第16話 初依頼

 冒険者登録を終えた俺たちは早速犬探しに励んでいる。


「みーちゃーん。みーちゃん」


「こっちの方もダメだ」


「こっちもいなかったよ」


 ジェラルドとエドワードもお手上げ状態で俺の元までやってきた。


「犬探しって案外難しいね。一週間で見つかるのかな」


 探し始めてまだ五時間だが、既に諦めたくなってきた。そんな時、リアムが戻ってきた。


「オリヴァー、あそこの建物の中にいるんだけど僕じゃ入れないんだ」


「え? リアム、見つけたの?」


 ジェラルドとエドワードも驚いていると、リアムは平然と言った。


「迷子犬は時間との勝負なんだ。失踪して十二時間以内だと見つかる確率が高い。そして小型犬だ。ビビって物陰に隠れる習性がある」


 さすが軍師のリアムだ。それを全て見越してこの依頼を引き受けたのか。


「感心してないで早く手伝って」


「うん」


 ——リアムについていくと、そこは今は使われていない建物があった。


「ほら、あそこ」


 リアムに倣って窓から中の様子を窺うと確かにそこにいた。探していた犬のみーちゃんが。


「扉や窓は全部鍵がかかってて入れない」


「どうやって入ったんだろう」


「おそらく、そこの壁が一部壊れたとこだよ。鍵を壊すわけにもいかないしオリヴァーなら通れそうじゃん?」


「うーん……」


 通れそうではあるが、あんな狭い場所通れたらチビって認めているようなものだ。変な意地を張っていると、エドワードが壁の穴に頭を突っ込んだ。


「うん。僕じゃ無理みたい」


 うん、じゃないよ。エドワードはこの中で一番背丈もあり、大きいのだ。リアムで無理なら入れるはずもない。


「ノエルが一番小さいけど、冒険者じゃないから手伝うとペナルティ食らうしね。オリヴァー頼むよ」


「お兄様なら通れますわ! ファイトですわ!」


「分かったよ」


 ノエルの応援を複雑な気持ちで受け止めつつ、俺は壁の穴に頭からゆっくり入っていった。


「どうして通れちゃうんだ。こんな狭いとこ……」


 すんなり入れてしまった。ヒューゴの過酷な筋力トレーニングも受けているはずなのに筋肉もあまりついていない為、凹凸が少しもない。故につっかえもしなかった。


「くぅーん、くぅーん」


「そうだ。みーちゃんを捕まえないと」


 俺は子犬のみーちゃんにゆっくりと近付いた。怯えているようで、壁の隅で震えている。


「ほら、怖くないよ。ご主人様のところに帰ろうねー」


 警戒心を与えないように声掛けをしてみるが、みーちゃんは震えたままだ。そしてあることに気がついた。


「みーちゃん怪我してるの?」


「くぅーん」


 まるで返事をしてくれたかのように、みーちゃんは鳴いた。


「すぐ直してあげるからね。大地に宿る小さな命よ、我に力を、汝の傷を癒せ。治癒ヒール


 詠唱すると白い光がみーちゃんを包み込んだ。数秒すると白い光は消え、傷も治っていた。


 みーちゃんの警戒も解けたようで、ゆっくり俺の足元までやってきた。そっと抱き上げ、みーちゃんと共に俺は再び壁の穴をくぐり抜けた。


◇◇◇◇


 みーちゃんをギルドに受け渡した俺達は、本日泊まる宿目指して歩いている。


「受付の人もびっくりしておりましたわね!」


「こんな短時間で帰ってくると思わないもんね。これもリアムのおかげだね」


「さすが策士! いや、軍師か」


「どっちも変わらないよ」


 皆でリアムを褒め称えているとリアムは照れたように笑った。


 ちなみに、リアムは第三王子。王子が冒険をすることなど通常は認められない。しかし、リアムは『呪われた子』の異名を持ち、王城での待遇は王子に対するそれとは違う。


 国王陛下に冒険をする旨を伝えたところ、即刻許可が下りたのだとか。リアム曰く、国王陛下はリアムが冒険中に死ぬことを望んでいるらしい。


 ノエルではないが、何とかしてリアムに酷い仕打ちをした人達に一泡吹かせてやりたいと心底思う。けれど今は冒険中。リアムが王城のことを気にせずに自由に生きられる時間だ。リアムにとってかけがえのない日々になればと思う。


 そんなことを考えていたら目的の宿に辿り着いた。


「あいにく本日は二部屋しかご用意できませんが、どうなさいますか?」


「二部屋かぁ……どうする?」


「初日から野宿よりマシだろ。二部屋お願いします」


「かしこまりました」


 通された部屋はシングルベッドが一つと、シャワールームがあるだけのシンプルな部屋だった。


「男四人でこのベッドはきついなぁ」


「わたくし一人では勿体無いので、誰か一緒に寝ますか?」


「え、じゃあ僕が……」


「駄目に決まってるだろ!」


 ノエルの誘いにエドワードが挙手をしたので、すぐさま却下した。いくら俺がエドワードの恋路を応援しているからって結婚前の男女を一緒の布団で寝かせるなど以ての外だ。


「俺は床で寝るから三人でベッド使いなよ」


「お前が一番小さいんだから、遠慮せずベッドを使えよ」


「ジェラルドの言う通りだよ。何なら僕の上で寝る?」


「まぁ! リアム殿下の上でお兄様が……? 初日から素晴らしい絵が沢山描けそうですわ」


「ノエル……」


 この後、暫くベッドに誰が寝るか論争は続いた。 

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