第21話 旅の目的
それから数週間後、地味……Fランク相当の依頼を次々とこなした俺達は遂にワンランクアップした。
「やっとだよ! レベルアップって時間がかかるんだね。Fランクの勇者なんて恥ずかしかったけど、Eならまだマシだよね」
「どっちもどっちだと思うよ……」
「もう、リアムだって本当は嬉しいくせに」
「FからEなんて誰でもなれるよ」
俺とリアムの会話をよそにジェラルドとエドワードは口々に言った。
「それにしてもノエル遅いな。そろそろ出発したいのに」
「僕見てこようかな。女の子が一人はやっぱ危ないよ」
先日ギルド長に貰ったアダマンタイトを使用して武器を作るよう鍛冶屋に依頼した。それが出来上がったので、ノエルが一人で取りに行っているのだ。
エドワードが鍛冶屋の方へと歩き出すと。ノエルが大きく手を振る姿が見えた。
「みなさまー! お待たせ致しました!」
「今のノエルを母上が見たら泣くな」
「家に帰る前に一度躾しなおした方が良いかもな」
ジェラルドが哀れみの目で俺を見てきた。
ノエルはそんな話をされているとも気付かず、俺たちの元へやってきて風呂敷を手渡してきた。
「あれ? 武器は?」
「これですわ」
てっきり剣かと思っていた。勇者だから。
包みを開くと、そこには四つの額当てがあった。皆が唖然としていると、リアムが若干イラついたようにノエルに言った。
「なんで額当て? あれアダマンタイトだよ? 硬いんだよ。強固なんだよ」
「知っていますわ。ですが、皆様のお揃いがまだないでしょう? せっかくの冒険者パーティーなんですもの。お揃いの一つくらいあっても良いでしょう?」
「お揃い……それなら良いか」
良いのかリアム。それで納得しても。
「確かにね。これで友情も更に強固って訳だ」
エドワードまで、なに上手いこと言っちゃってんの。
「まぁ、良いや。レベルアップもして、額当ても出来たことだし、そろそろ次の村目指して出発しよう」
せっかく冒険に出たのに同じ場所にとどまるのは勿体無い。色んなものを見て感じたい。
◇◇◇◇
いざ、村を出ようとすれば村人がほぼ全員いるのではと思う程沢山の人が見送りに来てくれた。
「リサも見送りありがとう」
「本当に歩いていくの? 隣村って言っても結構遠いよ」
「うん。どうしても歩いて行きたいんだって」
荷馬車を出すとも言われていたのだが、歩いていくのがノエルたっての希望なのだ。
「そっか。またこの村にも寄ってね」
「うん。またね」
大勢の村人達に見送られながら、この村を後にした——。
そして見晴らしの良い草原を歩くこと数時間、ノエルが珍しく弱音を吐いた。
「やはり荷馬車を借りるべきでしたわ……」
「だから言ったのに」
「だって、冒険と言えば徒歩ですわ! 三蔵法師だって天竺まで歩いていましたわ」
「誰だよ、それ」
「みんな気にしないで、ノエルは異国の本にハマってるんだ」
誤魔化してはおくが、本当にノエルは何の本を読んでその知識をつけているのだろうか。
歩いていると川が見えてきた。
「あの川の近くで休憩しよう」
「そう致しましょう」
川のほとりまで行くと、それぞれ荷物を置いて休憩し始めた。
のどかな景色を見ながら俺は考えた。俺達はこの先どこへ向かえば良いのかと。
「俺達さ、ただ漠然と冒険してるだけだから目的を決めようよ。それが達成できたら帰った時嬉しさ倍増だよ」
「目的かぁ……」
「目的ねぇ……」
「うーん……」
誰も思いつかないようだ。俺自身、思いつかないが。
そんな時、ノエルが嬉しそうに言った。
「やはり勇者には魔王がつきものですわ。魔王を倒しに行きましょう」
「え、本気?」
「もちろんですわ。ラスボスと言えば魔王ですもの」
聞くんじゃなかった。魔王ってあの魔王だ。魔界の王様。とてつもなく強い奴。やっとEランクに上がった俺には到底無理だ。しかも二年でやるのか。他の勇者に任せたい。自称勇者は沢山いるはずだ。
そして俺はふと疑問が浮かんだので聞いてみた。
「でもさ、そもそも何で魔王を倒さないといけないの? 別に侵略とかしてきてないじゃん」
「うッ……確かに……」
ノエルが応えに困っているとジェラルドが言った。
「アイリス先生が言ってたんだけどさ、今までは光魔法使える人が十人はいたんだって」
「そうなんだ。それがどうしたの?」
「それで、どうにか侵略を防いでたらしいんだけど今三人じゃん? しかもオリヴァーはまだ一応子供扱いで戦力外ってことになってるんだって」
「つまり……?」
「魔王はいつ侵略してきてもおかしくないらしい。『倒せるなら倒しちゃってー』って出掛けに言ってたぞ」
相変わらずノリが軽いな。
それよりもノエルの目がキラキラ輝き始めた。
「これはもう倒すしかありませんわ! お兄様、魔王を倒しに行きましょう! その為にはやはり経験値を積んで武器も強いものを手に入れに行きましょう!」
「でも勇者出来るの二年しかないし」
「いや、一年以内に頼むよ」
そうか、エドワードは学園が始まるから一年しか旅ができないんだった。だが、更に無理を強いられている。ここは軍師に聞くのが一番だ。
「リアム、一年じゃ無理だよね?」
「このパーティーなら、戦い方によったら無理じゃないよ」
「うそ……」
リアムは悪戯に笑って言った。
「僕が負けたことある?」
「いえ、ないです」
どうやら魔王を倒しに行くことで決まったようだ。決まったようだが、最後の悪あがきをしてみよう。
「でもジェラルドは嫌だよね?」
「まぁ面倒くせぇけど、お前が行くなら行くよ」
「お兄様、決まりですわね」
「はは……がんばるぞー」
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