第15話 初依頼
俺たちは早速初任務の犬探しを遂行中。
「クロー、クロちゃん、どこ?」
「こっちの方もダメだ」
「こっちもいなかったよ」
ジェラルドとエドワードもお手上げ状態だ。
「犬探しって案外難しいね。一週間で見つかるのかな」
探し始めて一時間、既に諦めたくなってきた。そんな時、リアムが戻ってきた。
「オリヴァー、あそこの建物の中にいるんだけど僕じゃ入れないんだ」
「え? リアム、見つけたの?」
驚いていると、リアムは平然と言った。
「迷子犬は時間との勝負なんだ。失踪して十二時間以内だと見つかる確率が高い。そして小型犬だ。ビビって物陰に隠れる習性がある」
さすが軍師のリアムだ。それを全て見越してこの依頼を引き受けたのか。
「感心してないで早く手伝って」
「うん」
◇
今は使われていない建物の前に来た。
「ほら、あそこ」
リアムに倣って窓から中の様子を窺うと確かにそこにいた。探していた犬のクロが。
「扉や窓は鍵がかかってて入れない」
「どうやって入ったんだろう」
「多分そこの壁が一部壊れた所だよ。鍵を壊すわけにもいかないしオリヴァーなら通れそうじゃん?」
「うーん」
通れそうではあるが、あんな狭い場所通れたらチビだと認めているようなものだ。変な意地を張っていると、エドワードが壁の穴に頭を突っ込んだ。
「うん。僕じゃ無理みたい」
うん、じゃないよ。エドワードはこの中で一番背丈もあり、大きいのだ。リアムで無理なら入れるはずもない。
「ノエルが一番小さいけど、冒険者じゃないから手伝うとペナルティ食らうしね。オリヴァー頼むよ」
「お兄様ならきっと通れますわ!」
「分かったよ」
ノエルの応援を複雑な気持ちで受け止めつつ、俺は壁の穴に頭からゆっくり入っていった——。
「どうして通れちゃうんだ。こんな狭いとこ」
すんなり入れてしまった。ヒューゴの過酷な筋力トレーニングも受けているはずなのに筋肉もあまりついていない為、凹凸が少しもない。故につっかえもしなかった。
「くぅーん」
「そうだ。クロを捕まえないと」
俺はクロにゆっくりと近付いた。怯えているようで、壁の隅で震えている。
「ほら、怖くないよ。ご主人様のところに帰ろうね」
警戒心を与えないように声掛けをしてみるが、クロは震えたままだ。そしてあることに気がついた。
「クロ、怪我してるの?」
「くぅーん」
まるで返事をしてくれたかのように、クロは鳴いた。
「すぐ直してあげるからね。大地に宿る小さな命よ、我に力を、汝の傷を癒せ
詠唱すると白い光がクロを包み込んだ。
傷も癒え、クロの警戒も解けたようだ。ゆっくり俺の足元までやってきた。そっと抱き上げ、クロと共に再び壁の穴をくぐり抜けた。
◇
クロをギルドに受け渡した俺達は、宿を目指して歩いている。
「受付の人もびっくりしておりましたわね」
「こんな短時間で帰ってくると思わないもんね。これもリアムのおかげだね」
「さすが策士! いや、軍師か」
「どっちも変わらないよ」
皆でリアムを褒め称えていると、リアムは照れたように笑った。
余談だが、王子が冒険をすることなど通常は認められない。しかし、リアムが国王に冒険をする旨を伝えたところ、即刻許可が下りたのだとか。リアム曰く、国王はリアムが冒険中に死ぬことを望んでいるらしい。
ノエルではないが、何とかしてリアムに酷い仕打ちをした人達に一泡吹かせてやりたいと心底思う。けれど今は冒険中。リアムが王城のことを気にせずに自由に生きられる時間だ。リアムにとってかけがえのない日々になればと思う。
そんなことを考えていたら目的の宿に辿り着いた。
「あいにく本日は二部屋しかご用意できませんが、どうなさいますか?」
「二部屋かぁ、どうする?」
「初日から野宿よりマシだろ。二部屋お願いします」
「かしこまりました」
通された部屋はシングルベッドが一つと、シャワールームがあるだけのシンプルな部屋だった。
「男四人でこのベッドはきついなぁ」
「わたくし一人では勿体無いので、誰か一緒に寝ますか?」
「え、じゃあ僕が……」
「駄目に決まってるじゃん!」
ノエルの誘いにエドワードが挙手をしたので、すぐさま却下した。いくら俺がエドワードの恋路を応援しているからって結婚前の男女を一緒の布団で寝かせるなど以ての外だ。
「俺は床で寝るから三人でベッド使いなよ」
「お前が一番小さいんだから、遠慮せずベッド使えよ」
「ジェラルドの言う通りだよ。何なら僕の上で寝る?」
「まぁ! リアム殿下の上でお兄様が……? 初日から素晴らしい絵が沢山描けそうですわ」
「ノエル……」
この後、暫くベッドに誰が寝るか論争は続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます