第7話 元伯爵子息の話


 僕がアイ……第3皇女と初めて会ったのは彼女の5歳の誕生日パーティーだった。

 

 友好関係だかウンタラカンタラ言って、父上と僕は王国の代表として帝国に向かった。


 正直、めちゃくちゃ楽しみだった。

 帝国は王国とは違っていい国だと母から聞いていたからだ。

 母は3歳の僕に『王国が滅亡したら帝国に行きなさい』なんて事を言ってたからね。


 3歳児になんて話をしてるんだ。


 とまあ母からあそこまで言う国だから非常に楽しみだったのだ。

 王国には無い魔法書や魔道具があるかも!なんてウキウキしていた。


 あの時の僕は『頑張れば適正魔法以外にも魔法が使えるかも!』と色んな魔法書を読みまくってたからな。

 軽い魔法オタクになってた。


 まあ結局、結界魔法しか使えなかった訳だが。

 しかもパーティー以外帝国の宿から1歩も出させてくれなかったし。


 パーティーの日よりも少し早めに着いてしまったから2日も宿でジーとしてた。

 あのクソ親父は歓楽街に行って散財してたけどな。ふざけんなクソが。


 え?その間に出れば良かったって?

 ふっ……迷うが?

 僕は方向音痴なのだ。


 だから宿でジーとしてたのだ。

 まあ結界魔法の練習と開発もしてたけどね。


 そしてパーティー当日、僕はハッデハデの服を着せられて城に行った。

 マジでセンスねえわ。

 前世で服に全く興味の無かった僕でもそう思った。


 門番に招待状を渡し、パーティー会場に向かう。

 さすがに皇女の誕生日パーティーだ。貴族が多い。


 その皇女様は対応に忙しそうだな。

 良かったぜ。王族とかに転生しなくて。


 次々と貴族が皇女様に挨拶をし、僕達の番が来た。


 僕と父上は膝を付いた。


 父上が皇女様に「誕生日おめでと」的な事を言った後、僕もそれに続いた。

 

「皇女殿下、本日は誕生日おめでとうございます」


 僕はそう言ってから顔を上げる。

 この時、初めてハッキリと彼女の顔を見た。


 とても可愛らしい少女だった。

 

 彼女を見た瞬間、僕の胸が高鳴った。

 これは……恋!……なんて事は無く……


(魔力が2種類ある!!)


 そう、初めての2属性持ちの魔力に興奮して胸が高鳴ったのだ。

 いやしょうがないじゃん。

 この時の僕は軽い魔法オタクだったんだって!

 

 本では読んだことあったけど実際に持ってる人は見たこと無かったからな。


 ……え?なんで皇女様をハッキリ見た後にその事が分かったのかって?紛らわしいって?


 この時の魔力探知はまだまだ練度が低かったからね。

 4歳くらいの時に「よく考えなくても僕って暗殺されね?」と思って状態異常を無効化する結界に時間を割いてたから、魔力探知の練習に割く時間は必然的に減る。


 とまあそういうわけで彼女に興味の湧いた僕は彼女の事を目で追っていた。

 すると分かったことがある。


 挨拶に来る貴族達は彼女に恐怖を向けてるのだ。


 そのことに気付いた時は何故か分からなかった。

 だって筋骨隆々のイカつい顔面をした人間がいる訳じゃないんだよ?

 

 恐怖を向けられてる子は可愛い女の子だ。

 何に恐怖してるのか分からなかった。


 でも彼女は恐怖の理由が分かってるらしい。

 悲しい目をしている。

 僕が挨拶して目があった時は嬉しそうな目をしてたんだけどな……。


 貴族から一通り挨拶され終わると、彼女は料理を食べ始める。

 そこに貴族の子供達がくる。

 

 聞き耳を立てると「友達になろう」「綺麗な服だね」などの声が聞こえた。

 ……そんな怯えながら言っても嬉しくないだろ。


 僕はそう思い、ちょっと帝国貴族共に嫌気がさして料理を爆食いした。

 

 料理を一通り食べてお腹いっぱいになった僕はしっかり皇女様を見失ってた。

 パーティー会場は広いし人も多いから見つけるのは大変だ。


 僕は皇女様と魔法の話をしたかったが、見つからないのなら仕方ないと思いながら、風に当たるため庭に出た。


 するとめちゃくちゃ冷たい風が僕を襲った。

 この時は気温を適温にしてくれる結界を開発できて無かったからめちゃくちゃ寒かった。


 その風が吹いた方を向くと皇女様が魔法を行使していた。


 僕は魔法を使っている彼女に一目惚れした。


 彼女の周りに氷の刃が飛び交う。

 そして刃と刃が衝突し、砕け、落ちる。


 それがとても綺麗で、でも行使している彼女は少し涙を流していた。


「あれ?皇女様?」


 僕は彼女に声をかけていた。

 僕の声に振り返った皇女様は絶望の表情を浮かべた。

 

 僕はそんな事お構い無しに彼女に言った。


「何その魔法!凄っ!めちゃくちゃ綺麗じゃん!」


 その言葉に彼女は固まった。

 困惑の表情を浮かべる。

 

「綺麗?私の……魔法が?」


 そう言って彼女はうっすい氷を作る。

 これは凄いな。こんなに薄く、しかも頑丈に作るには相当な努力がいるぞ。


「へー凄いじゃん!こんな薄い氷も作れるんだ……頑張って訓練したんだね」


 僕は思った事をそのまま伝える。

 その言葉に彼女はまた困惑する。


 その後も彼女は僕に魔法を見せてくれた。

 氷の剣や小さな氷を沢山飛ばす魔法など……それら全てが綺麗だった。


 その事を正直に伝えると、彼女はギャン泣きした。

 僕は慌てて彼女の傍に行き、アタフタしたが「こういう時は頭を撫でると良いのかもしれない……いやでも皇女様の頭を?もしかしたら首が飛ぶかもっ!?」と思いながらも泣き止むまで彼女の頭を撫でた。


 それから泣き止んだ彼女と話をした。

 どうやら3歳の時に魔法が暴走した事が貴族連中に広まったらしい。


 だから貴族共はビビってたわけだ。

 

 彼女の話を聞く限り、彼女は自分の魔法を嫌っているようだ。

 自分の魔法を人を『傷付ける』魔法だと思い込んでしまっている。


「ハルト君の……魔法適性はなに?」


 僕はそれに結界魔法だ、と答える。

 すると彼女は泣きそうな顔で謝ってきた。


 まあ結界魔法が不遇だからだろう。

 だが、謝る必要なんて無い。


 それから僕は彼女に魔法を見せた。

 これは帝国の宿で考えた魔法だ。


 今まで作ってきたのは自分が死なないようにするための結界だった。

 それだけでも良いが、何か綺麗な魔法が欲しかった。 

 そう、ルイに見せる為に作ったのだ。

 前世含め初めての弟に僕は張り切っていたのだ。


 初めて人前で使うが……デビュー戦としては最高だ。


 僕は庭に結界を張る。

 結界内に水の玉、炎の玉を出現させる。

 それを僕と彼女に当たらないように操作し、最後には結界と共に消し去る。


 結界を消した後、僕は彼女に説教じみた事を言った。

 彼女の願いを叶えてあげたかったからだ。


 僕は言いたい事を言って結界の事を口止めしてから会場に戻った。


 

 彼女は人を守りたい。

 笑顔を作りたいと言っていた。

 

 でも彼女には人を守る自分の魔法のイメージが出来てなかった。


 僕の言葉を聞いてイメージ出来るようになって欲しいと願いながら、ちょうど終わったパーティーから帰ったのだった。


 王国に帰ってから僕は皇女様に見せた魔法をルイに見せた。

 ルイは笑顔でキャッキャしてた。


 それからこの魔法はルイのお気に入りとなる。

 だからしょっちゅうお願いされ、魔法を使う。


 その度に彼女の事を思い出す。

 上手くやれてるだろうか、友達は出来たのだろうか。


 ……婚約者は出来たのだろうか。


 そう思うと胸が痛む。

 僕はロリコンじゃない。どっちかって言うとボンキュッボンのお姉さんが好きだ。


 だが、これは……恋だ。

 今まで感じた事の無い感情だった。

 

 それから5年が経ち、冒険者になった。

 ワンチャン会えるかもと思って何度も帝国まで行ったりした。


 でも会えなかった。


 だから今日、ここで会えたのはとても嬉しかった。


 彼女も僕の事が好きって言ってた。

 それがとても嬉しかった。

 思考がイカれるくらいには嬉しかった。


 

 笑顔で隣を歩く彼女を見て頬を赤くしながら僕の魔法で怪我をした者達の元に向かった。


 

 

 

 

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