第10話 魔法特訓①
「という訳でさ、リアムと仲良くすることになったんだよ」
「どういう訳なんだよ。説明してから言えよ」
今日は魔法の授業を受けに、ジェラルドの屋敷までやってきた。今は講師が来るのを待っているところ。
「とにかく、六年後の旅も一緒に行くかも。だからさ、ジェラルドも今度一緒に遊ぼうよ」
勇者になる気はさらさらないが、観光旅行は大勢の方が楽しいはず。仲良くして損はない。いや、リアムが成り上がらなかったら損をするのか?
「あー、やっぱ良いや。どうにか説得し……」
「良いよ。俺の知らない所でオリヴァーが他の奴と遊んでると思うと腹立つしな」
「どんな嫉妬だよ」
「オリヴァーだって嫌だろ? 俺が他の奴とばっか遊んでたら」
「うん。嫌かも」
先に断っておくが、この嫌はあくまでも仲の良い友達が他の子と仲良くして自分だけ仲間外れにされた。そんな感覚だ。ノエルの言うような恋愛的な嫉妬ではない。
誰にでもなく頭の中で言い訳をしていると魔法の講師が入ってきた。
「女性なんだ」
「言ってなかったか?」
「うん」
背は低めで銀髪をゆるふわな三つ編みにして、大きなメガネを掛けている。とてもおっとりとした印象だ。
その講師が大きな鞄を机の上に置くと、置いた場所が悪かったようで鞄がひっくり返ってバサバサバサっと中から本が落ちた。
「あ、ごめんね。ちょっと待っ……キャー、これお気に入りなのに。ちょこっと破れちゃった」
「先生変わった人だね」
俺が小声でジェラルドに言うと、ジェラルドも小声で返してきた。
「本が破れたのは初めてだけど、これ毎回やってる」
「大丈夫なの?」
「抜けてるけど、魔法の腕は確かだよ」
俺達が話していると荷物を片付け終えたようで、講師は咳払いをして自己紹介を始めた。
「私はアイリス・ベリー。アイリス先生って呼んでね。早速だけどお庭に出ましょうか。オリヴァー君も座学は嫌と言うほどしてるでしょ? 実技から始めましょう」
「はい。宜しくお願いします!」
◇
庭に出ると、初めにジェラルドの指導から始まった。
「じゃあ、この間の復習からね。ジェラルド君やってみて」
「はい」
ジェラルドがツバキの花に手をかざした。
「凍える氷よ、これを凍らせよ
詠唱を唱えると手から冷気が放たれた。
パッと見は何の変哲もないツバキ。どうなったのだろうか。
アイリス先生がツバキを手に取ってまじまじと見た。
「さすがね。完璧よ」
「どうなったんですか?」
「花自体を凍らせたの。花全体を氷漬けにするのは簡単だけどね、花だけを凍らせるのは難しいのよ」
アイリス先生が俺にツバキを渡してきた。
「魔力のコントロールは上級並ね。パッと見分からないけど、ぎゅって握ってみて」
「こうですか?」
ぎゅっと握るとツバキがパラパラパラッと粉々に砕けた。
「凄ッ!」
花の原形が全くないということは、花びらだけでなく、細部までしっかりと全てが凍っていた証拠。
今まで他人と比べることが無かったから分からなかったが、光しか出せない自分と、難易度の高いとされる魔力コントロールまで出来る友人。劣等感を抱かずにはいられない。
そんな俺の心情を悟ったのか、アイリス先生は優しく言った。
「大丈夫よ。オリヴァー君もすぐに出来るようになるから」
「……」
「光属性が他の属性の人から教わるのが難しい理由だけどね、ただ単に光属性の人が極端に少ないからなのよ。現にこの国で今確認されてる光属性は、私とオリヴァー君と大司教様の三人だけだから」
「え?」
少ないとは聞いていたが三人しかいなかったとは。
「少ないと特別感あるでしょう? 本当は他の属性の人と魔法の出し方は一緒なのに『扱いが難しいから』『他の属性と違うから』って区別させて、わざわざ遠回りさせてるの」
「それはつまり」
「すぐに魔法が使えるようになるわ」
その言葉を聞いて胸の内にあったわだかまりが解消された気がした。こうやって光属性の人に教わる機会がなければ一生魔法は使えないものだと思っていたから。
「良かったな、オリヴァー」
「うん」
勇者云々は置いておいて、今は魔法が使えるようになる喜びを感じようと思った。
「早速してみよっか。日常に使える光は出せるんだよね?」
「はい。こんな感じには」
手の平を上に向けて魔力を込めると、ポゥっと光が灯った。
「分かったわ。治癒と戦闘向けがあるけど、まずは治癒からやっていきましょう」
「お願いします」
「じゃあ、そこに寝転がってくれる?」
「え?」
アイリス先生が指差したのは芝生の上だ。手入れはしっかりされているが、こんなところに寝転がったら大人に怒られてしまう。それに、魔法を出すのだから対象に対して詠唱するのではないのか?
躊躇っていると、アイリス先生は俺の背中をポンと叩いて促してきた。
「良いから寝る寝る。ついでにジェラルド君も寝ちゃお」
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