第20話 村の英雄

 翌日、俺達はギルドに呼び出されている。


「俺たち怒られるのかな? 依頼主ぶっ飛ばしちゃったから」


「依頼主をやったのは俺だけどな」


 そう、依頼主を半殺しにしたのはジェラルドだ。俺が船に潜伏している間に色々あったらしい。


 そして、アニキと呼ばれる男は光の牢獄に入れたまま、その他の船に乗っていた男達も瀕死状態でギルドに受け渡した。ついでにリサを含め捕まっていた女性達も保護してもらい、俺たちは逃げるようにギルドを去ったのだ。


「ノエル、勇者続けられなくなったらごめんな」


「そうなったらジェラルド様と共に手を取り合って宮廷魔導師様に弟子入りし、大魔法使いもありですわね。なんせ魔力量がチート級の光属性ですものね」


「俺は家に帰る選択肢はないのか……」


「ほら、やったものはしょうがないよ。もう覚悟決めなよ」


 リアムに諭され、俺を先頭にギルドに足を踏み入れた。


「やっときた! オリヴァー遅いよ」


「リサ? 家に帰ったんじゃないの?」


 リサが駆け寄って来てニッコリ笑いながら応えた。


「ここ、私んち」


「は? ここギルドだよね?」


「お兄様、誰ですの?」


 ノエル含めジェラルド達もキョトンとしながら俺とリサのやり取りを見ている。


 そうか、昨日は慌ただしくてリサの紹介はしていなかったのか。


「昨日捕まってたリサだよ。毒耐性があるんだって」


「あー、昨日の女の子達を必死で守ってた子だ」


「だから一人ピンピンしてたんだね」


 エドワードとリアムは見覚えがあったようだ。


 それにしてもギルドを家と呼ぶなど、ノエルの次に変わった子かもしれない。見た目は可愛いのに。


「リサごめん。俺たち呼び出し食らってるんだよ」


「知ってるよ。呼んだの私だもん」


「は?」


「私、ここのギルド長の娘なんだ」


 リサが椅子に座って足を組むと、奥から強面のがっちりとした男性が出てきた。


「父です」


 男性はそれだけ言って黙ってしまった。


 え、なんか俺睨まれてない? やっぱ凄い睨まれている。穴が空くほど睨まれている。


 父と言うことはリサのお父さん。つまりギルド長。それ即ち、リサのお父さんに怒られて冒険者登録取り消し……。


 勇者を継続しなくて良いのは願ったり叶ったりではあるが、少しだけ友達と冒険も悪くないなとか思い始めていたところだったのに。ひとまず謝罪だ。そう、謝罪をしなければ。


「昨日は……」


「ありがとう」


「え?」


 ギルド長に頭を下げられた。


「娘を助けてくれて本当にありがとう! それに、まさかあんな依頼が混じっているなんてワシとしたことが。本当にすまなかった」


「あ、いえ……」


「だが、責任は取ってもらうぞ」


「責任ですか……」


 やはりやりすぎたのか。俺はポケットから出来上がったばかりの冒険者カードを取り出した。名残惜しそうにギルド長に差し出すと、ギルド長はじっとカードを見つめて言った。


「勇者か。頑張れよ」


「はい……って、とりあげないんですか?」


「何をだ? それよりな、あいつらに攫われた家族を始め村人たちがこぞって、君たちをこの村の英雄として讃えたいと昨日からギルドに押し寄せて困ってるんだ」


「えっと……」


「とにかく付いて来い。今日は帰れないと思うんだな」


◇◇◇◇


 そしてギルド長の言うように帰れそうになかった。


「ほら、もっと食べて食べて」


「いえ、もうお腹はいっぱいでして……」


「お酒が飲めないのが残念だ」


 ギルドの隣にある酒場で盛大に祝われているのだ。初めは嬉しかったが、流石にもう日も暮れているので帰りたい。


「ジェラルド達は良いなぁ」


「お兄様、嫉妬ですか?」


「嫉妬もするよ。だって周りを見てごらんよ」


 ジェラルドやエドワード、リアムの周りは若い女性ばかりが集まっているのに対し、俺の周りは……。


「うちの息子にならないかい?」


「いやいや、あたしんとこの方が裕福だよ」


「こんなオバさんじゃ嫌だよな。オレんとこで農業一緒にしよう」


「オバさんって、あんたより歳下よ。この老いぼれが」


 年配のおじさんおばさんばかりが集まってくるのだ。


「お兄様は母性本能をくすぐる顔をしていらっしゃいますからね」


「どんな顔だよ」


「こんな顔ですわ」


「わっ! 何出してんの!? やめてよ」


 ノエルが俺とジェラルドの絵を出してきた。しかも俺が戦いの最後、氷の上で転びそうになった所をジェラルドが後ろから支えてくれた時の絵だ。


 ノエルが描くと後ろからハグされているロマンティックなラブシーンのようにすら見える。


「なんと! これお嬢ちゃんが描いたのかい?」


「はい。上手に描けていますでしょ?」


 ノエルが得意げに言うと、おじさんおばさん達による競りが始まった。


「これ銀貨十枚で売っておくれよ」


「オレは銀貨十一枚だ!」


「あたしは金貨一枚出すよ」


 まずい。こんなのを世に出すわけにはいかない。


「これは俺の宝物なので、良かったらノエルに一人ずつ絵を描いてもらうのはどうでしょう?」


「ふふ。お兄様の最推しは、やはりジェラルド様なのですわね」


「うん。そうだよ。だからそれを人に譲っちゃ絶対にダメだからね!」


 今はそういうことにしておこう。でないと、英雄どころかただの恥さらしだ。


 ノエルがおばさんの絵を描き始めると、ギルド長がおじさんを押し退けて隣に座ってきた。


「オリヴァー君、ちょっと良いかい?」


「はい」


 間近で見ると本当に厳つい。


「これ、娘を助けてくれた御礼だ」


 ギルド長が差し出したのは、独特の青黒い光を放ったとても綺麗な石だった。


「これは?」


「アダマンタイトだ。これを鍛冶屋に持っていくと良い。良い武器になるはずだ」


「ありがたく頂きます」


 俺はリサを助けた報酬として、アダマンタイトを手に入れた。どんな武器を作ってもらおうかドキドキワクワクだ。

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