第19話 厄介な依頼②
俺は一人、船内をひっそり散策中。
散策して分かった事は三つ。今確認出来た敵は十人であること。この船は隣国に行こうとしていること。商売用の船のため大砲などの類は備わっていないことくらいだ。
そして戻って来た。例の箱がある部屋へと。
「さて、開けてみるか」
箱は釘が打ち付けられて、そう簡単に開かないようになっている。俺は持っていた剣の柄の部分を思い切り木箱に叩きつけると、木箱は少し割れて穴が空いた。
もしこれが人でなければこっそり海に潜って引き返せば良い。そうなれば良いなと思いながら穴の空いた部分に手をかけて力いっぱい板を引き剥がした。
「あー、やっぱそうかぁ……」
そこには若い女性が手足を縛られ、口も塞がれた状態で座らされていた。更には、薬を使われているようで女性は眠っている。
女性を箱から出し、その場に寝かせると俺は次の木箱に手をかけた。次々と木箱を壊しては女性を出して寝かせた。もちろん手足の縄はまだ解いていない。目が覚めてパニック状態で騒がれたら困るから。
「これが最後か……頼むから騒がないでくれよ」
この木箱は俺が最後に運んだ木箱。この箱の中の女性は眠っていない。耳を当てた時に『んー、んー』と必死に訴えかけてきたのだ。
最後の木箱も同様にこじ開けると、しっかりと目を開けてこちらを見ている。涙を流しながら。
俺と同い年くらいだろうか。この子だけ他の女性より幼く見える。
「今助けるからね」
優しく声をかければ、コクコクと頷かれた。女性をそっと箱から出して、口元の布を解いた瞬間。
「私ね、私ね、買い物に行ってる途中だったの! そしたらね……んんッ!」
「静かに、静かにして」
女性が勢いよく喋り始めたので、咄嗟に手で口を塞いだ。
「んー、んー」
「静かにしないとバレちゃうよ。静かにできる?」
すると女性は大人しくなって再びコクコクと頷いた。口に当てていた手をそっと外せば次は黙っていた。
手足の縄を短剣で切りながら俺は小声で聞いた。
「何で君だけ眠ってないの?」
「私のスキルね、毒耐性なの」
「そんなのがあるんだね」
噂には聞いていた。平民は魔法が使えない。代わりにスキルと呼ばれる特別な力が一つだけ与えられるのだとか。リアムはそのスキルすら与えられなかったらしいが……。
「私、リサ。あなたは?」
「オリヴァー。リサ、早速だけど手伝ってくれる?」
「うん。何すれば良い?」
「俺が出て行ったら、ここの木箱で扉を塞いで。誰も入ってこられないように」
リサは周囲を見渡してから頷いた。
「それから、これでみんなの手足の縄解いてあげて」
短剣をリサに手渡し、俺は立ち上がった。
「オリヴァーはどうするの?」
「あいつらぶっ飛ばしてくる。ちょっと揺れるかもしれないから気をつけてね」
そう言って俺は敵のいる部屋へと急いだ。
◇◇◇◇
「一人だけ薬が効かない女がいましたけど、大丈夫ですかね。アニキ」
「大丈夫だろ。手足縛ってるし、あの箱は頑丈だ。女の力じゃ開かねぇよ」
「確かにあれは女の力じゃ開きそうになかったな」
「だろ? わざわざ特注したんだから。って、お前誰だよ!?」
俺は厳つい男達の間にヒョコッと顔を出している。アニキと呼ばれた男にニコッと笑いかけて言った。
「みんな解放するなら見逃しても良いけど、どうする?」
「馬鹿か! せっかく捕まえたのに逃すわけねーだろ……って、お前すばしっこいな」
思い切り殴られそうになったが、すんでのところで避けた。ヒューゴの特訓の成果で腕力だけでなく動体視力や俊敏さも鍛えられているのだ。そう簡単には捕まらない。
「捕まった人達は既に外に逃げたから手遅れだよ。残念だったね」
「なんだと!? てめぇ、待ちやがれ。お前らもぼさっとしてないで追え!」
俺は男達から逃げるように甲板に出た。既に出航しており、船は港から随分と離れていた。
「うわ、結構進んじゃってる。ジェラルドの助け借りられるかな」
今後の展開を心配しつつ男達が甲板に上がって来たのを確認してから空に手を掲げた。
「聖なる光よ、この場を照らせ、
詠唱すると、上空が眩い光に包まれた。
「うわ、何しやがった!?」
「アニキ、目が、目が!」
「何も見えねぇ……」
ジェラルドへの合図だったのだが、目眩しにもなったようだ。すかさず、近くにいた男の腹部に拳を入れると、思い切り吹っ飛び、後ろにいた男を巻き込んで二人同時に倒れた。
「こいつら思ったより弱いな」
「てめぇ、許さねぇ。かかれ」
アニキの一言で一斉に殴りかかって来た。が、船がかなり揺れて男達は皆その場に這いつくばっている。
「ジェラルド! さすが大魔法使いだな」
「お前程じゃないよ」
ジェラルドは港から船までの海一帯を氷漬けにしていた。その氷の上を後からエドワードとエリクも走ってやってきた。
「エドワードとエリクは中をお願い! さっき荷物運んだとこ!」
「任せて!」
男達全員が甲板に出てきたわけではないのだ。二人足りない。きっと捕まった女性の元に行ったはずだ。そっちはエドワードとエリクに任せれば大丈夫。
「ジェラルド、一気に行くよ」
「おう!」
俺は勢いよく走り出し、一人の男の背後に回って蹴りを入れた。すると船腹まで吹っ飛び、気絶した。斬りかかってきた男も同様だ。
ジェラルドもこれでもかと言うほどに氷の球を放ち、既に三人気絶している。
「残るはお前だけだな。アニキさん」
「チッ、俺のスキルがあればお前らなんか……」
アニキの筋肉が急に膨れ上がった。服もパツパツになり、破れた。
「最終形態ですわね。お兄様も髪の毛逆立てたりしてみますか? 物はありますわよ」
「わ、ノエル危ないって。何でそんなことする必要あるの!? 良いから下がってて」
「いいえ、わたくしは皆様の勇姿を書くのが務め。それにお兄様が守って下さるのでしょう?」
ニッコリ笑うノエルに何も言えなくなった。
「たく、オリヴァーはノエルに甘いんだから」
「ごちゃごちゃうるせぇ!」
アニキが俺に殴りかかって来た。
バキッ!
「うわー、凄い威力」
瞬時に避けたが拳は甲板に当たり、大きな穴が空いた。
「ちょこまかと」
今の俺ではあの腕力に勝てそうにない。横からジェラルドも氷の弾丸を食らわすがアニキの筋肉はそれを弾き返している。俺はひたすらかわして、距離を取った。
「聖なる光よ、敵を拘禁する牢獄となれ
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