第5話 第3皇女アイ


 

 僕とルイは綺麗な水色の髪の女性の前で土下座してる。

 なんでかって?

 この人が皇女様なのに無視してたからだよ。


「で、用件を話すが……私達が休憩してる最中に大量の魔力弾が飛んできたんだ」

「た、大変っすね」

「ああそうだ。大変だった。死者は出なかったが怪我人は多数いる」

「そ、それは……」

「今日、我々はこの森に魔物の間引きに来ててな。これでは中止せざるを得ない」

「け、怪我人を守りながらじゃキツイですもんね」

「それなりに大規模な討伐隊だからな。金もかかってるんだ」


 ヤバい。マジでヤバい。

 僕にお金なんて無いよ!?

 金はルイの武器に全ブッパしちゃったからね!?


 ビビりまくって顔が真っ青だと思う。

 この顔は皇女様には見せられん!

 変装の結界で隠しとこ。


「どうしてくれる?」

「とりあえず、ごめんなさい」

「ふむ、それで?」

「僕がやったっぽいので責任を持って治します」

「ふーん……ところで何故今結界を張った」

「っ!」


 バレテーラ。

 マジか……昔会った時から魔力には敏感っぽかったけど、極限まで魔力を隠したのに察知されるとは思わなかったな。


「話さないなら我が帝国との敵対行為とみなすよ?」

「いや規模!規模がデカすぎるって!個人にする脅しじゃない!」

「私は父う──皇帝に好かれてるからな。報告したら『そヤツを引っ張りだせぇ!!』とか言うと思うぞ」

「分かった分かった!」


 朗報、皇帝は親バカらしい。


「皇女様と話すのが怖いというか……緊張で顔が真っ青で。見せられる顔じゃないので結界で隠させていただきました」

「結界で……?おい、待て。お前……顔を上げろ」

「……はい」


 僕と皇女様と目を合わせる。

 ホンットに綺麗な顔だな……あっヤバ、顔が赤くなってる気がする。


「結界……ちっちゃい男の子……目元にあるホクロ……そしてこの声は……まさかとは思っていたが……ハルト君!?」


 うんちっちゃい男の子は余計だね。

 それを僕だと判断する材料に含めないで欲しいかな!!


「ど、どうも。久しぶりですね……皇女様」

「キャー!ほんとにハルト君だ!!」

「「!?!?」」


 さっきまでの殺気はどこへやら。

 一瞬で乙女の顔になり、僕とルイはビックリして顔を合わせる。


「キャラ変わりすぎじゃないか!?」

「ま、まるで、恋する乙女ですよ兄さん!もしかしたらもしかするかもしれません!」

「まっまままマジか!?こ、ここここれ結婚か!?」

「兄さん気が早いよ!落ち着いて!」

「ぐえっ」


 ルイにチョップされ、暴走気味の思考が遮断される。

 ふぅ……助かったぜ。

 

「えっと……皇女様」

「ハルト君!アイよ!アイって呼ばなきゃだめ!」

「あっ……でも皇女様にそれは……」

「だぁめ」

「ダメかぁ」

「ハルト君に拒否権はないのよ?」

「無いのかぁ……じゃ、じゃあ……アイ」

「なぁに?」

「うっぷ」


 今なんか隣で失礼な奴が居たな。

 僕の隣には愛しのマイブラザー……おいこらどういう事だね。


「おい、うっぷってなんだよ」

「い、いや……もう完全にバカップルなんですもん!!なんですか2人共!さっきまでの空気はどこに!?しかも兄さん、この人とは普通に喋れないとか言っときながらバチクソに喋り散らかしてるじゃないですか!」

「待て待て待て落ち着けブラザー。言葉が汚いわ」

「ハルト君、この子だれ?」

「ああ、僕の弟だよ」

「そうなの?まあどうでも良いや。それよりさっき何言おうとしてたの?」

「俺には一切興味無いんですね!!」


 隣で騒ぐルイを押し退けてアイが僕に抱き着いてくる。

 おっふ……バチくそに育ったお胸が当たってる!?

 だ、ダメだ……前世含め彼女いない歴=年齢の僕には刺激が強すぎる!


「あ、ああ。それは……僕の事覚えてたんだね。会ったのは1夜だけだったのにって事」

「そりゃ覚えてるよー?初恋だったんだもん」

「なん……だと?」


 初恋!?

 僕と一緒じゃあないか!?

 こここここれは運命ってやつカナ!?


 僕はアイを引き剥がして少し離れたところで僕たちを呆れた目で見てるルイの元に走る。


「ル、ルイ!聞いたか!聞いたか!?」

「き、聞きましたよ耳元でうるさいなぁ!?」

「は、初恋だってよ!ここここれはやっぱ結婚かな!?結婚なのか!?」

「だから落ち着けって!結婚は早いですって!せめて数ヶ月はお付き合いをしてから結婚でしょ!ていうか僕達は今、身分的には平民の訳ですから皇族と結婚なんて出来ませんよ!」

「……そうだったわ」

「いや急にスンってならんでくださいよ」


 悲しい現実を知った。

 そうじゃん。前の僕はまだ貴族だったから結婚のチャンスはあったけど僕ってば今は平民じゃん。


 は、初恋は叶わないのか……っ!

 前世含めての初恋だったのにぃー!


「というかそもそも今も好きだとは言ってませんね」

「そうだな」

「初恋、としか言ってませんね」

「そう、だな」

「抱き着いたのも友達のノリかも?」

「……そう……カモネ……」


 ルイから容赦の無い言葉を突き付けられた。

 は、はは……泣いていいかな!?


「へぇー追放されたのは知ってたけど本当だったんだね」

「いやなんで知ってるの!?最近だよ追放されたの!?」

「んー?帝国には優秀な暗部がいるからね。それに最近って言っても追放されてから結構経ってるじゃん」

「確かに」

「あっそれとルイくんの疑問なんだけどね。私は今でもハルト君の事が好きだよ?後、結婚については私は継承権は破棄してるから問題は無いよ!」

「いや問題はあるだろ」


 継承権を破棄した所で皇族は皇族だ。

 しかもアイは魔力も高いし属性も2つ持ってる。


 対して僕は周囲からの印象は結界魔法しか使えない出来損ないである。

 うん、釣り合わねー。


「……あれ?今、僕のことを今でも好きって言った?」

「うん」

「……ルイ!」

「もう勝手に結婚してろ!!!」

「ハルト君!結婚する?今すぐする?」

「い、いや……今すぐは、ちょっと……」

「そう?じゃあ、今度ね!」

「いや、そんな遊びの予定を決めるみたいなノリで結婚を決めないでくださいよ……」


 あっアイの後ろの方でアイの変貌っぷりに驚いて動けなかった女騎士さんがお腹を抑えてる。

 大変やな……


「ひ、姫様!とりあえず怪我人の手当を!」

「あっそうでした!ハルト君、お願いできる?」

「う、うん。任せて」

「お互い、大変ですね。名も知らない綺麗な騎士よ」

「き、きれ……っ!?」

「なんか後ろの方でラブコメの波動を感じる!」

「なんですかそれ」

「知らん!」

「は、はは……」

「あなたも大変ですね……ルイさん」


 

 ピンク色のオーラを纏わせた2つの男女は、怪我人の元に急ぐのであった。


 




───


因みに僕も彼女いない歴=年齢という称号保持者です。


いやでもまだ希望はある。だって10代だもの。

きっと……きっと出会いがあるはずだ!!

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