第11話 魔法特訓②

 芝生の上に寝転がってから三分が経過した。


「えっと、アイリス先生。これで何をするんですか?」


「治癒魔法はね、その人の魔力だけで治すものじゃないのよ」


「他にも必要な物が?」


「大地の生命力を借りるの。だからね、ただ詠唱するだけじゃ使えない」


 だから、試しに詠唱してみた時も何も起こらなかったのか。五歳くらいの時に、自分だけ魔法が使えなくて一人でこっそり練習したこともあったのだ。けれど、何も起こらなくて諦めた。


「強引に奪い取る人も中にはいるみたいだけど、私はそんなことしたくない。だからね、たまにこうやって自然を感じるの」


 アイリス先生は目を瞑って息を大きく吸い込んだ。そして、ゆっくり息をはいてから続きを話した。


「感謝の気持ちを込めながら、必要な時に貸してねってお願いするの。詠唱する時も大地に感謝しながら詠唱すれば魔法が発動されるはずだよ」


「そうなんですね。やってみます」


 俺もアイリス先生を見習って目を瞑った。そして、深呼吸をしながら心の中で大地に感謝した。


 すると、大地が応えてくれたかのように木々のざわめきが聞こえ、身体の中に何か暖かいものが入ってきたような気がした。


「分かった?」


「はい。なんとなく」


「じゃあ、やってみよっか」


 アイリス先生が起き上がったので、俺とジェラルドもそれに倣った。


「先生、この箱は?」


 アイリス先生は、小さめの箱を出してきた。


「動物の愛護団体から借りてきたの」


 中を開けると、一羽の小鳥が入っていた。怪我をしているようで、小さな包帯が巻かれていた。


「いくら練習でも自分で自分を傷つけて治癒の練習をすると大地が怒るのよ。だからね、こうやって傷ついた動物で練習するの」


「なるほど」


 アイリス先生は小鳥の包帯を取った。何かに噛みつかれたのか、そこには痛々しい程に身が抉れていた。


「さぁ、やってみて。詠唱は知ってるでしょ?」


「はい」


 俺は傷付いた小鳥に手をかざし、目を瞑った。先程の大地に、草木や花々に感謝の念を込めながら詠唱した。


「大地に宿る小さな命よ、我に力を、汝の傷を癒せ治癒ヒール


 すると、いつもとは違う優しく白っぽい光が小鳥を覆った。


「ピ! ピピ!」


 小鳥が元気になったようだ。傷は見事になくなっており、小鳥はお礼を言うように鳴いて飛んでいった。


「オリヴァー君、やるじゃない」


「へへ」


 初めて魔法を出せたこと、アイリス先生に褒められたこと、自分の力で何かを救ったこと、様々な喜びが合わさった。


「治癒は大丈夫そうね。練習したくなったら、自分でも愛護団体の元を訪れると良いよ」


「そうします」


「さて、次は戦闘系ね。戦闘系の光魔法は大地の生命力じゃなくて、聖なる光を使うの」


「聖なる光ってどこから借りるんですか?」


 聖なると言うくらいだ。神々しい光を使うのだろう。


「聖なる光はね、何でも良いのよ。そこにある太陽の光でも良いし、月の光、ランプの光でも、光ってたら何でも大丈夫よ」


「でも、聖なるって……」


「光自体が聖なる物だから。自分がこれは聖なる光だ! って思えばそれで良いの」


 拍子抜けすぎる。さっきまで大地を感じて! とか、それっぽかったのに。百歩譲って太陽や月の光はまだ分かる。自然の一部だから。だが、ランプの光なんて人工的に作り出された光だ。それを聖とよんでも良いのか?


 疑問は残るが、アイリス先生も光属性。それでやってきたので間違いはないのだろう。


「分かりました。やってみます」


「治癒の時と要領は変わらないから。じゃあ、ジェラルド君がシールド張って、そこ目掛けて思い切り閃光食らわしちゃおう!」


「え、ジェラルドに攻撃するんですか?」


「大丈夫よ。ジェラルド君すっごく強いから。魔力量多すぎてコントロールに時間がかかったくらいなんだから」


 隣で照れているジェラルド。魔法の実力については聞いたことが無かったので知らなかったが、そんなに凄いのか。


「じゃあ、遠慮なく」


 俺とジェラルドは距離を開けて互いに向き合って立った。


 ジェラルドがシールドを張ったのを確認し、俺も周りにある光を探した。昼間なのでやはり太陽の光が一番目に入る。太陽の光に力を貸して欲しいと念じながら、ジェラルドに手の平を向けて詠唱した。


「聖なる光よ、一筋の光となりて敵を薙ぎ払え閃光ビーム


 ヒュンッ! ドガーン!


 思っていた以上に速くて大きな光がジェラルド目掛けて放たれた。それは、ジェラルドのシールドにぶつかって大きな音と土煙が上がった。


 慌ててアイリス先生がジェラルドに駆け寄った。


「きゃー、ジェラルド君大丈夫!? まさかオリヴァー君の魔力がこんなに高いなんて知らなくて。先生のミスよ。ごめんなさい!」


「い、いえ。二重で張ってたので、何とか大丈夫です」


 そう言いながらもジェラルドの顔やら腕には無数の傷があった。きっと氷のシールドを破壊してしまった破片やら石ころが吹っ飛んだ拍子にできた傷だろう。


 俺もジェラルドに駆け寄り、謝罪と治癒を施した。


「ジェラルドごめん。大地に宿る小さな命よ、我に力を、汝の傷を癒せ治癒ヒール


「サンキュ」


 アイリス先生は目をキラキラさせながら俺の手を握ってきた。


「オリヴァー君、あなた凄いわね! これはジェラルド君と一緒に大魔法使いを目指すべきだわ!」


「ジェラルドは、大魔法使い目指してるの?」


「そんなわけないだろ。先生が勝手に言ってるだけだよ」


 ジェラルドは呆れた顔を見せているが、アイリス先生の目は輝いたままだ。


 まるで俺とノエルを見ているようだ。そう感じたのは言葉には出さなかった。

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