第13話 冒険者パーティー

 俺とエドワードは何食わぬ顔でノエルとカリーヌのお茶会に加わった。


 来た時よりもノエルがニコニコしている。


「ノエル、さっきのだけどさ……」


「ご安心下さい! ジェラルド様には言いませんから。主人公ならよくあることですわ」


 やはり勘違いしている。俺とエドワードはただ転んだだけ。それをしっかり説明して分かってもらわなければ。俺はこの際どうでも良いが、エドワードが可哀想だ。エドワードはノエルが好きだから。


「ノエル、勘違いしてるようだけど……」


「遠目から見たら花が咲き乱れてキラキラしていましたわ」


「ノエル、一回落ちちゃったけどこれ僕からのプレゼント。貰ってくれるかな?」


 エドワードが照れたように先程摘んだクリスマスローズを籠ごとノエルの前に差し出した。ノエルはにっこり笑顔でそれを受け取った。


「少し遅めの誕生日プレゼントですわね。喜んで頂きますわ」


「はぁ。良かった」


 受け取ってもらったことに安堵しているエドワード。そんなエドワードをよそにノエルは俺に耳打ちしてきた。


「これはきっとお兄様にですわよ。カリーヌ様がいる手前堂々とお渡しできないのですわ。帰ったらお兄様のお部屋に飾りましょう」


「いや、これは正真正銘ノエルに……」


「そうですわ」


 俺が訂正しようとすると、ノエルが何か閃いたようで両手をパチンと合わせて言った。


「良かったらエドワード様もご一緒に冒険致しませんこと?」


「ノエル、何を馬鹿な事……」


「オリヴァー様の夢は健在なのですね」


 カリーヌが話に加わった。


「もちろんですわ。今は魔法の方も磨きをかけているところですわ」


「光魔法は難しいと聞きますが、扱えるようになったのですね。おめでとうございます」


「ありがとう。だけどエドワードは学園も先に始まるし、騎士の訓練もあるから無理だよね?」


 十四歳から冒険者登録は出来るが、学園が始まるのが十六歳。貴族は全員通うのが義務だ。そしてエドワードは俺より一つ年上。俺に付き合って冒険をしたら時間を無駄にするだけだ。


「一年は一緒に冒険できますわ。冒険をして実践を積めば訓練以上の成果が得られるやもしれませんし、それに何よりお兄様はエドワード様がお可哀想だと思わないのですか?」


「可哀想?」


「冒険をしている間はジェラルド様とリアム殿下とは常に一緒ですわ。なのにエドワード様だけ仲間外れは可哀想ですわ。その間にお二人に先を越されればエドワード様の恋は叶いませんもの」


「いや、別に良いんじゃない? エドワードの恋の相手って……」


「え、まさか冒険にはノエルも付いていくの?」


 どうして皆、肝心なところで最後まで言わせてくれないんだ。今回に限ってはエドワードが邪魔をしてきた。若干腹が立ってきたので黙ってお茶を飲むことにした。


「もちろんですわ! お兄様が行くところ、わたくしは何処へでも付いて行きますわ」


 ノエルが嬉しいことを言ってくれている。黙ることにしたので口には出さないが、とても嬉しい。


「ジェラルドとリアム殿下っていったら男だよね?」


「はい! とっても格好良いお二人なのですわ。ジェラルド様はお兄様に次いで大魔法使いになれる逸材だそうで、リアム殿下は策士なのですわ」


「そんな二人と長期間一緒に過ごすのか……」


「ええ、お二人に取られたら嫌でしょう?」


「うん。嫌だ」


 まずい、話が噛み合っていないはずなのにどんどん一つの答えに辿り着こうとしている。


「ですが、お兄様? お父様やヒューゴ様には何と仰るおつもりですか?」


 ここでカリーヌ登場。第三者の意見は大事だ。


「僕の熱意をぶつければ分かってくれるよ。二人とも熱血な人だから」


 熱血の奴に熱血と言われるということは相当なのだろう。


「はぁ。好きにして下さい」


 諦めた。カリーヌが諦めた。これはもう決まってしまった。


 エドワードは立ち上がってノエルの元までやってきた。そして、ノエルに忠誠を誓うように跪いた。


「ノエル、僕は一緒に冒険するよ! そして剣に磨きをかけ、立派な騎士になる。その時に改めて婚約を申し込むから」


「はい。頑張って下さいませ」


 今すぐ申し込め。ノエルの勘違いが増長する前に今すぐ婚約を申し込んでしまえ。と、言ってしまいたい。言ってしまいたいが、エドワードの真剣な眼差しを見ていると横から茶化すのは良くないような気がしてきた。


「お兄様。これで冒険者パーティーが出来上がりましたわね」


「リアムにまだ聞いてないけどね」


「それなら問題ありませんわ。既にお返事は頂いております」


「ぬかりないね……」


 ノエルの『転生者ごっこ』も終わる気配がしないし、これはもう後戻りが出来なくなってしまったかもしれない。

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