第18話 厄介な依頼①
鳥のさえずりが聞こえる。どうやら朝を迎えたようだ。
シャッ、シャッ。
なんだこの音は?
俺は恐る恐る目を開くと、そこにはノエルがいた。ノエルはしゃがみ込んで何かを描いている。
「あらお兄様。おはようございます。もう少しで完成致しますので、どうぞそのままで」
「あ、うん」
頭を上げかけたが、ノエルに言われて再び頭を元の位置に戻した。
どうして俺はこんな体勢で寝てるんだ? そしてこの頭を置いている所はどこなんだ。壁ではなさそうだけれど……。
寝ぼけていた頭が徐々にクリアになってきた。昨日のリアムとの会話も全部思い出し、まさかと思って目線をノエルから外して斜め上に向けた。そこには赤い髪の毛が目に映った。
「げっ、リアム」
しかも俺の右手の小指はしっかりとリアムの左手の小指に絡まっている。
「完成致しましたわ!」
「え、うそ。見せて」
俺は寝ているリアムからそっと離れてノエルの絵を覗いた。絵を見た瞬間俺は絶句した。
「……」
「どうです? わたくし前世では同人誌も描いていましたので絵は得意なのですわ」
ノエルにこんな才能があったとは。そこらの絵師より上手い。背景には花が散りばめられ、白黒なのにキラキラと輝いて見える。
「上手いけど、ダメだよ! こんなの人に見られたら勘違いされるじゃん!」
まるでリアムと俺が御伽話の王子様とお姫様のように寄り添って眠っているのだ。しかも小指を絡めて。
「朝起きたらお兄様が隣にいないんですもの。探しに出たらまさかこんな所で密会されていたとは、お兄様も隅に置けませんわね」
「違うから、少しここで話してただけだから。とにかく誰にも見られない内にそれ捨てて。今ならまだ間に合うから」
「嫌ですわ。これは物語の挿絵にするのですから」
「んんー、うるさいなぁ」
リアムが伸びをしている。寝起きのリアムも格好良い。
「じゃなくて、リアムが起きちゃったじゃん。早く隠して隠して」
「仕方ありませんわね。冒険はまだまだ始まったばかりですからね。修羅場になって皆さんが帰るって言い出したら困りますものね」
「そうそう、そうだよ! 帰られたら困るだろ」
「何が困るんだ?」
ジェラルドとエドワードまで部屋から出てきた。
「何でもないよ。みんな起きたことだし朝食とって早く次の依頼受けに行こうよ」
「やけに張り切ってるな」
「きっと夢が叶って嬉しいんだよ」
エドワードは相変わらず勘違いしているが、今はそういうことにしておこう。
◇◇◇◇
朝から色々あったが、ノエルの絵を誰にも見られることなく次の依頼を受けることが出来た。
「エドワード、本当にここなの?」
「地図ではそうなってるよ」
今回の依頼は荷物の搬送の手伝い。指定された海に面した倉庫に来てみたが、そこは静まり返って誰もいない。
「少し待ってみよっか」
俺達は倉庫の外で待つことにした。
——それから待つこと三十分。荷物運搬用の馬車が三台倉庫の前に停車した。そこからスーツをピシッと着こなした紳士的な男性が一人おりてきた。
「遅れてすまない。少々荷造りに手こずってしまって。ギルドの紹介してくれた子達かい?」
「はい。そうです」
「早速だが、この荷物をあそこの船に乗せて欲しいんだ。大事な商品だから扱いは丁寧に頼む」
「分かりました」
荷物は十五個程度だが、大きな木箱や樽の類が多かった。
言われるがまま、荷物を船に運ぼうと一つの大きな木箱に手をかけた。
「重たッ!」
「ちょっとそこの小さいの。絶対に落とさないでくれよ。二人がかりでも良いから丁寧に頼む」
小さいのと言われムッとしたが、相手は依頼主。我慢我慢。
それにしても、ぱっと見筋肉は付いていないように見えるが、ヒューゴに鍛えられたおかげで腕力は人よりあるはずなのだが、それでもこの荷物は重たい。落としでもしたら信用問題に関わる。
「二人一組で運ぼう。エドワードはリアムと頼む。ジェラルド一緒に運ぼう」
「おう」
二人がかりなら何とか運べそうだ。
順調に船へと運び、三つ目の箱に手をかけながらジェラルドが依頼主に聞こえないように話してきた。
「それにしても何が入ってるんだろうな」
「さぁ。食料とかかな?」
「人だったりしてな」
「ま、まさか……怖いこと言わないでよ」
ジェラルドに言われてから、本当に人が入っているのではと思うようになってしまった。運ぶ度に箱に耳をあてる癖が付いた。
「オリヴァー、さっきのは冗談だって。良い加減普通に運べよ」
「うん……ん?」
「どうした?」
「ちょっと耳あててみて」
ジェラルドも依頼主に気付かれないように、箱に耳をあてた。
「オリヴァー……」
「ジェラルドの言う通りかも」
「厄介な依頼受けちまったな」
「どうする? 壊してみる?」
ジェラルドは暫し悩んで首を横に振った。
「どうして? 人だったら大変だよ」
人身売買や人や動物の密輸も犯罪だ。いくら依頼主の頼みでも犯罪を見逃すわけにはいかない。
「気持ちは分かるがあれを見てみろ」
ジェラルドの視線の先を見ると、柄の悪そうな如何にも悪人です、というような人が船に乗り込んでいるところだった。
ジェラルドの言わんとすることは理解できた。それでも俺は見過ごせない。何故なら今は伯爵令息ではない。勇気ある者。『勇者』なのだ。人助けが仕事。
しかし、この箱が最後だ。仮にこの箱の中の人を助け出せたとしても、さっき積んだ船の中の人達は助けだせない可能性は高い。
俺は荷物を床に置いてジェラルドに耳打ちした。
「俺、中からさっきの奴らぶっ飛ばすから、ジェラルドは外から攻撃頼むよ」
「は? お前何……」
「頼んだよ。俺が光放ったら攻撃開始の合図ね」
それだけ言ってジェラルドを船外に追いやり、俺は船内に潜んだ。
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