第6話 隠せぬ気持ち

「なんだか最近ずっとにやにやしてない?ちょっときもくない??」


 仕事を終えて家に帰るなり、いぶかしげな表情を浮かべながらさやかにそう言われてしまう僕。

 …でも、その指摘は間違いなく的確だ…。R926に出会って以降、特にここ最近の僕は、自分でもわかるくらいにまにましている…。


「べ、別になんでもないさ!もとからこういう顔だし!」

「なんかあやしい……。絶対なんか隠してる~」


 さやかは口をとがらせながら手話を繰り出しつつ、怪しいものを見る目で僕に詰め寄ってくる。その様子は本当に愛らしく、その光景を見ているだけでもさらに表情が緩んでしまう。


「あーー!!またにやにやしてる!!なんでなんでーー!!」


 僕の表情を見た彼女は、今度は手話でなく目でそう訴えてくる。僕はそんな彼女を胸元に抱きしめ、一言言葉をつぶやいた。


「もう少しだけ待ってて。その時が来たら、僕の声で直接君に伝えるから」


 彼女は耳が聞こえないのだから、僕の言った言葉は当然今の彼女に届くことはない。分かってはいることだけれど、なんだか自分の声でそう言ってみたくなった。本当に近い将来にその時が来たなら、今度こそ僕の言葉は君に届くのだから。


 …リースリル製薬に新薬のデータを受け取ってもらうことが叶い、僕の夢の実現へと間違いなく近づくことができた。僕は別にお金が欲しいわけでも、名声が欲しいわけでもない。あの時約束してくれたとおり、真摯に薬の開発に向き合ってもらえればそれでいい。いろいろな都市伝説や陰謀論がうごめく製薬業界だけれど、僕も彼女も心から信頼しているリールリル製薬なら、きっと僕の思いにこたえてくれると信じているから。


――――


「なんだよ、にやにやして気持ち悪い」


 さやかに言われた日から全く日をまたがずに、全く同じことをはやとにも言われてしまう。恋人であるさやかならまだしも、はやとにさえ気づかれるというのなら、僕ってよっぽどにやにやしていたのか…?


「気持ち悪いはないだろう…。仕事に殺されて干からびてそうなお前を、こうして晩御飯にさそってやったっていうのに」

「本当のことじゃないか。きもすぎーー」


 …とは言いながらも、はやとはどこかうれしそうな表情を見せてくれている。…彼にはまだあの話を伝えてはいないのだけれど、もしかしたらすべてお見通しなのかもしれない。


「なぁ、なにかいいことがあったんだろ??教えろよ」

「さぁ、どうかな?」

「お前がそんな表情をする理由なんて決まってる。さやかちゃんの事だろ?前に言ってた、実験の結果が良かったってことと関係してるんだろ?」


 …そのことを伝えるつもりで誘った晩御飯だけれど、ここまで言い当てられるとどこかしゃくだなぁ…。


「なあなあそうなんだろ??なんだよ言えよ言えよ~♪」

「わ、分かった分かったって!!」


 はやとは肉の乗った食器を片手に、僕の肩をゆっさゆっさと揺らしてくる。その揺れに耐えかねて、僕は素直に白状することとした。

 …もっとも、自分も本心ではもっと早く言いたかったのかもしれないけど…♪

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