第12話 エドワードの恋

 今日は久々の休日。と言っても、午前中はきっちり座学の授業は受けている。いつもは午後からヒューゴの元で剣術特訓をしたり、ジェラルドと共に魔法の授業を受けているので、午後から何もない日は久々だ。


 俺は気分上々にノエルの部屋を訪れた。


「ノエル。遊びに行こうよ」


「お兄様、申し訳ございません。あいにく今日はカリーヌ様のお屋敷にお呼ばれしているのですわ」


「そっか。じゃあ部屋で本でも読んどこ」


 気分は下がり気味に退室しようとすると、ノエルに呼び止められた。


「せっかくですから、お兄様も行かれますか?」


「いや、良いよ。二人の邪魔できないし」


「エドワード様もいらっしゃるそうですわよ」


 最近はエドワードとも普通に喋れるようになってきた。部屋で退屈な時間を過ごすよりも有意義な休日を過ごせるかもしれない。


「せっかくだから行こうかな」


「では、準備が出来たら下に降りてきて下さいませ」


「分かった」


 俺は退室し、自室に戻って外行きの服装に着替えた。


◇◇◇◇


 そしてアルベール伯爵邸。


「ご機嫌よう。お招きいただきありがとうございます。本日はお兄様も来ていますの」


「オリヴァー様もご機嫌よう。どうぞこちらへ」


 通された先は、庭園の見えるサロンだった。庭園にはピンクや黄色、紫の色とりどりのクリスマスローズが咲き乱れていた。


「カリーヌ嬢、エドワードは?」


「兄なら今頃、鏡の前で何度も自身の姿をチェックしているかと」


「え? 何のために?」


「このお茶会の為ですわ」


 カリーヌが淑女の笑みを見せながらノエルをチラリと見た。


 なるほど。エドワードはノエルが好きなのか。エドワードは顔に似合わず、やや熱血で、情熱的なところが鬱陶し……話についていけないが、信頼は出来る奴だ。


 身分もしっかりしているし、どこの馬の骨とも分からん他の男の婚約者になるより良い。二人の恋路を応援しよう。


「俺、部屋まで迎えに行ってくるよ」


 そして、ノエルの好きな食べ物から好きな本、色々情報を教えてやろう。それをカリーヌに目配せすれば、意図を読み取ってくれたようだ。


「では、メイドに案内させますわ」


「ありがとう」


「お兄様はエドワード様とすっかり仲良してですわね! では先にカリーヌ様とお茶していますね」


「うん。また後で」


 ——俺はメイドに付いてエドワードの部屋を訪れた。


 トントントン。


「はーい。どうぞ」


 部屋をノックするとエドワードの間の抜けた声が聞こえたので扉を開けた。


「やぁ、エドワード」


「おお、オリヴァー! 今日来る予定だったの?」


「ううん。突然来てごめんね。ノエルとカリーヌは先にお茶してるよ」


 エドワードはカリーヌの言っていたように鏡と睨めっこしていたようだ。鏡の前に立って手には櫛を持っていた。


 エドワードは持っていた櫛を置いて、ジャケットを羽織った。


「じゃあ、僕らもお茶会に行こっか」


「うん。その前に良い情報を教えてあげるよ」


「良い情報?」


「ノエルについて」


 それだけ言うと、エドワードの目がキランと光った気がした。


「詳しく聞こうか」


 それから十分くらいかけて、ノエルの好きなものや嫌いなものについてエドワードに話した。


 真剣にメモをとっているエドワード。人の恋路を応援するというのはこんなにも楽しいものなのかと初めて知った。ノエルが俺とジェラルドを真剣に応援する気持ちが分かった気がした。ノエルのは空回りではあるが。


「————だからさ、庭園でクリスマスローズを摘んでプレゼントすると良いと思わない?」


 クリスマスローズは別名ローズ・ド・ノエル。ノエルの名前の由来なのだ。告白するには花言葉が微妙ではあるが、ノエルの大好きな花なのだ。


「よし、早速摘みに行こう! オリヴァー感謝するよ」


「頑張ってね」


 俺とエドワードはクリスマスローズを摘みに庭園に出た——。


「うう、寒いね」


「寒い時期もノエルが産まれてきた季節だと思うと恋しいよ」


「エドワードは恋愛に関しても情熱的なんだね……」


 うっとりしながら寒さを肌で感じているエドワードに若干引いていると、クリスマスローズが沢山咲いている場所に辿り着いた。


 屋敷の方に目をやると、ノエルとカリーヌが見えた。話に夢中でこちらには全く気付いていない様子だ。


「バレたら台無しだから早く摘んで戻ろう」


「うん!」


 俺が促すと、エドワードは持っていた籠に花を摘んでいった。俺も一緒にピンクや黄色のクリスマスローズを摘んだ。二人で摘んだらあっという間に籠の中身はいっぱいになった——。


「エドワード、このくらいあれば十分じゃない?」


「ノエル喜んでくれるかな……」


「あ、まずい。ノエルが窓に近付いてきてる」


「え、どうしよ。どうしよオリヴァー」


「きっとまだバレてないよ。とにかく何食わぬ顔で戻ろう。バレたとしても自分の為に寒空の下、わざわざ摘んできたと分かれば逆に好感度アップだ」


「う、うん。そうだね。あ、ぅわッ!」


 エドワードが焦って立ちあがればバランスを崩してよろけた。


「エドワード!? わッ!」


 俺は咄嗟にエドワードの腕を掴んだが、それがまずかった。俺も一緒にエドワードと転んでしまった。

 

「いてて……ごめん」


「ううん、僕の方こそ。あー、ノエルにバレちゃったみたい」


 俺も窓の方へ目をやるとノエルが両手を頬に当てながらうっとりとこちらを見ている。


「まずい。あの顔は……」


 俺はエドワードに覆い被さるように転んでおり、さらには摘んだクリスマスローズがまるで俺たちを祝福するかのように周りを囲っている。


 またノエルに誤解を与えてしまったかもしれない……。


「エドワードごめん……」

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