第2話 【隔ての山脈】麓の村


 ルイと共に夜道を走っていたのだが、疲れた。

 僕も冒険者として体力はそれなりにある。

 だが!流石に1晩ずっと走ることは不可能だ。


「て事で魔法に頼ります」

「魔法に頼るって言っても兄上、結界魔法しか使えないじゃないですか」

「ふっふっふマイブラザーよ。甘い!甘いよ!ケーキよりも甘い!」

「けえき?なんです?それ」

「ああいや、なんでもない。とりあえずそれは置いといて、ルイよ。魔法とは何だ」

「え?魔法は魔力を使って不思議な現象を起こすこと?」

「うんまあ、合ってるっちゃ合ってる。だがね、ルイ君」

「はい」

「魔法とはイメージだ」

「イメージ?」


 そう、イメージだ。

 どのラノベでも言ってる事だが実際にそうだった。そうでなければ僕は多くの結界を作れなかっただろう。

 

「まあつまりだ。結界を使って飛ぶイメージがあれば空を飛ぶことも可能なんだ」

「空を……っ!兄上!やりましょう!」

「よし来た。じゃあそこに立っとけ」

「はい」


 僕はルイとの間に階段のような結界を生み出す。

 そして階段を登ってルイの上に立つ。

 物理的に。


「え?え?」

「実はルイには沢山の結界を張ってあってな。その上に立っているという訳だ」

「なるほど!」

「これで結界を動かせば……」


 見事に空を飛ぶことが出来た。

 人の上に人が乗って空を飛ぶ図は中々ダサいが、今はそんな事よりも家に戻って荷物をまとめることが重要だからな。


「全速力で行くぞ!」

「え──」


 僕たちはアホみたいな速さで夜空を飛んだ。


「うおおおお!!???」

「ふぅ……着いたぞ、マイブラザー」

「え?もうですか!?」


 下を見るとそこには立派な屋敷があった。

 そう、これが僕達の家だ。


「よし、急いで荷物をまとめろ」

「はい!」


 僕たちはそれぞれの部屋に行き、荷物を持って屋敷の外に出た。

 それにしても……僕もだが荷物が少ない!


「ルイ。お前にはもっと荷物があるんじゃないか?なんでそんな少ないんだ?」

「父上から貰った物はいりません。兄上だってそうじゃないですか?」

「まあそうだな」


 僕の荷物は母上から貰った魔石と裁縫セット。そしてお金とギルドカードだ。後は服だな。


「それにしても……ルイ、武器はないのか」

「はい。真剣は触った事はあるのですが家の物は苦手で」

「そうなんだ。じゃあこれをあげよう」


 僕は袋から一振の剣を取り出す。

 青白く光っている。


「こ、これは……ミスリルじゃないですか!?」

「そうだ。この剣は僕のお金をほぼ使って作ってもらった物だ。ミスリルだから魔力も通りやすく、頑丈だ。それにお前の成長と共に剣も成長する特別仕様だ」

「そ、そんな凄い物っ!受け取れません!」

「ルイよ。僕には剣の才がない」

「そんな事はっ……ありますね」

「おいこら事実でも否定してくれよ……ま、まあだからお前が使ってくれないと無駄になるんだ」

「……分かりました。ありがたく頂戴します」

「よし。じゃあ行くぞ、ついてこい」

「はい!兄上!」


 うーむ兄上、か。

 僕的にはお兄ちゃんって言われたい。

 なんか兄上ってさ……距離置かれてるみたいで寂しいじゃん?


「ルイよ。僕の事はお兄ちゃんとか兄さんって呼んでくれないか?」

「?何故ですか?」

「身内の相手にも丁寧な言葉を使うのは貴族だけだと思うんだ。僕達はもう貴族では無い。世界を旅する冒険者だ」

「そう、ですね……分かりました。に、兄さん」

「くぅ……良い……っ!」

「は、早く行きますよ!」

「おう、そうだな」


 僕達は山に向かって走り出した。

 

 山の麓にはいくつかの村がある。この村は冒険者してる時によく世話になる村だ。

 討伐した魔物の素材を少し分ける代わりに空いてる家を貰ったんだよね。

 

 最近は来てなかったけど。


「村長いる?てかいても寝てる──」

「なんでしょうかハル様」

「うわぁ!?」

「おー村長。起きてたのか」


 おじいちゃんがいつの間にか僕達の後ろにいた。

 なんでもこの人、昔は凄腕の暗殺者だったらしいよ。


「今日はなんの用でしょうか」

「ああ。ちょっと国を追放されてね。ここに1日ほど滞在するから」

「追放!?力を隠していたとはいえ、ハル様を追放するとは……本当にこの国も終わりですね」

「に、兄さん。ハルって?」

「ん?ああ、冒険者の僕はハルだ……そうだな、僕はこれからハルだ」

「分かりました!ハル兄さん!」

「おっふ……よし、家に行くぞ。村長、なにか情報があるなら教えてくれ」

「分かりました。では明日の朝にでも」

「ありがとう」


 僕は村長と別れて家に向かう。

 

「これが兄さんの家ですか」

「そう。屋敷より全然小さいけど僕は気に入ってるんだ」

「確かにあの無駄に大きくて派手な屋敷よりいいですね。なんか落ち着きます」

「だろ?」


 僕は前世が日本の庶民だったからな。

 このくらい小さい家が1番良い。


「今日は疲れたから寝よう」

「そうですね。兄さんおやす─すぅ」

「いや立ったまま寝るなよすげぇなおい」


 僕は立ったまま寝てるルイを布団に寝かせて、僕も眠りについた。


コンコンッ


「ハル様、起きていますか」


 村長のその声で僕は目を覚ました。

 「今起きた。入っていいぞ」と返事をすると「失礼します」と言って家に入ってきた。


「どうした。何か用か」

「元暗殺者仲間から連絡が。帝国が王国に宣戦布告をしたそうです」

「マジか。帝国はなぜ戦争を?」

「エルムス伯爵が帝国領辺境の村を襲撃、村人を奴隷とした、との事です」

「やはりそれか」

「知っていたのですか」

「その奴隷が伯爵領の奴隷商で売られててな。それを買って王国で暮らしてもらっている」


 その奴隷を救って帝国に返したら証拠が無くなっちゃうからね。

 その奴隷の子達も王国を潰すためなら、との事で協力して貰ってる。


「しっかし宣戦布告したのか……あの一本道で潰されないか?奇襲すれば良かったのに」

「そこはなにかあるんじゃないですか?私はそれらしい情報は持ってますが……」

「教えてくれ」

「はい。この村と同じ様な村に帝国兵が来て、魔物を討伐することで村の安全を保つ。その代わりに謎の装置を置いた、との情報が」

「装置か……転移装置かな?」

「転移装置……確かに戦争前なら有り得ますが……転移の魔法は高等技術です。帝国にそんな者が……いるのでしょうな」


 帝国には優秀な人材が多いからな。

 この国も終わったな。


 改めてそう思った僕なのでした、まる。


 

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