第9話 は、恥ずか死ぬかと思ったぜ


「やめろー!やーめーろー!!死ぬ!恥ずか死ぬ!!!」


 現在、僕はアイの腕の中で喚き散らかしている。

 何故かって?


 アイが僕をお姫様抱っこしたまま街に入ろうとしたからだよ!!

 無理!男の子が女の子にお姫様抱っこされながら街中を行くなんて……公開処刑だ!


 僕達の前、横、後ろからクスクスといった笑い声が聞こえる。


「……っ!!」

「ルイ笑いすぎて声出てねぇぞ」

「いやっ……ちょっとヤバすぎ……っ」

「てか笑ってないで助けてくれない?」

「いやもう……っ!兄さん諦めてるじゃん」

「そりゃ……」


 アイが私にお姫様抱っこされるの嫌なの?って顔で見てくるからぁ!

 もうなんかどうでも良くなってきちゃったわ。


 はぁー……なんか羞恥耐性とか獲得出来そうな気がする。


 僕の抵抗は虚しく、そのまま街に入った。


「うぅ……グスッ」


 僕達はアイ達が泊まっていた宿の一室を借りれることになった。

 僕とルイの部屋の1つのベッドで1人枕を濡らしていた。


 うぅ……街の人達にガン見された。


 僕の心はもうズタボロや。


 ちっちゃい子に「なんであの人男のくせにお姫様抱っこされてんの?」って言葉がトドメになった。


コンコン


「兄さん、落ち着いた?」

「うぅ……死ぬ!私もうお嫁に行けない!」

「どっちかって言うとお婿だろ」

「私もうお婿に行けない!」

「元気そうでなによりだよ」

「冷たくないかな!?」


 人前で女の子にお姫様抱っこされてメンタルズタボロのお兄ちゃんへの対応が雑じゃないか?


 あの森で迷って僕への言葉使いは砕けてきてから僕への対応が雑な気がする。


「なんでなん?」

「自分に聞いてください」

「ふむ……僕は悪くないと言ってるな」

「もう黙っててくれません?」

「冷たっ!?お前、そんなこと言うならこの剣没収なー!」

「わーわーわー!ごめんなさい!許して!」

「うるせぇ!!!!」

「「すみませんでした!!」」


 2人で騒いでると恐らく隣の部屋であろう騎士に怒鳴られた。

 その騎士さんがめちゃくちゃ怖い。


 何人か殺ってそうな顔してる。


 まあ、僕も盗賊を何度もぶちのめしてるから人の事言えないがな。

 最初にやった時は盛大にゲロったな……。


 そもそもあの時はバリアバレットを作ってなかった。

 あの頃の僕の最大の攻撃手段は圧縮結界だ。


 相手を結界で押し潰すってやつだ。


 直接人を斬った訳じゃないから感触とかでゲロったわけじゃない。

 人がブチュッと潰れて内臓が飛び出たのがキた。


 まさかあんな簡単に潰れるとは思って無かったし。


 まあそれは置いといて、僕はルイに剣を返して向かい合う。


「さてルイよ……」

「……何でしょうか」


 僕の真剣な表情を見てルイも敬語に戻る。


「お前……年上趣味なのか?」

「何言ってんすか!?」

「いやお前、あの女騎士さん口説いてただろ」

「確かにそうですけど!」

「好きなんだろ。一目惚れかー?どうなんだよー?」

「そ、それは……そのまあ、はい」

「かー!マジか!一目惚れってあるんだな!まあ僕も一目惚れの様なもんだけどな!よーし告れ!」

「展開早くないっすか!?」


 いやお前……ルイと話してる時の女騎士さんの顔を思い出せよ。

 ニッコニコしてたぞ。


 なんならアイが「あんな嬉しそうな顔初めてかも」って言ってたからな?

 ルイはイケメンだし優しいからな……これは脈あるだろ。


「まあ頑張れ。僕は寝る……流石に寝不足だ」

「あ、はい。おやすみなさい」

「お前も寝とけよ。この数日まともに寝れてなかったんだから」


 僕はベッドに体を預ける。

 あの森では僕はほとんど寝てない。


 冒険者やってたからある程度の徹夜には慣れていたからルイの見張りの時間を減らしていた。


 慣れない場所、しかも野営となると眠りは浅くなるからな。

 ウトウトしながら森を歩くのは危険だ。


 僕?

 状態異常を消す結界に魔力を込めれば眠気も消えるから大丈夫。


 と言っても一時的だけどね。

 

 まあだからベッドに寝転んだ僕は一瞬で眠りに落ちた。




「告白……した方がいいのかな?」


 俺、ルイは兄さんに言われた事を思い出す。

 確かに俺は女騎士さん……ルナさんの事が好きだ。


 ただ、皇女の近衛らしい。

 つまりは貴族だ。


 俺らは元は貴族だが今や平民だ。

 そんな人間が貴族のお嬢様に告白した所で……。


「いや、ネガティブはやめよう。とりあえず……明日告白する!」


 そしてイチャイチャしたい!

 兄さんと皇女様がイチャイチャしてるのを見るとそういう衝動に駆られるのだ。


 マージで甘々だからな。

 なんなんだぁ?あの二人は。


「それにしても……兄さん、本当に男なのか?」


 いや男なんだけど。


 僕は爆睡している兄さんの顔を見る。


 顔が本当に美少女って感じなのだ。

 身長も低いし。

 多分ボーイッシュな女の子で通じるもん。


 その逆、皇女様は長身だ。

 兄さんと頭1つ半くらいの差はある。


「こんな人がSランクなんて……信じられないよな」


 でも兄さんは凄い人だ。

 襲い来る魔物をヘッタクソな口笛を吹きながら片手間で倒すのだ。

 

 しかも治癒する結界すら使える。


 もう訳が分からない。


「俺も……頑張らないと」


 兄さんに守られるだけじゃダメだ。

 俺は兄さんの剣となれるように頑張らなくちゃ。


 そう決意した時、扉が開いた。


「ハルくーん!襲いに来たよ!」

「襲いに来たよ!?」

「あれ?弟君じゃん。今からハル君とイチャラブするから消えた消えた」

「酷くない?」

「あれ?ハル君寝てるの?んっふふー寝てる顔も可愛いなー」


 そう言いながら皇女様は兄さんが寝てるベッドに潜り込む。

 そして抱きつく。


 ま、マジか。


「キスするかと思ってましたけど……しないんですね」

「確かにしたいよ?そして舌をぶち込みたいよ?でもね、寝てる時にやるのは良くないと思うの」

「し、舌……いや、でも兄さんが魔力切れで倒れた後、寝てる時にキスしようとしてたじゃないですか」

「してないからいいんだもーん」

「はぁ……」


 僕はアイさんから発せられるハートマークがちょっとキツくて部屋を出ようとする。

 

 だが、フラつく。

 マズイ……疲労と寝不足でまともに歩けない。


「弟君、疲れてるなら早く寝な」

「いやでも邪魔に……」

「安心して。弟君がいても関係ないから」

「マジか……ぅ。じゃあ……寝させてもらいます」

「おやすみー」


 俺はベッドに体を預け、一瞬で眠りに落ちた。


 

 

───


僕は今まで彼女が出来たことがない……それはつまりファーストキッスもまだだと言うことだ。

僕のファーストキッスはいつ、誰に奪われるんだろうか。

それとも一生奪われないままなのか……っ!


神のみぞ知る



 

 


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