第二章 冒険の始まり
第14話 冒険者登録
晴れて十四歳の誕生日を迎えた俺は、ジェラルドとリアム、エドワードと共に隣村のギルドにやってきた。冒険者登録をする為に。ついでにノエルも付いてきた。
「なぁ、旅行じゃなかったのか?」
「ある意味旅行だよ」
そう、ジェラルドだけ今日この日まで観光旅行に行くと思っていたのだ。教えなかったわけではなく、ついうっかり伝えそびれていた。
「おじさん、よく許してくれたよね。最低でも一年は帰らないかもよ」
「学園に通うまでの必須科目は全て終わってるからな。『今のうちに遊べ遊べー!』って言われたよ」
「はは、おじさん相変わらずだね」
「オリヴァーのとこだって、おばさんよく許してくれたよな」
「うん、まぁ……」
——俺はノエルに促され、意を決して言ったのだ。『勇者になる』と。
母は激怒するかと思いきや、父と顔を見合わせて困った顔をした。
『噂は本当だったのね』
『噂……?』
『あなたが剣術を習いに行ったり魔法をジェラルドと一緒に習い初めたから、どうしたのかしらって思ってたのよ。そしたらアルベール伯爵が勇者云々について教えてくれたの』
アルベール伯爵といえば、エドワードの父だ。そこから既に情報が漏れていたのか。
『貴族が勇者なんて馬鹿げているわ』
『ですよね……』
『と、初めは思っていたの。だけど、あなたは弱音も吐かずに厳しい特訓にも耐えて……』
最後に父が俺の背中を押した。
『学園が始まるまでは好きにすると良い』
『やったー!』
俺ではなくノエルが手放しに喜んだ——。
それにしてもジェラルドは既に学園に通うまでの必須科目を終えているのか。俺なんて冒険中に独学しようと思っていたのに。
「ジェラルド、勉強教えてね」
「こんな訳分かんねぇことに巻き込んでおいて図々しいな。まぁ良いけどさ」
「ありがとう。やっぱ持つべきものは親友だね」
ついジェラルドに抱きつきそうになったが、やめた。ノエルが近くで見ていたから。
「それよりさ、俺だけ成長止まってるんだけど。みんな何でそんな大きいの?」
六年で皆成長しており、それぞれ俺より十センチ以上は高い。顔も幼い顔から大人びた顔立ちに。しかも三人共顔が良い。
「オリヴァーは童顔だよな」
ジェラルドに肩を組まれ、エドワードにも頭をクシャッと撫でなれた。
「可愛いから良いんじゃない?」
「確かに。服装変えれば女の子に見えるよね」
リアムまで俺の顎をクイッと持ち上げて、まじまじと顔の造りを観察し始めた。
「もう、みんなやめてよ……ノエル?」
ノエルがキラキラした瞳で俺達のやり取りを見ながら本に何かを書き込んでいる。
「わたくしは、皆様の勇姿をしかとこの一冊の本に残していきます故、存分に力を発揮し、時に互いの仲を深めていって下さいませ」
「まさか、今のやり取り全部そこに書いてあるの?」
「もちろんですわ。お兄様が御三方に囲まれ、スキンシップを受けているシーンは絵に描いて表紙にさせてもらいますわ」
「ノエル……」
家においてくれば良かった。ありもしない心情まであの本には書き記されているはず。誰かに見せられる代物ではない。
そして、早くこの三人のスキンシップから逃れないとノエルの表紙が完成してしまう。
「早く冒険者登録済ませちゃおう」
俺は三人の手から逃れ、受付へと向かった——。
受付では、それぞれ一枚の紙を渡された。
「こちらに必要事項と職業を書いて下さい」
名前や生年月日等の個人情報を書いた後、職業欄に辿り着いた。
ここに書くのか、勇者……と。
何の功績も残していないのに勇者と書いて良いものなのだろうか。今後も何一つ功績を残せなかったらどうしよう。ノエルも見ていないし『剣士』にしておこうかな。
「エドワード・アルベール様、剣士で御座いますね。それではカードが出来上がるまでこの仮カードをお持ちください」
一人ひとり読み上げられるのか。俺は潔く『勇者』と職業欄に記入した。
エドワード同様に皆のプロフィールが読み上げられた後、いくつかの依頼書を机の上に置かれた。
「初めての方ですと、この辺の依頼から受けられた方が宜しいかと」
「迷子の犬探しに、畑を荒らすモグラの駆除、荷物運びか。どれにする?」
皆に意見を聞けば、ノエルが前に出てきた。
「もっと魔物討伐! みたいな大きな依頼はありませんの?」
受付の女性はこういった対応は得意なのだろう。淡々と業務的に応えた。
「ありますけれど、登録したばかりの方はまだFランクですので、そういった依頼は引き受けることができないようになっております」
「どのくらいで出来るようになりますの?」
「ワンランク上の依頼までしか受けることが出来ない仕組みになっておりまして、例えばこちらのスライム大量発生事案でしたら、Aランクの依頼で御座います」
「え、スライムがAランクなのですか? あの雑魚モンスターが?」
受付女性の顔が曇ってきたので、俺はノエルをカウンターから引き剥がした。
「ノエル、スライムは雑魚なんかじゃないよ。見た目は小さくて弱く見えるけど、切ったら増えるし、触れたら皮膚が爛れて取り返しのつかなくなった人は沢山いるんだ」
「そういうことで御座います。まずはこちらの依頼からこなしていき、少しずつレベルアップすることをお勧めしております」
ノエルが反省したように黙ると、リアムが一枚の依頼書を手に取った。
「これにしよう。良い?」
それは迷子の犬探しだった。ノエルは不貞腐れていたがその他メンバーは皆が賛同した。
「承知致しました。期限は一週間になっております。それを過ぎれば任務失敗という形になりますのでご了承下さいませ」
「はい」
「では、こちらが犬の情報になります。初仕事頑張って下さい」
こうして俺達の冒険は始まった——。
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