行こっか」


◇◇◇◇


 テントに戻ると火が焚かれており、皆で食事を始めた。


「で? なんであんな所に一人でいたわけ?」


「もう、だからジェラルドは言い方キツいんだって」


 ジェラルドに声をかけられたアンは俺にしがみついた。頭をポンポンと撫でてやると険しい顔が和らいだ。


「で、どうしてあんな所にいたの?」


「お母さんのね、薬を取りに来たの」


「同じこと聞いてんのに、どうしてオリヴァーの質問には応えるんだよ」


 不貞腐れているジェラルドに苦笑いで返して、アンに聞いた。


「薬? お母さん病気なの?」


「うん。村で今流行ってる病にかかっちゃって」


 アンはポケットから折り畳まれた紙を取り出して広げた。


「この薬草が効くんだって」


「でもこれって……」


「知ってるの?」


「ううん。明日一緒に探しに行こっか」


「うん!」


 アンの持っていた紙に書かれた薬草は、薬ではなくフクジュソウと呼ばれる毒草だった。

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